第18話
「王女様って、思ったよりも不便なのね」
驚きとともに、まなみは残念そうな声をあげた。
「そうなの。結構不便なの!」
王女は同情を寄せてくれたまなみに、少し気をよくした。
「で、わたしね。大臣達がいなくなった隙に城を出てきちゃったの」
「えっ、内緒出てきちゃったの?!」
思わずびっくりした声をあげたまなみに、王女はいった。
「そりゃそうよ。誰かに言ったら、城から出してもらえないもの」
当然とばかりに言う王女に、まなみはお城の人々が、王女がいなくなったことを心配しているかもしれないと思った。早いところ、王女には妖精の国に戻ってもらうのが、一番に違いない。
「それで、どうして羽がなくなっちゃったの?」
「そうそう、それよね。妖精の国からこっちの世界に来てみたら、小鳥や、ウサギやリスがたくさんいて、それから木もとっても大きいし、わたし興奮しちゃったの。自由に空を飛び回って、小鳥達と歌を歌って、かわいいウサギやリスとお友達になったのよ。で、とっても満足だったんだけど、ここの小川を見つけたの。とってもきれいだし、のども乾いていたから、そこの岩の上から、前屈みになって水を飲もうとしたら、バランスを崩して、ぼちゃんって小川に落ちちゃったの。それで足をくじいてしまったの」
「足、痛いんじゃないの? 大丈夫?」
まなみが心配そうに王女の足を見つめると、王女は笑って答えた。
「それはもう大丈夫なの。実は小川に落ちた時、小人が私を助けてくれたの。えっとー、名前は確かノアよ」
「小人さんが助けてくれたの?」
さっきは地を這う小人と一緒にしないで怒ってたのに、その小人に助けてもらうなんて、ちょっと調子がいいなとまなみは思った。
「そうよ。ノアは薬草にとっても詳しいらしくて、すぐに薬草をつんできて、わたしの足に塗ってくれたの。そしたら、たちどころによくなっちゃったのよ」
王女は足をぱんぱん叩いて、痛みがないことを証明した。
「その後、ノアが小川の水をくんで、紅茶をごちそうしてくれたの。それはとっても甘くて花の香りがしたわ。でもその紅茶を飲んだらとても眠くてなってしまったの。それでわたし寝てしまったの。起きたら、わたしの自慢の羽がなくなっていたの。羽がないなら、妖精の国にも戻れないわ。わたしは思うに、そのノアが怪しいと思うの。だってわたしの羽がとてもきれいだきれいだって言って触ってたから……」
王女は泣またきそうな顔をした。
「とりあえずそのノアって小人を見つければいいのね」
まなみは、また泣かれては大変とばかりに慌てて口を挟んだ。
「そうなの。でもどこに住んでいる小人かなんて知らないもの」
そういって、また泣きそうになる王女を見て、ラビネが尋ねた。
「何かノアが身につけていたものとかは、ありませんか」
「ノアの持ち物?」
王女は、きょとんとした顔をした。
「もしあれば、わたしは鼻が効くので、ノアの匂いをたどって行けば、ノアを見つけることができるかもしれません」
「まあ、なんて便利なんでしょう!」
王女は目を輝かすと、手に持っているものを差し出した。
「これ、ノアが紅茶をいれてくれたカップよ」
それは二羽の白鳥が描かれた美しいティーカップだった。
「これしかないけど、大丈夫かしら」
ラビネは、王女が差し出したティーカップをドラゴン特有のよく効く鼻で、嗅ぎ回った。
「なんとかなりそうです。王女とは違う匂いがあるので、その匂いをたどればいいでしょう」
王女を安心させようとラビネはすぐさま答えた。
「なら、すぐに行きましょう!」
王女は少し心配そうだった顔を笑顔に変えると、意気揚々といった。
「その前にわたし達には連れがいるのです。実はそこの小川の水をくみにちょっと立ち寄ったところなので、今もわたし達が戻ってくるのを待っているはずです。その連れと落ち合って、事情を話してからノアという小人を探したいのですが、どうでしょうか」
ラビネの提案に、王女はすぐに答えた。
「いいわよ、別にわたしは。探してくれるなら」
王女の返事を聞くと、ラビネとグリラス、まなみは王女を連れてドルダやとしゆき達が待っている場所まで戻った。
「いったいどこまで行ってたんだよ!」
開口一番、としゆきがむっとした調子でいった。
「ラビネもいるし、大丈夫とは思ってはいたんだが、それにしては遅かったですな、まな様」
ドルダはドルダで、心配そうにいった。
「それについてはわたしがいけないのです!」
突如辺りにきんきんした高い声が響いた。まなみの肩に乗っている王女がしゃべった。一瞬、としゆきはぎょっとして、その声の持ち主をまじまじと見つめた。
「ええ、ちょっと事情がありまして、それについてはわたしが説明します」
ラビネはそう言うと、今までのことをかいつまんで話した。