第17話
「ええ、ええ。この辺りには水脈がありますからね。そのうち小川を見つけることができるでしょう」
「それならいいけどさ」
としゆきは少し口調を落とすと、深い森の中を歩いて行った。
しばらくすると、ラビネの言った通りに小さな小川が見えてきた。
「わたし、小川で水をくんでくるね」
「気をつけるんですぞ、まなみ様」
としゆきの肩にのってるドルダが声をかけた。
「うん」
まなみは元気よく返事をすると、森の道から少しそれて、ちょろちょろと流れている小さな小川のそばへと歩いて行った。小川の水は透き通っていて、川底が鏡のように光っていた。手を差し入れると、冷たく心地よかった。まなみは、両手で水をすくうと、のどを潤した。
「ううん、美味しい」
「よかったですね、まなみ様」
ラビネがいうと、まなみはこくりと頷いた。
「さあ、水筒に水を入れましょう」
まなみは言われるままに、水筒に小川の水をたっぷり補給して立ち上がった。その時だった。何かがきーんと響くような高い音が聞こえてきたのだ。
「うっ、うっ、えーん」
高い音だったが、よく聞くとそれは誰かの泣き声のようだった。まなみは、きょろきょろと辺りを見回した。
「今の聞いた? ラビネ」
「ええ、ええ、わたしも聞きましたよ」
「ぼくも聞いたよ」
グリラスも、遠慮がちに呟いた。
そこで、もう一度耳を済ますと、小川のそばに生えてある白い木肌の木の根本から聞こえてくるのがわかった。
「なんだろう」
まなみが近づいてみると、そこには手のひらにのってしまいそうな小さな女の子が根の間に座っていた。白い肌に栗毛の髪をお団子状にまとめたその女の子の頭のてっぺんには小さな銀色の王冠がのっていた。服は小さいながらも、ひだがたくさんついている素敵な水色のドレスだった。
「えーん、えーん」
女の子は泣きやみそうになかった。まなみは心配になって、恐る恐る声をかけてみた。
「どうして、泣いているの」
すると小さな女の子は、びっくりして顔をあげた。彼女は、まじまじとまなみを見つめた。そうして一言こういった。
「あなたは人間ね」
突然そんなことをいわれて、まなみは面食らったけれども、こんな小さな子の前で、取り乱すのも格好悪いと思ったまなみは、平静を装って答えた。
「そうよ。私は人間よ。そういうあなたは小人さんなの?」
女の子は、更にびっくりした様子で、目を大きく見開いた。そして一言怒ったように叫んだ。
「まあ! 地を這う小人なんかと一緒にしないで」
「じゃあ、あなたはなんなの?」
まなみは戸惑いながらも、そう訊いていた。
「私は妖精の王女よ!」
小さな女の子は胸を張った。
「妖精さんなの?」
「そうよ。私は妖精よ。しかもただの妖精じゃなくて王女なんだからね」
「だとしたら、羽はどこにあるの? 妖精といったら、羽があって空を飛ぶんだと思ってたんだけど」
まなみが思っている疑問を口に出すと、とたんに小さな女の子はわなわなと震えだした。そして顔を手で覆うと、消え入りそうな声でいった。
「そうなの……。私の大事な羽が背中から消えてしまったの」
「えっ?! 突然消えちゃったの?」
今度はまなみがびっくりして大きな声をあげると、王女は首を振った。
「突然ってわけじゃなくて……。心あたりはあるの」
「どういうこと」
まなみが不思議そうに訊くと、王女は順を追って話し出した。
「わたしは妖精の王女で、いつもは妖精の国にあるお城で過ごしているの。素敵な音楽が鳴っていて、わたしは豪華なドレスを着て、好きなだけ踊り続けるの。飽きたら、美味しいお菓子やごちそうを食べて、疲れたらふかふかのベッドで眠るの」
「わあ、いいなあ。楽しそう~」
目を輝かせていうまなみに、王女は不服そうな表情を浮かべて、こういった。
「でも毎日やっていたら飽きちゃったのよ、わたし」
「飽きちゃったの?!」
とても楽しそうなのに、なぜといった顔をまなみがすると、王女は口をとがらせた。
「だってずっとお城の中だけなんだもん。わたしは王女だから、お城の外に出ちゃいけないの。他の妖精達は人間の住む世界や、魔法使いのいる世界に行ったりできるのに、わたしはできないの」