第15話
まなみは、電池がなくなっては、困ると思って、としゆきの持ってきた懐中電灯の光を消した。
「すー、すー」
気持ち良さそうな寝息が聞こえてくる。まなみも、うつらうつらするのだが、どうしても眠ることができなかった。疲れてはいるけれども、これからのことを考えると不安でしょうがないのだ。洞窟内の暗闇に目が慣れてくると、一匹のドラゴンの金色の目だけが、まだ閉じていないことに気がついた。よくよく見ると、グリラスが起きているようだった。岩のそばで、しっぽをまいて、洞窟内を見つめている。
まなみは、暗闇の中、グリラスの下へと、そろそろと動いていった。近づいてきたまなみに、少しびっくりしたようだったが、グリラスは、まなみをじっと見つめた。
「眠れないの? グリラス」
「番をしている、皆が安全のように」
それを聞いたまなみは、なるほどと思った。
「まなみは、眠れない?」
グリラスに訊かれ、まなみはこくりと頷いた。
「うん」
「寝たほうがいい」
いわれて、まなみは困ったようにかぶりを振る。
「だったらなにかお話をして」
「お話?」
まなみは、小さい頃夜眠れない時、おかあさんが物語を聞かせてくれたことを思い出し、グリラスにお話をねだった。戸惑っているグリラスに、まなみはいった。
「なんでもいいの。作り話でもいいし、グリラスたちのことでもいいの」
グリラスは、困ったように、しばらく目を閉じていたが、まなみが、今か今かとお話を待っているのを知って、重い口を開け、こんな話をし出した。
「むかしむかし、あるところに仲良しの四人の兄弟がいた。四人は騎士でそれぞれの国の王の下に、仕えていた。四つの国は長い間平和だった。しかしある時から、互いの国が、自分の領地を広めようと戦争を繰り広げることになった。四人の兄弟はそれぞれ敵同士になり、戦わなければならなくなった。お互いに剣を向けることのできなかった兄弟は、人間以外のものになろうとした。人間であるが故に、戦わなければならないのなら、人間以外のものになればいいと思った。そうすれば、王達も騎士がいなくなったと思うに違いない。彼らは、そう考え、人間以外になるために魔法を学んだ。そして彼らは魔法を使い、人間から恐れられているドラゴンの姿になった。ドラゴンになった彼らは、それぞれの国の争いから、逃れることができた。おしまい」
グリラスは、淡々とした口調で、まなみに語った。語り終わると、グリラスは目を伏せた。
「今の話って、おとぎ話。それとも……」
まなみは、ぶるっと体を震わせながら、それでも訊かなくちゃと思い、あとの言葉を続けようとした。
「話した。もう寝る時間だ」
グリラスはそっけなくそういうと、しっぽをまるめて、また岩のそばで番をし出した。まなみは、きき出そうとしたが、グリラスは黙りこくったままだった。何も聞き出せないことに気づいたまなみは、布を枕に横になった。
今の話って、ひょっとしてグリラスたちのことかしら。でもそしたら、それって、人間ってことだよね。ドルダや、グリラスたちを最初見た時、虫みたいだと思った自分がなんだか恥ずかしい。虫でも、ドラゴンでもない、彼らはわたし達と同じ人間なんだとしたら。そしておばあちゃんの言葉がよみがえってきた。
「ちょっと見た目がちがうだけ……」
まなみは、横になりながら、そっと呟いた。ドルダや、ラビネ、グリラスやダークが人間だったとしたら、いったいどんな姿をしているのだろうか。想像もつかない。人や生き物を見た目で判断してはいけない。頭ではわかっているけど、なかなかできない自分。でもこれからはそうじゃないかも。だって、だって、魔法でドラゴンになったりする人たちもいるわけだし、ひょっとしたらいも虫になっている人だっているのかも。
庭で見たいも虫のことを思い出しながら、まなみは、反省した。そして思った。兄弟同士で戦いたくなかったから、人間をやめてまでドラゴンになった彼ら。それぞれの国の争いから逃れることができたってグリラスは話したけれど、じゃあなぜ、今は魔法使いに追われているのかしら。幸せになりました。おしまいという言葉で終わらなかったことが、とても気がかりで、寝るどころではないと思ったが、そのうち、うとうとし出し、深い眠りの中へと落ちていった。