第14話
「こんなことで、得意になるなよ」
それだけいうと、また地図をたよりに洞窟内を歩き出した。まなみは、としゆきのふてぶてしい態度に、腹を立てたが、その一方で心配になった。
「あのさっきのカラスさんたち、大丈夫かなあ」
「まなみ様が倒したカラスたちのことですか?」
「うん……」
まなみは、としゆきの後を、黙ってついて行きながら、地面にしたたかに、叩きつけられたカラスたちが、なんだかかわいそうになってきた
「まなみ様はやさしいのですね。敵に対してもそういった気持ちを持つということは、なかなかできないことです」
ラビネにそういわれ、そうだろうかとまなみは疑問に思った。
「でも大丈夫です。あのカラスたちは魔法使いの指図で動いている者たち。魔法使いが、魔法でカラスたちの傷を、治すはずです」
「魔法で治せるの」
まなみはきょとんとした顔をした。
「ええ、ええ、治せます」
ラビネが、にこにこしながらそう答えると、まなみはさっき傷ついた手や足を見た。カラスたちの攻撃は確かに痛かった。この傷も治せるのだろうか。
「わたしのこの傷も治せるの」
カラスにつつかれた、まなみの柔らかい肌の傷を見つめながら、ラビネが悔しそうな表情を浮かべた。
「ごめんなさい、まなみ様。わたしの魔法力はまだ戻っていない。たぶん、数日経てば使えるようになると思うんですが……。そしたらすぐにでも、その傷を治してあげます」
もうし訳なさそうに、頭を下げるラビネに、まなみはりんとした声でいった。
「わたしにその魔法を教えてくれない」
「もちろんですとも、教えましょう。でも今はとしゆき様の後について行く方が先ですね。さすがに歩きながら教えるわけにもいかないので」
気がつくと、としゆきの懐中電灯の光がずいぶん先に見える。まなみは慌てて、としゆきの後を追って行く。
「遅いぞ、まなみ」
としゆきは、一喝しながら、どんどん先へと進んで行く。
くねくねと曲がっていく洞窟は、永遠に続いて行くように思えた。行けども行けども同じ道を歩いているような気がして、まなみは心細かった。それでも、としゆきの前では、弱音をはくわけにはいかなかった。また怒られる。そう思うと、一言たりとも口をきかず、前を行くとしゆきの後ろを、黙ってついて行くだけだった。
二人は、ずっと歩いて行くうちに、徐々に足に疲れが見え始めていた。最初のうちは、歩く速度も速かったが、いくつもの洞窟をくぐりぬけていくうちに、足の運びが遅くなり、二人の足は、ついには、止まってしまった。
としゆきの肩から地図を眺めていたドルダはいった。
「どうやら半分は来たようだから、ここで今日は休憩にしよう」
ドルダの声に、としゆきは内心ほっとした。先頭を切って歩くのは、ある意味、責任重大だった。もし道を間違ったら。そう思うと足がすくみそうだったが、まなみの前で格好悪いところを見せたくはなかったのだ。いつもいばっている手前、素直になれないとしゆきだった。
としゆきと、まなみとドラゴン四匹は、洞窟のなるべく平らな部分を見つけると、そこに荷物をおろし、遅い夕食をとることにした。
ムトラスたちの用意してくれた食料を布袋からとり出すと、としゆきはリュックからナイフをとり出し、かたまりのパンや、干し肉を食べやすいように切りわけ、まなみやドラゴンたちに、手渡した。
「ほら、食えよ」
まなみは、としゆきから渡されたパンを頬張った。
「美味しい」
ムトラスの城から出てから、何も口にしてなかったせいか、そのパンの味は、格別だった。
としゆきも、夢中になって、食べていたが、ドルダは二人にいった。
「洞窟の外に出るには、しばらくかかるとムトラスはいっていた。食べ物も少しずつ食べるように」
そういわれて、としゆきは手に持っているパンと干し肉をまじまじと見つめると、残った食べ物を布袋の中へと戻した。
「おまえもあんまり食べるなよ」
少し気づかうような口調でいうと、まなみに飲み物の入った瓶を渡した。
「ぼくは疲れたから、もう寝る」
そういうと、布袋の中から小さめの布をとり出し、それを丸めて、枕にすると、あっというまに眠りについてしまった。
「まなみ様も少し寝るといいですよ」
ラビネが心配そうにそういうと、まなみも頷いた。
「うん、食べ終わったら、寝るね」
ゆっくりと、かみしめながら、少ない量のパンと干し肉を食べ終わると、としゆきのまねをして、布を枕がわりに横になった。
洞窟の中は、しーんと静まりかえっていた。としゆきの、寝息だけが、ゆっくりと聞こえてくる。そのうちドラゴン達も食べ物を食べ終わり、一匹、一匹と眠りについていった。