第13話
ムトラスと別れた後、としゆきとまなみとドラゴン達は、くねくねと曲がりくねっている洞窟内を、地図をたよりに、右に行ったり、左に行ったりと歩き続けた。どこまで行っても暗闇しかなく、としゆきとまなみは、不安になってきた。
「お兄ちゃん、ほんとにこの道であってるの?」
「地図の通りに歩いて来てるから、大丈夫だろ」
としゆきは、懐中電灯を片手に地図の道順を確認した。
「ほら、見ろよ」
まなみは突き出された地図を見ながら、今まできた道を思い出す。右の道を行って、それから左に曲がって、また右に行って……。途中で分からなくなり、まなみはまた泣きそうになってきた。そんな様子のまなみを見て、としゆきは、いらいらしていった。
「おまえ泣くなよ」
まなみの手から、地図をとり返すと、ぶつぶつ文句をいいながら、周りを見渡した。
「うむ、間違ってはいないようだ」
としゆきの肩から身をのり出して、ドルダがいった。
「ほら見ろ。ぼくのいった通りだろ」
自分のやることはすべて正しい。そういいたそうなとしゆきに、まなみは眉をひそめた。何よ。ちょっと不安になっただけなのに。お兄ちゃんがいっつもいっつも正しいとは限らないのに。ふてくされた表情のまなみに、としゆきは面白くなさそうな顔をした。
「なんだ、おまえ文句あるのかよ」
まなみが、ないよという前に洞窟の奥から、けたたましい羽音の音が鳴りひびいた。
バタバタッ、バタバタッ
あっというまに黒い大群のカラスが現れ、二人の目や足をねらって、飛びかかってきた。としゆきは、とっさに、腰にさしてある剣を抜きさり、剣を振るった。
バサッ、バサッ
右から左から、次々と襲いかかってくるカラスを、としゆきは、確実に倒していった。
「ふん、さっきみたいにはいかないぞ!」
いきりたちながら、としゆきは叫ぶと、押しよせてくるカラス相手にぶんぶん剣を振った。としゆきが、ばたばたとカラスを倒している間、まなみは、怖くなって縮こまっていた。
『いや、やっぱり怖い!』
まなみの足や手は、たちまちカラスに襲われ、傷だらけになった。
「まなみ様。さっきの魔法を使うんです。このままだと、としゆき様も駄目になってしまいます」
ラビネの言葉に、まなみはカラスの攻撃をかわしながら、としゆきをそっと見た。たくさんのカラスにとり囲まれながらも、としゆきは一匹ずつ確実になぎ倒していったが、なにしろ数が多い。としゆきの息は荒く、額には、汗がにじみ、としゆきの体力は、徐々になくなっていく様子がわかった。
「まなみ様が、さっき成功させた魔法を今使えば、あっというまに戦いは終わります」
「でも、でも」
「さっ、勇気を持つんです。さっきみたいに、全部のカラスの羽に空気のたまをぶつけるイメージを持って。今やらずにいつやるんです!」
肩にのっているラビネが、まなみの気持ちを揺さぶった。
「大丈夫、できる」
もう片方の肩にのっているグリラスも、大きく頷きながら、言葉をかけた。
『みんなの期待にこたえなくちゃ!』
まなみは意志を固めると、イメージを高めようと目をつぶった。その間、ラビネとグリラスが、炎を吹き、カラスと戦ってくれた。まなみは、カラスの羽に空気が当たるさまを思い浮かべ、呪文を唱え始めた。一語一句間違いがないよう口ずさみ、なるべく早く呪文を唱えていく。それとともに、カラスが羽を叩かれ、地面へと落ちるところを何度もイメージした。そして最後の言葉を唱え終わった時、まなみは目を見開き、目の前にいるカラスたちの羽めがけて、手のひらを向けた。まなみの手のひらからは、強い白い光がぱっと飛び出し、
バタバタッ、バタバタッ、バタバタッ
たくさんのカラスたちが羽音を立てながら、地面に向かって、ぐしゃりと落ちていく。
戦っていたとしゆきは、突然の変化に、驚いた。としゆきの戦っていたカラスも、いきなり地面へと落下したのだ。洞窟内を飛びかっていた何千匹のカラスたちは、羽を叩かれ、動くこともできず、もがいていた。
「やったあ!」
まなみは、自分の魔法の力で、撃退できたことを心から喜んだ。
「やりましたね、まなみ様」
「さすが、まなみ様」
ラビネとドルダがほめたたえると、としゆきは、憮然とした様子でいった。
「おまえが、早く魔法を使わないから、ぼくがこんなに、汗だくなんだぞ。早く使えよ」
「そういういいかたは、ないですぞ。としゆき様」
ドルダがたしなめると
「ふん、おまえらだって、似たようなもんだろ。魔法が使えるおまえらが使えないから、こんなことになってるんだからな」
仏頂面のとしゆきに対して、ドルダは、すまなそうに頭を下げた。
「申し訳ない、としゆき様、まなみ様」
「ドルダは悪くないよ」
まなみが、ドルダをかばうと、としゆきは、一言こういった。