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四匹のドラゴン  作者: はやぶさ
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第12話

ラビネは、驚きながらも、悲しそうな声でそういった。


「まなみ様。そんな気持ちでは魔法は使えない。魔法が使えると信じなければ、何も起きない。そんなことは当たり前ですぞ」


ドルダが、鋭い声でいうと、後ろに下がって様子を見ていたダークがいった。


「やめとけ、やめとけ。おまえみたいなちびにはどうせ魔法の習得なんぞむりさ。泣き虫な子どもに何ができるんだ」


ダークのしらけた太い声が、まなみの耳に届くと、まなみは、盛大に泣きたくなった。


『どうせ、どうせ、わたしなんかなんにもできないんだ。どうしてこんなところにいるんだろう。もとはといえば、お兄ちゃんがあんな箱を見つけたりするからいけないんだ』


恨めしい気持ちがつのってきた時、今まで、一言もしゃべったことのないグリラスがしゃべった。


「だいじょうぶ。ぼくも弱虫で、最初はできなかった。でも魔法できるようになった」


グリラスは、おずおずとした声で、まなみに語りかけた。


「気持ちがあれば、大丈夫。時間かければ、きっとできる」


泣きそうになっていたまなみだったが、グリラスが勇気を持って、言葉をかけてくれたことに、心が温かくなった。そしてもう一度がんばろうというやる気が湧いてきた。


「ありがとう。わたし、がんばるね」


まなみは、にっこり微笑むと、グリラスに気持ちを伝えた。自信なげなグリラスだったが、まなみにそういわれ、ほっとした様子で後ろに下がった。


そこからまなみは、もうひとふんばり、がんばることになった。呪文をもう一度覚え直し、一字一句も間違えないようにすらすらといえるように、何度も何度も繰り返し、唱えた。そして呪文とイメージがぴったし息が合うように、何度も調整した。


それから数時間が経ち、まなみのお腹がすきだしたころ、ようやくそれは形となった。


まなみは目をつぶり、押しよせてくるカラスをイメージしながら、歌うように呪文を唱えた。そして、すばやく目をあけると、えいやっとばかりに空気のたまを壁の武器に向かって、投げつけた。すると壁にかかっていた武器が、いっせいに、ガチャガチャと鳴り出した。


壁の横につるされていたたくさんの剣は、大きくゆさゆさと揺れ、釘だけでとめられていた斧は取っ手の部分に空気のたまがあたり、バランスをくずして下へと落ちた。槍も同じように音をたてている。


興奮した面持ちで、まなみは叫んだ。


「やったあ! できた!」


まなみが、満面の笑みを浮かべると、ドルダとラビネはうれしそうに大きく頷いた。


「よくがんばりましたね、まなみ様」


「いや、すばらしい。ここまでできるようになれば、カラスも怖くない」


ドルダとラビネがそれぞれいう中、グリラスは二匹の後ろから、控えめにまなみの勇姿を喜んでいた。その中でダークだけが、面白くなさそうに舌打ちをしていた。


一方としゆきはとしゆきで、なんとかムトラスの剣を受け止め、それなりに狙いを定めて、敵を攻撃する剣術を習得していた。まなみが魔法ができるようになると、ムトラスはその剣の訓練をやめ、二人に告げた。


「とりあえずおまえらは、そこそこできるようになったみたいだから、カラスを撃退することもできるだろう。これで剣の稽古を終了する」


ムトラスは自分の剣を壁にもどすと、としゆきの肩を叩いた。


「あとは、実際の戦いで学べ。いいなあ」


息を切らしながら、汗だくになったとしゆきは、無言で頷いた。そのとしゆきのそばに、まなみが近づき小声でいった。


「そんなに悪い人じゃなかったね」


「うん……」


 としゆきは、ムトラスにありがとうと、いいたかったが、照れくさくて、結局いえなかった。


 そうこうしているうちに、ムトラスはとしゆきとまなみとドラゴンたちを引き連れて、ドワーフたちの食堂へと案内してくれた。


「せっかく訓練したのに、飢え死にされても困るしな」


 ムトラスは豪快に笑いながら、まなみ達に料理をふるまった。


 大きな肉のかたまりに、揚げたてのジャガイモ、ソーセージやいろとりどりのチーズに、焼きたてのパン、それから一口飲むだけで疲れのとれる青緑色のジュースに、塩味のきいたスープ。どれもこれも、美味しく、としゆきとまなみはひとかけらも残さずにきれいに食べ終えた。お腹が、満腹になり、まなみはひどく眠くなったが、ベッドで寝るわけにはいかなかった。それは


「さあ、食事も終えたことだし、おまえらはここの洞窟から出て行ってもらわないとな」


と、ムトラスがぶどう酒を飲みながらそういったからだ。ドルダはムトラスにすまなそうに頼んだ。


「食事も頂いておきながら、申し訳ないが、我らに旅の食料も、持たせてくれないだろうか」


それをきいたムトラスは、笑いながらいった。


「今更、何をいってるんだ。おまえらに洞窟内でのたれ死にされても困るからな。たっぷり持って行ってもらうさ」


ムトラスが、パチンと指を鳴らすと、召使いたちが、としゆきとまなみが運べそうな布袋を持ってきた。中にはパンや干し肉や飲み物が入っていた。


「これはかたじけない」


ドルダが、ほっとした様子でそういうと、としゆきとまなみも口々に


「ありがとう、ムトラス」


といった。


「何、礼にはおよばないさ。さっ、そんなことより出発の身支度を整えな」


そこで、としゆきとまなみは、それぞれの荷物を肩から、斜めがけに背負い、としゆきはドルダとダークを、まなみはラビネとグリラスを再び肩にのせ、出発することになった。


「何はともあれ、旅の無事を祈る。元気でな」


ムトラスはドワーフたちの城の前で見送ってくれた。


「ムトラスも元気で、さようなら」


としゆきとまなみは、ムトラスに頭を下げると、ムトラスのくれた地図を頼りに、また洞窟内へと足を踏みこんで行った。

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