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四匹のドラゴン  作者: はやぶさ
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第11話

まなみは目をつぶると、さっきの情景を思い浮かべた。たくさんのカラスがすばやく飛びながら、鋭いくちばしでつついてきたことを。


「どうだい、さっきのカラスのことをイメージできたかい」


「うん。できてると思う」


目をつぶったまま、まなみは頷いた。


「ほんとにできてるかい。すぐそばまで、カラスが目の前にいるように感じとるんだ」


まなみは、さっきの黒いカラスたちが、押し寄せてきた様を、克明に想像した。まるでさっき体験したことが、再び起きたように、まなみは真剣にイメージした。そのとたん


「怖いっ」


という言葉が飛び出した。


「そうだ。怖い。その通り、さっきのカラスが再びやってきたら怖いんだ。でも勇気を持たなくちゃだめだ。さあ、さっきいってたカラスの弱点に空気のたまをぶつけることを想像するんだ」


カラスの弱点……。そう思いつつも、まなみの心は縮こまっていた。またカラスに飛びかかられたら、くちばしでつつかれたら、きっと痛い。しかも大群だ。どうする。


「まなみ様、冷静に考えるんです。カラスだって生き物です。弱点があるんです。そこを、叩かれれば、ひとたまりもないんです」


ラビネが、がんばれとばかりに声をかけてきた。


「さあ、カラスの羽に空気のたまをぶつけることをイメージして、そしてあっというまにカラスたちが地面に落ちることまで思い描くんだ」


「勇気を持って!」


ラビネの声に押されて、まなみは思い浮かべた。


黒くふくれあがったたくさんのカラスたちが、まなみやとしゆきの目や足を狙ってくる。怖い、怖いっ! でも、でもっ! 戦わないと前に進めない、家に帰れない。がんばれ、自分。


 また涙が出てきそうになったけれど、まなみは慌てて涙を拭いて、カラスたちの羽に空気のたまをいくつもいくつも、ぶつけることを想像した。すると、まなみの中でくり広げられていた戦いが、とたんに終わった。地面には、羽を叩かれ、空中を飛ぶことができなくなったカラスたちが、のたうちまわっており、まなみの周りは、一面、動けなくなったカラスたちの山となった。


すっと目をあけると、ドルダたちがまなみを見つめていた。


「どうやら、カラスたちを想像の中では、撃退できたようだね」


ドルダがうれしそうにいうと、言葉を続けた。


「その気持ちを忘れないように」


「その気持ち?」


「そう、立ち向かう勇気と想像力。敵をやっつけることができるというイメージを持ちながら、魔法の呪文を唱えなければいけない」


「そうでないと?」


「そうでないと魔法は使えません」


ラビネは、きっぱりとそういい切った。いつものやさしい口調のラビネとはちがって、少し厳しく、ラビネはいった。


「弱い気持ちでは、敵を倒せないのです。それは魔法ではなく、剣も同じです」


ラビネは、ムトラスに、しごかれている、としゆきに目を向けた。としゆきは、ムトラスにさんざん剣で叩かれていたが、絶対勝ってやるといわばんかりに、気合いを入れて戦っていた。


「としゆき様は、自分が負けるとは思って戦ってないでしょ」


「うんうん」


まなみは、としゆきが、何度も何度も、立ち向かうのを見ながら、頷いた。


「気持ちで負けていたら、本当のことだって負けてしまいますよ」


「そうだ。敵に立ち向かう勇気は魔法の源だ。それがなければ、魔法は使えない」


ドルダは自分の言葉に頷きながら、まなみにいった。


「イメージと気持ちはできた。ここからが、本番だ。そのイメージと気持ちを持ったまま、さっき唱えた呪文を唱えるんだ。そうだなあ。あの壁にかかっている武器をカラスだと思ってあそこに空気のたまをぶつけるんだ。さあ、やってごらん」


まなみはゆっくりと目を閉じると、さっきのイメージをもう一度思い浮かべた。


たくさんのカラス、鋭いくちばしと、かぎ爪、すばやい動き。イメージ力を高め、まなみは、ぱっと目を開いた。そして壁にかかっている武器をカラスたちだと思って、まなみはたどたどしい声で、さっき教えてもらった呪文を唱えた。途中でつっかえたり、声が小さくなったりしたが、まなみは一字一句間違えないように注意して唱えた。そして唱え終わると、手のひらを武器に向けてかざした。しかし何も起きない。


「えいっ、えいっ」


かけ声もかけるが、何も起きない。そばで様子を見ていたラビネが、残念そうな顔をした。


「どうやら呪文を、間違えたようですね」


「え?!  そんなあ。わたし間違いなくさっきの呪文を唱えたよ」


「一度でうまくできる人は、そうそういないんだよ。さあ、最初からもう一度」


ドルダは、当然のようにまなみにやり直しを命じた。


まなみは、がっかりだった。せっかく魔法が手から出てくると思ったのに、うんともすんともいわないのだ。こんなの面白くないと、まなみは思った。その気持ちのまま、呪文を唱えたが、魔法は一向に出てこなかった。まなみはいった。


「これは魔法の呪文じゃなくて、単なる歌なんじゃないの。わたしが魔法ができるようになるなんて、嘘だよ!」


「何をいってるんですか、まなみ様。わたしたちが嘘の呪文を、まなみ様に教えたとでもいうのですか」

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