第10話
ダークが、意地悪そうにそういうと、ドルダは怒っていった。
「まなみ様が、せっかくやる気を出してくださっているのに、何をいうか! おまえは黙ってろ」
ドルダは、炎を吹くと、ダークを黙らせた。
「ふん、どうなっても知らないからな」
ダークが面白くなさそうにしっぽで地面を叩いた。まなみは、ひるまずドルダにいった。
「お願い教えてください」
「もちろんですとも。まなみ様」
「わたしらが教えます」
ラビネもそういい、横で見ていたグリラスも、黙って頷いた。
こうして、としゆきはドワーフから剣の手ほどきを、まなみはドラゴンたちから魔法の教えを受けることになった。
「まず最初に魔法の力の源について教えます」
ドルダは、こほんと咳を一つつくとこういった。
「魔法で一番大事なことは、想像力があることと、やさしさと勇気があることだ」
「本を読むの好きだから、想像力はあると思うけど、やさしさはどうかなあ」
まなみが、考えあぐねながら、頭をそらすと、ラビネはすかさずいった。
「まなみ様なら、やさしさは大丈夫でしょう!」
「そうかなあ……」
自信なげにそういいつつも、少しばかりのやさしさだったら自分は持っているかもしれないと、まなみは思った。でも問題なのは勇気だ。こればっかりはどうにも無理かもしれない……。
「あの、わたし勇気は持ってないような気がする」
「ならば、今から心を鍛えればいい。気持ちを強く持てばそれは勇気になる。それに魔法を覚えたいと我らにいってくれたこと自体、一つの勇気だ」
ドルダにそういわれ、まなみは少しだけ自信を持てたような気がした。
「まなみ様には魔法を覚える資質はあるはず。それを前提に魔法を教える」
ドルダは胸を張って、まなみの前に立った。。
「最初は何を、覚えるの?」
「では先ほどのカラスと戦える魔法を教えることにする」
まなみは、緊張した面持ちで、ドルダの一語一語を聞きもらすまいと、身構えた。
「まずは想像してみるんだ。あのカラスの弱点はなんだと思う」
「弱点?」
いきなりの問題にまなみは、ぽかんとした。さっきは飛びかかられてそれどころじゃなかったけど……。あ、飛びかかられるって羽ってことかな。
「弱点っていうか、強みかもしれないけれど、カラスには羽があるから、それかなあと思うんだけど」
「その通り! カラスには羽がある。これはカラスだけの話ではないんだが、この先いろんな敵が現れて、弱点を攻撃しないといけなくなる。しかしその弱点というのは、敵にとっては逆に強みだったりするのだ。その強みがなくなれば、敵はあっというまに弱くなるわけだ。意味はわかるかな」
ドルダに訊かれて、まなみは、うんうん、頷いた。
「ということで、まずはカラスの弱点、羽を攻撃すればいいということだよ」
「魔法で攻撃するの?」
「そうだ。魔法だ」
「杖は?」
まなみは魔法というと杖を思い浮かべた。魔法使いが一振りすれば魔法が出てくるのだ。
「もちろん、杖を使う魔法もあるが、手のひらから出す魔法もあるよ」
ラビネは、そばで見守りながらそうつけ加えた。
「今は杖がないので、手のひらから出す魔法を教えよう」
ドルダはそういうと、不思議な言葉を唱え始めた。
「さあ、わたしのいうとおりに発音してごらん」
それはまなみの知らない異国の言葉だった。意味のわからない言葉を立て続けにいわれ、まなみは戸惑った。
「慌てないで、ゆっくり覚えるといいよ」
ラビネは、まなみが途中でくじけないように、そんな言葉をかけてくれた。なん回も口でくり返し、まなみは一生懸命覚えた。それは長い呪文だった。独特のイントネーションとリズムがあり、歌のようにも聞こえた。その不思議な歌を全部覚えきると、ドルダがまなみを、ほめたたえた。
「まなみ様は覚えるのが早いですなあ。すばらしい」
ほめられてて、うれしかったが、呪文を唱え終わっても何も起こらないので、まなみは不安になった。
「ほんとにこれって魔法の呪文なの」
「もちろんですとも。今のが空中を飛ぶ敵に、強い空気のたまをぶつける攻撃魔法の一種」
「でも何も起こらないよ」
困った表情のまなみに、ラビネが、やさしく諭した。
「焦ってはいけません。魔法には想像力、イメージ力が必要なのです」
「その通り、魔法は呪文を唱えるだけでは使えないのだ」
「じゃあ、どうやって?」
呪文が魔法のすべてだと思っていたまなみは、眉間にしわを寄せた。
「さあ、まなみ様イメージしてください。さっきのカラスが飛びかかってきた様子を。できるだけ細かく想像するのだ。今ここでそのカラスがいるような気分で」