kisskisskiss2
「何だか、通りが賑やかですね。何かあるのですか?」ルスランが、訊いた。
「あぁ、あんたたち、運がいいね。今日は、町長さんのお孫さんの三回目のお誕生日なんだよ。魔物払いも兼ねて、花火を打ち上げることになって。何、外に出る必要はないよ。家の屋上から、十分見られるからね」
田舎パンとローストチキン、お団子入りのス一プという夕食を食べた後、私とジョシュアは、屋上に上がった。ルスランは、悪酔いしてしまい、来られなかった。おかみさんが、「町長さんと、お孫さんに乾杯」と、居合わせた人々に、葡萄酒を振る舞ってくれたのだが、食事が終わる頃には、呂律が回らなくなる有り様だったのだ。
「め、面目ない、、こんなはずでは、、」
「疲れが溜まっていたのでしょう。私が付いていますから、二人で眺めて来ては?ジョシュア、姫様をお願いね」
「あぁ、うん。判った」
酔っ払ったルスランを、ジョシュアと二人で両脇から抱え、階段を上がって行きながら、サ一シャは、片目をつぶって見せた。私は、心臓が、どきどきして来た。既に花火が上がり始めたらしく、パ一ンッという火薬が破裂する音に続いて、人々の歓声と拍手が聞こえて来る。屋上には、既に沢山の人々が上がって、手すりにもたれかかって、花火を見物していた。私とジョシュアは、離れたところに腰を下ろし、夜空を見上げた。
「綺麗ね」「、、うん」
「私の故郷でも、年に何度か、花火を上げていたんだけれど、何だか、今日が、今までで一番綺麗に見えるわ。ジョシュアの故郷でも、花火を打ち上げたこと、あった?」
「あるよ。年に一度、精霊様を祀るお祭りがあって、その時に、花火を上げてた。こんなに沢山じゃなかったけどね」
行ってみたいな、と言いかけて、ジョシュアの故郷は、今は存在すらしていないことを思い出す。
「いつか、遊びに来てね。あなたは、紛れようもない、私の命の恩人なんだから、お父様も、領民たちも、大歓迎するわ」
「うん。ありがとう」
これじゃ駄目、と思った。言いたいことの、十分の一も伝わっていない。お父様のご威光を借りるんじゃなくて、私自身の気持ちを伝えなくちゃ、、。次の花火が上がるまでの間に、間があった。私は、密かに中腰になって、その時を待った。ヒュルルルル、、と、花火が打ち上げられる音がした。
「ねぇ、ジョシュア」「うん?」ドド一ンッと、一際大きな音がして、花火が開いた瞬間、私は、ジョシュアの顔を両手で挟んで、キスをした。でも、ジョシュアの瞳が、驚きに、大きく見開かれるのを見た瞬間、高揚していた気分は、急速に、しぼんでしまった。私は、手を離して、元の位置に、すとん、と、腰を下ろした。
「、、首が折れるかと思った」
「ごめん。でも、ジョシュアが好きなの。気が変になっちゃうくらい」
「、、、、。」
「それだけ、伝えたかったの」
「、、、、。」
沈黙に耐えきれずに、私が、腰を浮かせた、その時に、ジョシュアは、言った。
「アレイン。きみは、僕のことを、誤解しているよ」
「、、誤解?」
「きみは、雷を喚べるようになった僕しか知らない。本当の僕は、話しただろう?村人たちを見殺しにして、一人、おめおめと生き延びた、卑怯者なんだ。今だって、亡くなった村人たちが、アンデッドになって、僕に復讐して来る夢を見て、跳ね起きる時がある。僕は、きみに、そんな風に想ってもらえる資格はないんだよ」
「資格って何?人を好きになるのに、一体、どんな資格が要るのよ?確かに、私が知っているジョシュアは、この半月ほどだけど、過去のあなたが、弱っちい臆病者だとしても、今のジョシュアを、全否定してもいい、ってことには、ならないでしょう?今のジョシュアは、勇敢で、優しい、立派な戦士だと思うけど?」
「、、、、。」
「サ一シャが同じことをしたら、今と同じ返事をした?」
「サ一シャは、、あんなことしないよ」
「悪かったわね、はしたなくて!ジョシュアの馬鹿!いつまでも、昔を振り返って、うじうじ悩んでいればいいのよ!私だって、、」
思いがけず、両目から、涙が溢れた。私は、涙を腕で拭い、階段を駆け降りて行った。