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GO EAST3

「姫様、、ご無事で、本当に、良かった、、私が不甲斐ないばかりに、本当に、申し訳ありませんでした、、」寝台の上で、半身を起こしたルスランは、そう言って、頭を下げ、拳で涙を拭った。

「頭を上げて、ルスラン。あなた、毒を盛られたのよ。こうして、私も無事な訳だし、力強い仲間を得ることも出来た。だから、気にしないで」

「私が、、毒を?」

「お話の途中、失礼致します。私は、サ一シャ、彼は、ジョシュアと申します。初めまして」

そう言って、ぺこりと頭を下げるサ一シャを、不思議そうな顔で、ルスランは、見つめた。

「私は、シャルトラン公爵家に仕えるルスランと申す者です。魔道士様、私が毒を盛られたというのは、つまり、宿の者が、、」

「いいえ。左の手の甲を見て頂けますか。引っ掻き傷のようなものが、ございますでしょう?古くから、忍びの者が使う手で、指輪に毒針を仕込み、ぶつかった振りをして感染させるのです。おそらくは、アレイン様を狙った輩の仕業に違いありませんわ」

「何故、、アレイン様を、、」

「あなたが寝込んでいる間に、お姫様は、人さらいに連れ去られかけた。おおかた、奴隷商人に、売り飛ばすつもりだったのだろうな」

壁にもたれ掛かっていた、ジョシュアは、そう言った。ルスランは、顔色を変えた。

「誠に、、誠に、アレイン姫様と、不肖私めをお救い頂き、ありがとうございました!」

ルスランは、更に深々と、頭を下げた。

「どうぞ、頭をお上げ下さい。ルスラン様。私たちは、私たちに出来ることをしたまでのこと。こんなご時世ですもの。皆で、助け合わなければ。ね、ジョシュア」

「、、えぇ」と、ジョシュアは、頷いた。

「聞いて!ルスラン!この方たちが、王都まで、一緒に旅をしてくれることになったの。サ一シャは、見ての通り、優秀な魔道士だし、ジョシュアは、なんと、あの、預言の勇者様なんですって!」

「魔王を倒し、世界を平和に導くという、あの、、?」

「その呼び方は止めてくれないか、、!」苛立ちも露に、ジョシュアは、そう言った。

「僕は、確かに、雷を喚べるようになった。だけど、僕に出来るのは、それだけで、剣術でも、魔法でも、僕より秀でている人は、いっぱいいる。この先、例え、何千、何万という魔物たちを退治したとしても、たった28人の村人たちを見殺しにした、僕の罪が消える訳じゃない。僕は、単なる卑怯者なんだ、、」

ジョシュアは、部屋から出て行った。迷ったのは、ほんの一瞬だった。私も、ジョシュアの後を追った。ジョシュアは、宿の屋上へと続く、階段を上って行った。手すりにもたれ掛かったジョシュアを見て、飛び降りるのではないか、と、ひやりとした。うつ向くジョシュアの背中が、小刻みに震えているのを見て、私の胸も、痛くなった。

「ジョシュア、、」私は、ジョシュアの隣に行った。

「サ一シャから聞いたわ。ごめんなさい。無神経だったわね。嬉しかったの。出口の見えないトンネルを、手探りで進んでいたら、前方に光が差しているのが見えた。そんな気持ちだったの」「、、、、。」

「今のあなたは、預言の勇者には、程遠いのかもしれないけれど、でも、あなたは、私の命を救ってくれた。私だけじゃなく、他の、不幸な娘たちの命も。それは、真実でしょう?」

「、、、、。」

「私の生まれた国は、都から北西に位置する、シャルトランという所なの。緑豊かな、とても気持ちのいい所なんだけど、今から、一月ほど前に、突然現れた、魔物たちの群れの攻撃を受けて、大打撃を被ったの」

ジョシュアは、僅に、顔をこちらに向けた。

「城壁が壊され、城下町にまで、魔物たちがなだれ込んで来た。お城に仕える兵士たちや、常駐している魔道士たち、老人や子どもたちを除いた、男たちが総出で、戦ったのだけれど、後継ぎのお兄様が亡くなり、領主たるお父様は、苦渋の選択を迫られた。ご自分は、お城に残って指揮を取り、弟は、比較的、被害が少なかったお祖父様の下へ、そして、私は、五人の精鋭に守られて、ボンパ一ルの都へ、シャルトランへの援軍を要請に、出発することになったの。それが、三週間前のこと」

「、、五人?」

「そう。ルスランを除いた四人が、亡くなってしまったわ。魔物たちだけでなく、ならず者たちの標的になって」

「、、、、。」

「あなたの気持ちは判るわ、なんて、簡単には言えないけれど、圧倒的な強さの魔物たちを前に、自分の無力さを思い知らされたことは、判るわ。人は、本当に、呆気なく亡くなってしまうことも」

やにわに、私は、ジョシュアに、右の拳をくり出した。

「わわっ」

続いて、左の拳、右の膝から回し蹴りへと続けて、バランスを崩したジョシュアに、足払いを仕掛けると、ジョシュアは、その場に尻餅を付いた。私は、ひっくり返ったジョシュアを覗き込み、にっこりした。

「成る程。これは、鍛えがいがありそうね」

「、、、、。」

「この程度のこともかわせないなんて、確かに、これじゃ、弱っちくって、魔王の討伐は託せないわね。雷を自在に操れたとしても」

私は、ジョシュアに手を差し出した。ジョシュアは、膨れっ面で、その手を握り返し、起き上がった。

「助けてくれた御礼に、私が教えられること全てを、あなたに教えてあげるわ。私、武術の心得があるのよ。ちゃんと、師範に付いて習ったんだから」

「、、、、。」そして、ジョシュアに抱きついた。

「心配しないで。あなたは一人じゃない。私があなたを守ってあげる。何があっても、あなた一人を置き去りにしたりしないから」

自分でも、何故、そんなことを言ったのか、判らなかった。

ジョシュアに笑顔を取り戻したい。そんな気持ちが、強烈に沸き上がって来たのだった。

「、、、、。」

ジョシュアは、何も言わなかった。私の右肩に押し付けられた、ジョシュアの口から、くぐもった嗚咽が聞こえて来た。

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