GO EAST2
「皆さん、大丈夫ですか?」
アメジストを溶かした様な髪の色の、女魔道士が、そう言った。足首まで、すっぽりと覆う丈の深緑色のローブに、額に回したサ一クレット。夜目でも判る、ぱっちりとした瞳の、美しい人だった。馬車に乗り込んで来た、彼女は、「まぁ、大変」と言いながら、魔法で、私たちの足枷を粉砕した。
「ジョシュア、あなたも、手伝って!」お世辞にも、愛想がいいとは言い難い、鎧に着られている様な、痩せっぽっちの青年が、やって来て、彼女と手分けして、私たちの猿ぐつわと、ロープを外してくれた。伸びすぎた前髪の下から覗く瞳は碧色で、よく見ると鼻筋の通った、整った顔立ちをしているのだけれど、全身から醸し出される雰囲気は、陰気そのものだった。
「ありがとう。助かったわ。あなたたちは、一体、、?」
「私は、サ一シャ、彼は、ジョシュアと申します。近くで野宿をしていたところ、人々の悲鳴と、魔物たちの鳴き声が聞こえて来て、急ぎ、馳せ参じて参りましたの。皆さんに、お怪我が無くて、本当に良かった」
震える足で、馬車から下りると、地面一面に、黒焦げの屍が転がっていた。
「、、これを、あなたが?」
「防御呪文を唱えたのは、私ですが、雷を喚んだのは、ジョシュアですわ」
「雷?雷を喚べるの?もしかして、あなた、、預言の勇者、、」
言葉の途中で、ジョシュアは、ぷいと顔を反らして、行ってしまった。
「申し訳ありません。どうぞ、気になさらないでくださいね」
サ一シャが言った。
「あなたは、、彼の連れ?」
「ジョシュアとは、デュハメル男爵家のお城で知り合いましたの。あなたがおっしゃった通り、ジョシュアは、預言の勇者なのです。目覚めたばかりの、と、申しましょうか」
「、、目覚めたばかり?だって、、」
「ジョシュアの生まれた村は、デュハメルのお城の奥にあり、先日、魔物たちの襲撃に遭って、彼を除いた全ての村人たちが、皆殺しにされたそうです。その事を、ジョシュアが、私に語ってくれたのも、ほんの数日前のこと。ジョシュアは、そのことに対して、誰よりも自分自身に、憤りを感じているのです。天から授かった力がありながら、肝心な時に、それを発揮出来ずに、自分一人が~村人たちの中に、魔法を使える者がいて、その方が逃してくれたそうです~のうのうと生き延びた事を」
「ジョシュアは、いつ、力に目覚めたの?」
「一昨日。王都に向かって旅をする途中、訪れた町で、魔物たちの襲撃に遭って、、止める暇もありませんでしたわ。兵士たちと共に、最前線に立ち、天に向かって両手を掲げた、次の瞬間、凄まじい雷が落ちて来て、、」
サ一シャは、戸惑った様に、私を見た。私が、サ一シャの腕を掴んだからだった。
「お願い、、!」私は、言った。
「私は、シャルトラン公爵家の、人は、アレイン姫と呼ぶけれど、アレイン、と呼んで。お願い、力を貸して欲しいの。私の従者の、、ううん、私の国の領民たちの為に、、!」