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GO EAST1

神は言った。この世には、陰と陽があり、光あるところに、影が生じるように、どちらかがどちらかを殲滅せしめむことは、あり得ないのだ、と。神は言った。この世に魔王が復活し、闇の力で、世界を支配せしめむとする時、預言の勇者も、また、現れ、戦いの末、闇に閉ざされむとせし世界に、光をもたらすのだ、と。神は言った。最後の戦いが終結した時、全ての死者は甦り、生前、善き振る舞いをした者には、光と幸福の世界が開け、悪に手を染めし者は、地獄に堕ち、未来永劫、魔王の手下として、苦しまなければならないのだ、と。

だとしたら、私は、罪人だ。先に待ち受けている未来が、そんなものならば、預言の勇者の再来も、最後の戦いの終結も、待ちたくはない。あの人に、再び、会わなければならないとするのならば、、。


気が付くと、私は、幌馬車の荷台にいた。後ろ手にくくられ、猿ぐつわを噛まされている上に、足には、鎖が絡み付き、同じような格好をした、隣の娘の足につながれていた。

闇の中、娘たちの、すすり泣く声が聞こえて来る。胸を張り、手首に力を込めてみたけれど、きつく結わえられたロープは、そう簡単には、ほどけてくれそうもない。

動いた拍子に、後頭部が、ずきずき痛んだ。その痛みが、おそらく、薬を染み込ませているせいで、薄い膜がかかっている様だった、記憶を呼び覚ましてくれた。

なけなしの路銀を持って、訪れた、町外れの薬屋で、人の良さそうな女主人に、振る舞われた、一杯のお茶。あの中に、眠り薬が仕込まれていたのに違いなかった。

「さぁて、何を差し上げましょうかねぇ」

「どんな病でも、たちどころに治ってしまう、万能薬があると聞いて、やって来たのですが、、」

説明しようとすると、舌がもつれた。違和感を感じて、椅子から立ち上がろうとした瞬間、体から力が抜け、私は、椅子から滑り落ち、頭を強く打ち付けて、、それとも、後ろから入って来た誰かに、殴り付けられたのだろうか、、気を失い、そうして、気が付けば、この様だったという訳だ。口惜しさに、涙が浮かんだけれど、泣いている暇はなかった。宿に残して来た従者と、故郷シャルトランで、魔物たちと戦っている、皆の姿が、頭の中によみがえって来る。壊滅的な被害を受けた故郷を立て直す為の、支援を求めて王都に向かう、旅の最中だったというのに、、

そもそも、ここは、何処なのだろう。夜だというのに、馬車を走らせることが出来るのは、月が明るい為だろう。むっとするような

人いきれの中に、潮の香りを嗅ぎ取った様な気がして、私の焦りが頂点に達した、その時だった。

「魔物だ~!魔物の群れが現れたぞ~!!」

慌てふためく、男たちの声が、聞こえて来た。馬車を引く馬のお尻に、何度も鞭が振り下ろされる音がしたけれど、恐慌を起こした馬たちが、急停止をかけ、馬車が大きく揺れ、車輪がきしむ、キキ一ッという、耳障りな音が響いた後、何処かに乗り上げて、馬車は止まった。

「か、神様、、!どうかお助けを、、!」

情けない声を上げて、男たちが、方々に逃げて行く足音がしたが、それも、やがて、悲鳴に変わった。そして沈黙。くちゃくちゃと、何かを咀嚼する音。

魔物たちの出現と共に、獣たちも狂暴性を増し、人々に襲いかかることも、珍しくなくなった。フガフガと鼻息を立てて、周囲を嗅ぎ回っているのは、野犬?猪?それとも狼の群れだろうか。そいつらの一匹の鋭い爪が、幌を切り裂き、風邪が吹き込んで来るのと同時に、黄色く光る複数の目が見えた。

(お父様、皆、ごめんなさい、、)

観念して、私は、目を閉じた。その時、私は、気付いていなかった。突如として、夜空に湧いた雷雲と、私たちを保護するために唱えられた、防御呪文を。馬のいななきと、娘たちの悲鳴、今、まさに、私たちに襲いかからんとした、獣たちの唸り声と、轟き渡る雷鳴が交錯した。次の瞬間、白銀の稲光が、辺り一帯を照らし、びりびりと、空気が震えた。ドォ一ンッと、地響きの様な音を立てて、雷が落ち、叩きつける様な雨が降りだした。


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