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親友の夢  作者: 夏川 流美
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神社の紅葉

 これでもかと存在を主張して目の前にそびえ立つ、真っ赤な鳥居。いつからここで人間を見下ろしていたのか分からないが、傷も汚れも一切無い。


 鳥居の向こう側では、枝から離れた紅葉が風で舞い踊り、おいで、と誘うようだった。恐る恐る、一歩を踏み出す。すぐさま騒めく木々の音は、歓迎しているようにも、警戒しているようにも聴き取れた。


 これだけ紅葉が舞散らかっているにも関わらず、中央の石畳は綺麗に掃除されていた。一枚の葉も、一本の雑草も姿が見えない。


 皆がまだ眠る、夜中と明け方の境目。こんな時間に鈴を鳴らすことの背徳感に、鳥肌が立ち口角が上がった。肺の奥まで息を吸って、数秒溜めてから吐き出す。


 賽銭を入れる。

 私は遠慮なく、鈴を響かせた。





 親友から夢の話を聞いて、そろそろ半年になる。今でも親友は、私の小説を見ている。


 短い作品を数日に一度。この半年で40作品以上を書き上げてきた。親友が行きたがっていた遊園地も、水族館も、東京や京都も書いた。書くためにネットで検索するか、現地に行くことがあった。私は毎作品、親友のために、自己満足だった作品の何倍も力を入れて書いていた。


 結局、親友には私の小説が夢になっていることを告げた。やっぱり驚いていたし、少々不気味がってもいた。でも次第に大喜びしてくれるようになり、リクエストをしてくれるようになった。


 分かったことがある。小説のヒロインなどの登場人物は出てこないこと。主人公の動きやストーリーは関係ないこと。ただその“場所”だけが夢に出ている。


 それでも親友は夢を見るたび――私が小説を書くたびに満面の笑みで報告してくれた。私は私で、親友と一緒に遊びに行っているような気持ちと、私が拙い文章で描いた景色を喜んでくれることへの嬉しさを感じて過ごしていた。


 昼休みを知らせるチャイムが鳴る。お弁当を持って友人の近くの席を取ると、何か連絡がきていないかスマホを確認した。珍しく、お母さんからメールが来ている。早速お弁当を広げている友人を横目にメールを確認すると、私は反射的に立ち上がってしまった。


「ねぇ、自転車貸して!」


 メールの内容は、翼の容態が突然悪化したということだった。学校が終わったらすぐに行ってあげて、とも書いてあったが、学校終わりまで待っていられない。


 突如立ち上がった私に目を丸くしながらも、ぎこちなく頷いてくれる友人。


「いい、けど。帰るの?」

「うん。帰る。――あ、でもごめん。自転車、今日中には返せないかも」

「それは平気。つか、急いでんなら早く行きなよ。気をつけてね」


 自転車の鍵を受け取って、学校を飛び出す。自転車なら多分20分……いや、15分で病院に着く。途中で先生とすれ違い、引き止められそうになったけど、一切目線を合わせずに突破した。私は無我夢中で自転車を漕いだ。





 椅子に座る翼のお母さん。ランプのついた手術室の前。息を切らした私の姿を見ると、翼のお母さんは泣き腫らした顔を無理に笑顔に変えた。


「来てくれて、ありがとう……」

「翼、は?」

「……1時間前に、緊急手術になったの」


 緊急手術になるほど容態が悪いこと、もう1時間も手術していることに肩を落とした。いつこの手術は終わるのだろう。翼が、無事でいてくれますように。何ともなく手術が終わりますように。


 これでもかと強く想う。翼のお母さんと並んで座って、胸の前で手を組んだ。早く終わってほしい。翼を早く返してほしい。きっと翼のお母さんも同じことを思っている。この手術で翼が完治してくれるなら嬉しい。だけど容態が悪化した後の緊急手術なんて、完治のためではない。


 一心に願い続けた。元気な翼とまた話せるように。明るい翼が、病室でもいいからまた帰ってくるように。


 それだけを、何時間も祈り続けていた。今か今かと、手術ランプを睨みつけていた。そして一体、どのくらいの時間が経ったのか。




 手術ランプは、静かに消えた。

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