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ホシヨミガタリ  作者: 半藤一夜
第一章 一人でサバイバル
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007 【十日目】エンジョイ無人島ライフ

 今日が異世界無人島ライフの何日目か、木の幹に傷をつけて日数をカウントするというアレをやるのをうっかり失念していたために正確な日数がわからなくなってしまったけど、きっと十日かそこらだろう。

 元の世界の皆さん、俺はまだ生きてます。けっこう元気です。


 数日前の、あわや無人島で感電死しかけるというアクシデントはあったものの、その対価に入手できた火のおかげで生活レベルは格段に向上した。

 魔物も火を怖れるのか、シェルターの下で火を絶やさずにいることで危険な生物が寄ってくることはなかった。相変わらず朝になるとうるさく響く竜の鳴き声は気になるところだが、遭遇さえしなければ脅威でもない。

 食料もそれなりに自給できていた。釣り具や仕掛けは少しずつ改良して、魚は以前より獲りやすくなった。電気ウナギが怖いのでなるべく水に入らないようにしたが、それでも万一に備えて魚の皮をなめして手足を覆うように装着した。魚の皮がゴムのようだったのは電気ウナギの電流を避けるためと考えられる。つまり絶縁体だ。あの放電の強さからすれば気休め程度だが、無防備のままよりはマシだ。

 火のおかげで調理も可能になった。念願の焼き魚が食べられるようになったし、他にも水辺で獲れるサワガニなどは煮て食べた。

 また、炭が手に入ったので、竹の筒に炭、砂、小石の順番で敷き詰めて水のろ過装置を作った。川の水には赤痢菌やサルモネラ菌、エキノコックスといった病原菌が含まれている可能性があるが、これで感染するリスクを多少は減らせるだろう。

 魚だけでなく、たとえば鳥やネズミ、あるいは兎や鹿といった野生動物がいるかもと考えて罠を仕掛けてみた。罠を使った狩猟法についてはアニキから何通りか教わったことがある。罠猟の資格がないので実際に自分で試したことはないし、そもそもワイヤ―やバネなどの道具がないので、日本では禁止されている吊り罠くらいしか作れないのだが、この無法の島では誰に怒られることもなく存分に試すことができる。

 が、こちらは成果なし。この島に来てから一度も小動物を見かけていないので望み薄だとは思っていたけど、やはり生息していないらしい。この島の過酷すぎる生態系に適応できないのだろう。

 とはいえ、それは肉が食べられなくて残念というだけの話である。

 それ以外の全ては順風満帆といえた……これまでの失敗続きが嘘のように。

 いや、失敗を繰り返してきたからこその今だろう。失敗から学ぶことが出来るのが人間の最大の武器だ。数々の苦い経験は決して嘘でも無駄でもなかったのだ。

 唯一の心配はやはり愚連隊ザルだった。この辺りも活動範囲に入っているなら、水を求めて来た奴らとニアミスするとも限らない。だが幸いその姿を見ることはなかった。


「ま、万が一の時はお前が助けてくれるよな、キノ」

 俺の足に寄り添うように立っているキノコに話しかける。


 紹介しよう――俺の唯一の話し相手であり友人、キノコのキノである。

 前言撤回は早ければ早い方がいいのだ。

 助けてもらったこともあって完全に情が移ってしまい、「キノ」と名付けたこの不思議なキノコと奇妙な共同生活を送っているのだった。もちろんキノから返事が返ってくることはないのだけど、それでも俺の孤独はこのゆるキャラのおかげでずいぶん癒されていた。


 かくして俺の第二の人生、マサムネアイランドでの生活は軌道に乗り始めていた。

 これから先も長く暮らしていくなら、もっと多くの装備が必要になるだろう。この世界にも季節があるのかは知らないが、冬が来るなら防寒用の装備が必要だし、食料の長期保存も考えなくてはならない。

 やることは山ほどある。でも、それが嬉しかった。

 島に召喚された当初からは考えられない、心身ともに満ち足りた生活を送っていた――

 そんなある日のことだった。


「ギガルグ」


 夜、シェルターで寝ようとしていた時、遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。

 ハンモックを覆っている葉の隙間から覗くと、少し離れた場所で二つの目が光っていた。


 愚連隊ザル――見つかった!?


 心臓が飛び出そうになるのを堪える。この距離では俺の姿は見えないはずだが、ハンモックの下にある焚火の灯りは間違いなく届いているだろう。

 息を殺し、気配を殺す。それきり声は聞こえてこない。

 しばらく待ってから再び様子を窺うと、愚連隊ザルの姿は消えていた。

 大丈夫だ、気付かれてはいない。そう自分に言い聞かせて眠ろうとしたが、しばらくぶりの恐怖に目が冴えてしまい、寝付けないままに朝を迎え――

 事件は翌朝に起こった。

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