まだまだ事件は始まらない
楽しんで頂ければ幸いです!
"黒い不吉な雲が覆う古びた洋館を訪ねる一人の探偵。この探偵が重い木の扉を開けることで事件が始ま"
「ちょっと待ったー!」
左手を頭にかぶせ、右の手のひらを背の後ろにある空に向けた探偵が叫ぶ。
"はい"
そんな探偵に天の声…この物語のナレーションが淡々と答える。
ナレーションの冷めた声など気にせず、探偵は物語に関係の無いことを話始めた。
「え~もっと無いの?」
"何がですか?"
「俺の紹介!俺の魅力をもっと知りたいって人、沢山いると思うんだけどな~。別にそんなに詳しくなくていいの。適度にね?」
探偵の突然の要求にナレーションは嫌そうな間をおき
"はい、ではやり直すので速やかに最初の位置についてください"
と答えた。
探偵は嬉々として位置につく。
"黒い不吉な雲が覆う古びた洋館を訪ねる、適当な帽子、適当な服、適当な靴の適当な探偵…みすてり男が重い木の扉を"
「ちょっとー!」
"はい"
「それ適当ー!」
"はい"
「俺、適度ー!」
"はい、さっさと扉を開けてください。"
「いやだー!」
"はい、早くしないと皆さんスタンバイしているんです。この物語は貴方ではなく事件がメインなんです。"
「知らないーっ!てか、適当な探偵はひどくないっ?」
二人の言い争いが激しくなる中、
「あの…」
内側から重い木の扉をきしませ、一人の人物がそーと現れた。
「あの…まだですか…?ずっと待っとくの辛いのですが…」
頭から顔の半分まで血糊がベッタリの死体役の男が申し訳無さそうに問う。が
『そこら辺で寝てろ!!』
「はい!!分かりましたー!」
シンクロした二つの声に押し出された。
「絶対に俺の魅力を説明させる!」
"早く正しく物語を導いてみせます。"
二人の間にバチバチと火花が散る。
どうやらこの事件はまだまだ始まりそうにない。
読んで頂きありがとうございました!