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第7章~独断専行の代償~

 サンガンピュールが警察と十分な連携をしようとせず、独断で容疑者を殺害したことは市長、警察署長、そしてKにも伝わった。

 5月3日、火曜日の夜。土浦警察署内にて。


 「困りますよ、そんな自分勝手な行動は!!」

 取調室で刑事の怒号が響いた。

 「だって、それしか解決の方法がなかったと思ったんです!」

 彼女は従来からの主張を繰り返した。

 「その発想が一番困るの!警察は、チームで動くの!これは市役所も自衛隊も同じ!一人の勝手な行動のせいで、全体の計画が狂ったんだよ!」

 刑事の説教が延々と続いた。


 人質事件は場合によっては解決にかなりの時間を要することがある。1977年に長崎県で発生したバスジャック事件では、最終的に犯人グループの一人が射殺されたものの、事件発生から解決までに18時間以上も要した。警察は人質を全員解放させるために、そして加害者が犯行に至る理由を知るために、解決に向けて全ての可能性を考える。犯人射殺はあくまで最後の手段である。だがそうした背景があることをサンガンピュールは全く知らなかった。「最後の手段」を簡単に発動してしまった。事の重大さに全く気付かなかった。

 この事件は市議会議員の中でも問題になった。

 「あの人殺しのフランス人を、強制帰国させるべきだ」

 「まだ12歳。1997年に神戸で小学生を殺害した中学生より年下ということを考えれば、彼女はもはや正常な人間ではない!」

 「こんなバケモノみたいな娘を、SPみたいな何かに任命した市長は正気か?」

 「武器を持つという彼女の性質上、この結末は容易に予測できたはずだ」

 「市の職員でもない人間が、どういう資格で仕事をしてるのか」

 一部の市議はここぞとばかりにホームページや個人演説会でサンガンピュールの行動を非難した。任命責任を問われた市長は胃が痛い状態が続いた。関係各所への釈明に追われ、事態を重く見た市長は5月13日(火)に臨時市議会を招集することを決定した。



 また、彼女の災難は帰宅してからも続いた。


 「大バカ野郎!人を殺すために生まれてきたの!?」


 Kは説教が始まって早々彼女を怒鳴りつけた。彼女は相変わらずムスッとした表情を続けている。まるで「あたしは悪くない!」と言わんばかりだ。さらに、Kはリビングルームにあった座布団を思いっきり放り投げた。

 ドサッ!

 「危ないじゃん!」

 「『危ない』のはどっちだ!俺だって事件聞いて怖くなったよ。本当だぞ!」

 普段の優しいKとは程遠い、鬼のような表情のKがそこにあった。これまで面倒を見てくれた養父からも初めて怒られたことで、サンガンピュールは後悔した。


 青葉聖を殺したことで、自分の立場が危うくなった。しかも加害者が死んだことにより、事件の真相究明が出来なくなった。再発防止に向けて、警察や行政はどんなことが出来るのか。そういった検証がほとんど不可能になってしまったのだ。

 解放された田井中梓からも「怖い」と言われた。警察にとっても被害者にとっても、犯人死亡というのは最悪の結末だった。なぜなら青葉は死亡したことで国家による刑事罰を受ける必要がなくなったからだ。被疑者が死亡したら当然不起訴処分となり、裁判は開かれない(刑事訴訟法第339条)。これにより、田井中とその家族にとっては、彼氏だった青葉に対して責任を負わせることが出来なくなった。いわば青葉の一人勝ちに等しかった。そのため、サンガンピュールの行動に対して全く納得がいかなかった。彼女らもまた、臨時市議会に出席することとなったのだ。


 助けたはずの被害者から怖がられた。議員から人殺し呼ばわりされた。こんな事態になったのは全部自分のせいだ。ゴールデンウイークが終わったら、きっと地獄を見るに違いない。彼女は市民から断罪されることへの恐怖におびえた。

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