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第6章~無慈悲な刃~

 5月3日、土曜日。ゴールデンウィーク真っ只中のこの日の昼下がり。千束町、生田町、大町といった住宅街には祝日とあってか日の丸を掲げている家が多くみられた。

 サンガンピュールは家でKとのんびり過ごしていた。Kは「次のサッカーの試合は・・・」というようにパンフレットでサッカーの試合日程を確認している。根っからの茨城県民である彼は鹿島アントラーズの熱心なサポーター。彼女を拾う以前はよく、鹿島サッカースタジアムに出かけて現地で試合観戦をしたものだ。だが彼女を拾ってからは、「子守」で忙しくなったせいか、ほとんどスタジアムに出かけることができなかった。次の試合は5日の横浜F・マリノス戦だが、その時もテレビ観戦になりそうだ。



 そんなとき突然、サンガンピュールの携帯電話に一本の連絡が入った。

 「はい、サンガンピュールです」

 「もしもし、今、お時間よろしいでしょうか」

 市長から直々の電話だ。


 「はい、大丈夫です」


 緊急事態発生だ。

 土浦駅西口に近いマンションで若い男が乱入。そこに住んでいた若い女性を人質に立て、女性の部屋に立てこもり、身代金を要求してきたのである。このままでは女性の命が危ない!そこでサンガンピュールの出番となったのである。彼女はすぐにホスティアを彷彿とさせる茶色一色の勝負服に着替えた。勝負服と装備一式はいつも体操着袋に入れて持ち歩いている。装備であるライトセイバーと拳銃を準備し、現場に急行した。

 事件現場は、川口1丁目の辺りで、土浦ニューウェイの北側だった。


 「マル容(容疑者)の名前は、青葉聖あおば・さとし。マル害(被害者)である田井中梓たいなか・あずさとはカップルの関係だが、ストーカー行為が繰り返し行われ、別れ話が持ち上がっていた。その話のもつれから、青葉が田井中の部屋を襲ったらしい。彼は凶器として文化包丁を持っている。我々としても青葉に説得を続けているが、彼に投降する気配は感じられない」

 現場に到着したサンガンピュールは警察から説明を受けた。警察としては慎重に様子を見守りたいところだった。だが、


 「うん、分かったよ。直接私が行って強行突入するしかないね」


 サンガンピュールは強行解決を提案した。

 「ちょっと、強行突入って、今どんな状況か分かって言ってるの!?今、我々が必死に説得を続けている。君がすぐ突入したら男は人質を刺すかもしれないんだぞ!我々の指示に従ってくれ」

 傍らにいた警官は大層驚き、今は思いとどまるよう彼女に説得した。しかし「考えるよりもまず行動」という彼女の性格が勝った。

 「あたしが市長さんに頼まれてここに来たのは、この恐ろしい事件を一刻も早く解決するため。この状態じゃいつまで経っても終わらない。場合によっては犯人を殺します!行かせてください!」

 サンガンピュールは警官隊に直談判した。もうマンションに突入しそうな勢いだ。

 「ちょっと待て、待ちなさい!」

 警官の制止を振り切り、サンガンピュールはマンションの外の非常階段から犯人と人質のいる階に向かった。そして部屋の前のドアをライトセイバーによる高熱によってこじ開け、青葉、そして人質の田井中と対面したのだった。青葉は持っている包丁を田井中の首に切りつけるそぶりを見せ、こう叫んだ。


 「むっ、サンガンピュールだ!お前の超能力なんか怖くねえよ!一歩でも近づいてみろ!近づくと本当にこの女を刺すぞ!」


 「う、うう・・・」

 よく見てみると、田井中は口の周りと両手首をタオルで縛られ、行動や発言の自由を奪われた状態だった。


 「このままじゃ危ない・・・。悠長にやってる暇はない・・・」


 そう思ったサンガンピュールは躊躇なく超能力を使い、青葉を田井中から離れさせ、居間の壁に激突させた。そして青葉がひるんだその矢先に、これまた躊躇なくライトセイバーを取り出し、こう言い放った。

 

 「こんな残虐なことをやるあんたには、生きる資格がないね。死になさい!」


 青葉に対し、ライトセーバーの刃先を近づけていく。それまで威勢の良いことを言っていた青葉は急激に立ちすくんでしまっていた。

 「よせ、よせ・・・、・・・助けてくれ、許してくれぇ!」


 「泣いて許されて全部解決するんだったら、お巡りさんもあたしも要らないのよ!」


 次の瞬間、彼女は加害者から10メートルほど離れた位置からライトセーバーを思いっきり投げた。槍のように投げ、青葉の心臓に命中した。


 「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 そして超能力でライトセーバーを自分の右手の手中に戻した。破裂した心臓から大量の血が流れた。もう失血死で助からない。青葉聖はサンガンピュールの刃に倒れたのだった。

 彼女は、ふっ、これで一件落着みたいな顔をしていたが、解放された田井中梓が悲鳴を上げた。悲鳴を聞いて駆けつけた警官隊が見てみると、そこでは青葉が出血多量で死んでいた。地上で居合わせた警官は思わず目がクラッとなるほどのショックを受けた。そして時間を置いた後、大変に憤慨した。

 「サンガンピュールさん、どうしてくれるんですか!!女性は解放されましたけど、犯人が殺されると我々の方はもっと困るんですよ!」

 「市長さんの委託を受けて、町の凶悪事件を解決するのがあたしの仕事よ。事件を解決させるには犯人を殺すのもやむをえないと思うのです!」

 双方ともお互いの主張を決して譲らなかった。

 「そうは言っても困るのは我々なんですよ、分かりますか!事件の背景が分からなくなったようじゃ…。あなたには寛容さが足りませんね」

 「それはそうでしょうか」


 「そうよ!」


 サンガンピュールは思わず後ろを振り向いた。解放された田井中が救出者のサンガンピュールに対して叫んだ。見た感じ、非常に救出者を怖がっている。そして


 「あんたの方がよっぽど怖いよ!!」


 救出した人質から決定的なことを言われてしまった。サンガンピュールは一瞬驚きの表情になり、ガクガクと手を震わせ、右手に持ったライトセイバーを落としそうになった。そしてふと思った。


 「とんでもないことをしちゃったよ…」

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