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第5章~友達~

 4月14日、月曜日。

 「塩崎ゆうこ」がひかり中学校に入学して1週間が経過した。当初は戸惑っていた「塩崎ゆうこ」という偽名だが、慣れというのは恐ろしいもので、色んな先生やクラスメイトから何度も「塩崎さん」「塩崎さん」と声を掛けられたら、洗脳されたかのように、頭が勝手に慣れてしまった。

 彼女はロンドンで落雷に遭って以来、自分の本当の性格を隠しながら生きてきた。リヨンでは「夢見る明るい美少女」だった。幼稚園の頃はごっこ遊びもした。同級生ともサッカーなどを通して仲良く遊んだ。だけど、落雷に遭ったせいで超能力に目覚めたら、他人を避けたり、妙に攻撃的になったりして、自分の個性を出せずにいた。中学に入って、最初は「自分の正体がバレたらどうしようか」とためらっていた。だが、


 「この町には、昔の君を知っている人は誰もいない。だから、堂々としてて良いんだよ」


 というKのアドバイスに本当に救われた。ホッとした彼女は、クラスメイトと少しずつ談笑をすることが多くなった。1週間、クラスで同じメンバーで過ごしてみて、

 「ねぇ、可愛いね」

 「お人形さんみたい」

 とよく言われる。身長が130cmしかないのでそのように評されるのは当然だろう。だが、

 「東京での生活はどうだったの?」

 という質問には困った。自己紹介で「世田谷区出身」というウソを言わなければ良かった。

 「う・・・ごめん、あたし、それ分かんないよ。忘れちゃったんだ」

 そう答えざるを得なかった。だが、

 「え~、ってかさ、あんた本当に東京から来たの?」

 という疑問の声が出てくる。そして中でも一番嫌味たっぷりだったのは、


 「ふ~ん、東京から引っ越してきたってだけで『可愛い、可愛い』とチヤホヤされると思ってたら大間違いよ!」


 という声だった。発言の主は水山さゆり。12歳でありながらバストサイズが81cmというクラスで一番のナイスバディという男子からの評判だ。だがその見てくれに反し、過信から敵を作るような言動が目立つ。

 「そうよ、東京でチヤホヤされなくなったから土浦という田舎に来たんじゃない!?」

 と中傷する声が出てきた。サンガンピュールは「これが世にいう女子同士のいじめか」と思い、とても不愉快な気分になった。キレそうになった時だった。


 「もうやめてあげて!塩崎さん、嫌がってるじゃん!」


 と、いじめを止めてくれるクラスメイトが現れた。

 「あんたは・・・」

 サンガンピュールはそう言ったが、名前がすぐに思い出せなかった。確か入学式の時に最初に挨拶してくれた子だ。

 「ふん、あずみったら優等生ぶって!」

 「岩本、これで勝ったと思うなよ!」

 そうだ、岩本あずみだ。さゆりとその取り巻きが仕方なくサンガンピュールの周りから離れた。


 あずみはサンガンピュールの丸っこい右手を握りしめて、女子トイレへ逃げ込んだ。

 「大丈夫?」

 あずみは声を掛けた。

 「あ・・・ありがとう、岩本・・・さん」

 「『あずみ』でいいよ」

 この学校にも、自分に対して親切に接してくれる子がいた。サンガンピュールは思わず自分の目の前が滲んで見えた。嬉しさから来る涙だった。

 「あれっ、ごめんね!嫌な思い、させちゃったかな?」

 「・・・ううん、あたし、うれしいんだ。他の子から・・・こんなに優しくされたこと、ないから・・・」

 「そうなんだ・・・あずみ」

 サンガンピュールは真新しい黒いセーラー服で涙をぬぐった。

 「ありがと、名前で呼んでくれて。・・・私もあなたのこと、下の名前で呼んでいい?」

 状況を読み込むのに時間がかかったが、

 「うん、いいよ」

 と承諾した。

 「こちらこそ、ありがとう。よろしく、ゆうこちゃん!」


 あずみは、サンガンピュールにとって土浦で最初の同年代の友達であると同時に、これからもずっと親友であり続けることとなった。



 4月27日、日曜日。サンガンピュールは学校で出来た友達を自宅に招いた。もちろん、彼女にとって初めてのことだ。招待されたのはあずみの他、初台春はつだい・はる長谷川美嘉はせがわ・みかといった面子だ。あずみ、春は同じクラスメイト(1組)。美嘉は2組だ。この3人は同じ小学校出身で、なんだかんだ言いながらお互いを尊重し合うメンバーだ。

 「もう友達ができたのか。すごいな」

 Kはサンガンピュールに声をかけた。Kにとっては失礼ながら、同年代の子どもと楽しく時間を過ごすサンガンピュールの姿を想像できなかったのだ。

 「ゆうこって、この町で育ったんじゃないんだよね?」

 美嘉はそう聞いてみた。

 「うん、そうだよ。だから引っ越したときは大変だったよ」

 サンガンピュールは答えた。少し思い違いをされている気がするけど、まあいいか。

 彼女にとって、自分の弱さをさらけ出せる同性の人は、今までにいなかったのだ。男であるKに対して打ち明けることも少なくなかった。しかし性別の違いからだろうか、何度か誤解が生じることもあった。男と女とでは同じ事情でも感じ方が微妙に違ったりする。性格は男勝りのサンガンピュールも、所詮は女の子なのであった。

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