第11章~憂鬱~
この日は授業でも力が入らなかった。例えば、1時間目の国語の授業にて。
「ではこの文章を・・・塩崎さん」
国語担当の塩原先生から教科書の本文を読むよう、指名された。塩原先生は長髪を後頭部の白いシュシュでまとめており、20代後半という若さもあってか、生徒からも人気の高い教師だ。
「・・・はい」
しかし、この時のサンガンピュールは力なく答えてしまった。そのまま説明文の本文を音読したのだが、漢字を読み間違える、どう読めばいいのか分からなくなる、日本語のイントネーションがおかしくなる・・・というような最悪の出来だった。
「どうしたの、塩崎さん。元気ないけど・・・」
異変に気付いた塩原先生が優しく声を掛けた。
「・・・ごめんなさい」
サンガンピュールは謝ることしかできなかった。あずみ、春、美嘉など多くのクラスメイトもまた心配そうに見つめていた。
3時間目の体育の授業。体育では男女別で、2クラス合同で授業をすることになっている。この日の1組・2組の女子は屋外のグラウンドでの授業だ。ゴールデンウィークが終わり、太陽の照りつけが少しずつ厳しくなってきた。この日は100メートル走の記録をする回だったのだが、普段は体育の授業になるとテンションが上がるサンガンピュールの様子がここでもおかしかった。
「あずぅ、あれは何なの?」
あずみは2組の女子から声を掛けられた。
「あれって?」
あずみがトラックを見てみると、驚いた。サンガンピュールが100メートル走に挑んでいるのだが、普段の彼女とは程遠い様子だったのだ。とても遅い。普段なら負けるまずのないクラスメイトに対しても遅いのだ。
「ゆうこちゃ~ん、がんばれぇ!!」
あずみの声援にもかかわらず、全く調子が出なかった。
4時間目の理科の授業はもっと悲惨になりそうだ。サンガンピュールにとっては元々不得意科目だったということもあり、ただでさえ気分が乗らない状態だ。理科室へ移動する際、あずみがついに声を掛けた。
「どうしたの、ゆうこちゃん。今日、調子が本当におかしいよ?」
「あっ・・・ありがと・・・。でも、大丈夫だから」
サンガンピュールは本当のことを答えたかった。でもできなかった。理由は、市長との約束だった。「自分が町を守るスーパーヒロインであることは絶対秘密」という約束である。今ここで自分の事情を話したら、市長との約束を破ることになってしまう。そしてますますこの町に居づらくなってしまう。
「大丈夫じゃないよ!」
あずみが強い調子で言い放った。2人は1組の集団から一旦離れ、階段の踊り場へ移動した。そしてなおもやり取りが続いた。
「ゆうこちゃんに何があったのかは知らないけど、あたし、本当に心配だよ」
「・・・あずみには関係ない」
「関係あるよ!」
「・・・どうして?」
「だって、あたし、副委員長だし」
「・・・それだけじゃん」
サンガンピュールはあずみの心配を一蹴しようとした。だがあずみは、
「そう?・・・あたしとゆうこちゃんは、もう友達だと思ってたんだけどなぁ・・・」
そう寂しそうに伝えた。これに対し、
「・・・友達・・・」
サンガンピュールは何か感慨深げに聞いていた。しかし、
「キンコーンカンコーン」
4時間目開始のチャイムが鳴ってしまった。
「大変、理科室へ急がなきゃ!」
2人は急いで理科室へ向かった。だがこの時、サンガンピュールは、昼休みにあずみに対してとある決意を伝えようと決めた。