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救い方
大きな事故が起きて、目の前で1人の女性が瓦礫の下敷きになっていた。
下半身は完全に潰されていて、両腕も歪な角度で曲がっている。
しかし大事な臓器は無事なのか、彼女はハッキリとした意識を保って生きていた。
これならば即死してしまったほうが幸せだっただろう。
そう思わせるほどに、悲惨な光景だった。
殺して。私を殺してください。
女は男にそう懇願した。
男は考える。
確かにこのまま死を待つより、早く死んでしまいたいと思う気持ちは理解出来る。
仮に生き残ったのだとしても、この身体ではまともな生活は送れないだろう。素人目にもそれは分かる。
けれど、こんな状態でも生きている人を殺すなんて僕には出来ない。
そう考えて考えて考えて、考えている間にも彼女は苦しんでいるのだと理解した。
そして護身用に持っていた拳銃を取り出し、銃口を女に向ける。
本当に良いんですね。
男は女に問う。
はい。ツラい役目を押し付けてしまってすみません。
男は引き金に指をかけ、力を入れようとする。
けれど、どうしても最後の一押しの踏ん切りがつかない。
そんな中、女は切れ切れの声で言葉を続けた。
あなたがいてくれて良かった、ありがとうございます。
その言葉を聞いた男は、救いの声に応えるために引き金を引いた。
バンッ! という音が響き渡り、女は息を引き取った。
男はフラフラと立ち上がり、おぼつかない足取りで歩き出す。
僕は彼女を救ったのだろうか。それとも殺したのだろうか。
いつまでも同じことを考えながら、いつまでも拳銃を片手に歩いていた。