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賊の住処を作ろう!

 

 草原が広がっている中に、剥き出しになった土の道が青空に向かって伸びている。心地よい風に草木はそよぎ、何処かから鳥のさえずりが聞こえる。近くには小川が流れ、日の光を浴びて水面がキラキラと輝いていた。


「こんなところで、どう襲えって言うんだ……」


 エイリカ達を賊にする約束をした翌日、僕は街道の視察にきていた。山賊の確保が終わったため、残る問題は、襲いやすいポイントの確保と惚れられる救い方の確立だ。今日は、前者の方を解決しようと、ここまで赴いた訳である。


 賊が根を張れそうな地形を調べに来たというのに、目の前にはあまりにも長閑な光景が広がっている。到底、賊が好む土地だとは思えない。隠れられる場所なんて何もなく、遠くから発見されてしまうだろう。見つかれば、逃げられるのに、こんな場所で襲える筈がなく、襲える筈がない場所で賊が暮らせるわけがないのだ。


「でも、この辺くらいがベストなんだよなあ……」


 溜め息まじりの独り言が漏れる。


 侯爵家方面から我が家に繋がる道は、この草が刈られた道一本しかない。できれば、僕一人が助けにくる展開にしたいため、人目につく村の近くでは困る。加えて、ここは侯爵領の末端であり、賊が出たとしてもうちの管轄外なので、父には迷惑はかからない。おまけに『10歳の子供が耐えきれず、侯爵家の馬車を見ようと家から抜け出していた。すると、遠くで襲われていたので助けに入った』という苦しい言い訳も、ギリ通らん事もない距離である。


 まあ、そういった訳でベストな場所ではあるのだけれど、隠れ潜めそうな場所は一つもなかった。


 僕は街道を出て、膝くらいの高さの草が生い茂った野原に入る。


 少し進んだところで目を閉じた。集中し、魔力を手に集める。脳裏に精彩なイメージを創り出し、地面に手を向けて魔力を放出した。


 地が震え、徐々に草が盛り上がり、ぶちぶちと根が千切れる音が鳴る。やがて、地面が割れて土塊が宙に浮き、その形だけポッカリと開いた穴は土砂がガサガサと崩れ砂煙が立ち上った。


 うん、いい感じに掘れた。このまま掘り続けて穴倉を作ろう。


 最後に僕は、浮かせた土塊を街道から遠く離れたところに飛ばす。


 それにしても、魔法は素晴らしい。イメージさえできれば大体のことができる。


 しかしながら限度はある。当然だが、魔法の元となる魔力が尽きると使えなくなるのだ。


 僕の使う魔法は異常な程の魔力を消費する。一個の魔法を行使するのに100人分の魔力が必要なのだ。まあ、イメージをそのまま魔法として行使するのだから、それくらいで済むのは軽く感じる。


 実際のところ、イメージそのまま具現化できるなんて神の力そのものだ。正直自分でも引いてしまうくらいの力である。


 だが、ご都合的に良くできていて、魔法によって消費魔力量が異なり、使えないものも存在するのだ。


 消費量のルールはすごく曖昧であるが、ラインのようなものが存在することがこれまでの経験でわかっている。境界線以下の魔法はどれも一定の消費量で、少しでも超えると大幅な使用量に変わるのだ。


 さらに、消費量を調べようにも実際に使おうとしなければわからない。実際に使用するにも、保有量を過分に越える魔法を使った際には急性アルコール中毒みたいになってしまう。


 だから僕は幼い頃から、ここまではいける、ここまではいけない、の境界線をじわじわあげて調べてきた。だが、余りにもキリがなかったので止めて、現在は、100人分の魔力消費量の魔法しか使わないように決めている。


 僕の魔力保有量は一般人1000人分程なので、大体10回が限度。消費された魔力は寝たら全快するという宿屋仕様なので、一日10回程度という訳だ。


 まあ、完璧すぎると冷めちゃうところがあるので、最強でも癖のある力として僕は気に入ってる。そう考えると、うずうずしてきた。


 くそう。早くテンプレ展開で使いたい。


 気持ちが逸るが、確実にテンプレ展開を作り上げないと、機を逃してしまうことになる。まずは賊の住処作りから堅実に進めよう。


 僕はさっき作った穴に飛び降りる。


 穴は左右上下直径3メートル程度で、このままだと4人も収容できない。土質も悪くなく水気の心配はいらないが、固定はしないといけないだろう。


 僕は一旦穴から抜け出し、魔法を使ってジェンガみたいに穴の横壁を抜き出し、適当な所に置く。それから壁が崩れないように固定する。今度は、部屋を作るにはどうすればいいかを考え、頭の中に設計図ができれば、土を削って形にする。


 そんな事をしていると、僕はなんだか楽しくなってきた。


 やばい!! 『みねちゅらふて』や『びるでるす』みたいで上がる!!


 しかし、土を掘り返すのも、固定するのも等しく一回だ。今日は、もう既に5回も使っている。このままでは、一生出来上がらないだろう。


 僕は困った。盛り上がってきたばかりなのである。大きくドンと掘って形づくれば出来るだろうが、不完全燃焼感が否めない。


 悩みに悩んでいると、不意に答えが出た。


 ああ、そうだ。あいつらにやらせよう。自分達の住処を作るのだから文句は言うまい。あいつらが作ってくれるのなら、僕は指示を出すだけで楽しむことができる。


 僕はすぐさま移動魔法を使った。


***


「はっ、今一体何が起きたのじゃ!?」


 昨日の6人は突然草原に連れ去られたことに、驚愕を隠せずキョロキョロと辺りを見回していた。


 こいつらは、昨日あれだけの騒ぎを起こしたにも関わらず6人揃って同じ場所に居た。馬鹿なんじゃないかと思ったが、その一瞬で移動魔法を使って連れてきた。


 驚いている姿を眺めていると、エイリカの顔が僕に向いた。


「あ、あなたの仕業ですか!? これは一体!?」


 エイリカの表情は戸惑い一色で、連れてこられた恐怖を忘れるくらいに驚いているのだろう。


 あ、ちょっとこれ、流石主人公様パターンで気持ちいい。


 いい気分になって、やれやれ、と魔法について語ろうとしたその時、怒声が飛んでくる。


「おいてめえ!! こんな所に連れてきてどうするつもりなんだよ!!」


 チッ、水をさしやがって。そこは僕の移動魔法の説明を聞いて『な、なんて、魔法だ!?』って所だろ。もう僕の仕業だと気づいた上で怒鳴られては、気持ち良くないどころか不愉快だ。


 ただまあ僕にはルーテ様(ヒロイン(約束された表紙イラスト))に惚れられるという、最大級の気持ちよしゅぎぃイベントが待っている。それに比べると、たかだか捨て駒ポジのこいつらからの褒められなんていらない……とは言わないが、ぶっちゃけ欲しいけど我慢できる。


 僕は、褒めて欲しいのに「でも、あんたは」って親に怒られる子供のような気持ちになり、瞳が潤んでくるのを感じた。しかし、瞼を腕で強く擦りあげ、目的を告げる。


「お前たちの住処の場所はここだ」


 そう言って、さっき掘った穴を指さす。すると、案の定か不満の声が上がる。


「こんなただ掘っただけの穴に住めって言うのかよ!!」


「違う、今からちゃんと住めるように作るんだ」


「じゃあ、早く作ってくれよ! 俺たちはともかく、エイリカ様と老はとてもじゃねえけど住めねえよ!」


「お前たちが作るんだ。安心しろ、僕が設計する」


 僕がそう言うと、不満の声が大きくなる。


 素直に従ってくれない男たちに煮えを切らし、僕も大きな声を上げる。


「静かに!! 誰の住処だ!? 自分の居場所すら他人に作って貰おうだなんて恥ずかしくないのか!?」


「いや、僕たちは連れてこられなければ、普通に住んでいるところはあったんだけど……」


 エイリカは俯きながら、ポツリとそう溢した。


 くそ、こいつ本当に痛いところを突いてきやがる。またもや、僕の罪悪感にダメージを与えてきやがって。


 僕は目を細めてエイリカを見つつ、誤魔化そうと口を開く。


「よ、よく言ったものだな!! あんなチンケな所がお前たちの住処でいいのか!? お前たちはそれで満足していたのか!?」


 僕がそう言うと、エイリカや他の男たちも僕にしっかりと顔を向けてきた。


 よ、よし、行ける! 勢いで誤魔化せる!


「いや、お前たちは違う!! 隠れ潜み影でしか生きれない人間とは違う!! 太陽の元を背筋を張って堂々と生きるべき人間だ!!」


 エイリカの口がぽかんと開き、キラリと瞳が輝いた気がする。


 この路線だ、この路線で攻めよう!


「お前たちが何か間違ったことをしたか? 正しくないことをしたか? 否!! 絶対にしていない!! 世界中の人間がそう言おうとも、僕だけは絶対に否定してやる!!」


「……ああ!」


 男の一人が強く肯定した。それから周りの奴らも同調して頷く。


 よしよしよしよしよ〜し!! 


 こいつらの事なんて一切知らないけど、あんなところでしみじみと暮らしてたような奴らだ。自分の悲惨な境遇に、過去の選択が誤りだったのではないか、と疑念を抱いていたに決まっている。そんな時に肯定してくれる言葉だ。さぞ嬉しかろう、さぞ嬉しかろう!


「もう一度聞く、お前たちはスラムに住む人間なのか!?」


「違う!!」


「それでは相応しい住居は作らねばならない!!」


 最後に今日一番の声で一喝すると、「おお!!」と男達からの歓声が上がった。


 老人、男達の表情は熱意に燃えていた。僕のこんなザルい誤魔化しに、まんまと乗せられるくらいなのだから、かなり精神的に参っていたのだろう。まあ、刺客に怯える日々を過ごしていたら、僕みたいなわけのわからない奴に脅されたのだから無理もないのかもしれない。


 最後にエイリカの表情を伺うと、ぽ〜っと僕の方を見てきていた。


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