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第1章「君の光に」

放課後の教室、先生の居ない自由な空間。

女子達の甲高い笑い声が響く。

その輪の中心にはいつも、彼女がいる。

クラスのムードメーカーでアイドル、ちょっとおバカでいつも笑顔を振りまく彼女に、俺は恋をした。

君は、俺にとって太陽のような存在なんだ。

辛い時に、君はいつも明るく照らしてくれて…

美緒、俺と一緒に全国大会に行こう。



俺が通っている高校は、どこにでもある普通の進学校。

剣道部に所属している俺は、この学校の一番奥まったところにある道場で、毎日汗を流している。

そんな俺は、同じクラスの美緒って子に恋をした。

生まれて初めての気持ちだった。

いつもクラスの中心にいて、屈託のない笑顔を振りまく。

そんな彼女に、釘づけになった。

それでも、俺には話しかけるような勇気はない。

そもそもback number好きのメンヘラである。

できるはずもない。

今日もまた、ただその笑顔に見とれるだけだった。


次の日、彼女は学校を休んだ。

滅多に無い事だから、クラスのみんなが心配した。

夕方の部活を終え、母の見舞いの為に、俺は病院を訪れた。

俺にはもうすぐ、妹が産まれる。

高校生に妹が産まれるって、とんでもない高齢出産だと思うかもしれないが、母は17歳の時に俺を産んでいる。

現在33歳だから、決して高齢出産ではない。

予定日が近づいた母は入院し、俺は毎日顔を出している。

「じゃあ、俺、帰るわ」

「ん、ありがとう。拓海」

「ああ、また明日」

俺は病室を出た。


夕焼けに赤く染まったリノリウムの廊下を進んでいく。

このときだけは、病院独特の冷たさが多少やわらぐ気がする。

「えっ」

思わず声を出していた。

そこに居たのは美緒だった。

彼女は一人椅子に座り、肩を震わせ泣いていた。

いつもクラスメートとはしゃいでいるイメージしか無かったから、とても驚いた。

俺に気づいた彼女が、スッと顔を上げた。

「…拓海、くん?」

彼女の目は真っ赤で、腫れていた。

「美緒、どうしたんだよ」

だってそうだ。

いつも友達と喋って、笑って。

悲しい事なんて一つも無さそうな彼女が、泣いているのだ。

「ちょっとね、悲しい事があってね」

無理に笑顔を作ろうとする。

それが余計に、俺を戸惑わせる。

『助けてやりたい』と思った。

「俺で良ければ、話聞くよ」

言ってやると、

「ありがとう」

彼女はそう言って、また目に涙を浮かべた。


「実はね…」

そして、彼女は全てを話してくれた。

彼女は5歳の時に両親を事故で失い、今の家族に引き取られたのだという。

新しい環境に戸惑い、不安でいっぱいだった彼女を、お義兄さんは温かく迎え、支えてくれたそうだ。

そんなお義兄さんが、突然倒れたというのだった。

原因は脳腫瘍。

もし回復しても、もう歩けないかもしれないそう。

「そうか…、辛いな」

美緒は力無く頷く。

彼女の為に、俺は何が出来るのだろうか。

「それで、今日学校休んだんだよな?」

「そう」

「みんな心配してたぞ」

彼女の目から一筋の涙が溢れる。

「美緒、お前が泣いてどうすんだ。お前は

いつも笑顔でお義兄さんを支えて、クラスのみんなを安心させなきゃ。そうだろ?」

「うん」

「もし辛くなったら、その時は言ってくれ。出来る事は何でもしてやるから」

そう言って、立ち上がり背を向ける。

「拓海くん!」

「ん?」

「ありがとう」

彼女は笑って言ってくれた。


次の日も、美緒が学校へ来る事はなかった。

朝のホームルームの時間、彼女の親友の優華が心配して、先生に欠席の理由を尋ねた。

「えっと、俺も体調不良としか…」

担任の宮下健吾(剣道部顧問)が曖昧に答える。

「誰か、理由を知ってる奴、いるか?」

俺は全てを知っている。

でも、決して言ってはいけない。


〜前日・病院にて〜

『拓海くん!』

『ん?』

『ありがとう』

『ああ。いいんだ。じゃあ』

『待って。一つ、お願いがあるの。このこと誰にも言わないでほしいの』

『…わかった』


余計な心配を掛けさせたくないのだと、彼女は言った。

でも結局、みんな心配してるけど。


部活が無かったから、今日はいつもより早く病院に行くことにした。

何度も通った道を、慣れた足取りで進んでいく。

病院へ着くなり、母の病室へ向かった。

その扉の前に、人影があった。

「美緒?」

俺が声を掛けると、待ってましたと言わんばかりに、勢いよく顔を上げた。

「お前、どうしてここに居るんだよ」

今のマズかったかな、突き放したみたいで。

「昨日、お母さんが入院してるって言ってたから、今日も来るかなって思って」

「そうか」

2人とも黙り込む。

静かな時間が少しの間、流れた。

「あのさ」

沈黙を破ったのは、美緒だった。

「お兄ちゃんが、ご飯食べたんだ。ちょびっとだけど」

「…良かったな」

彼女が、笑った。

その笑みは、いつもの彼女のそれだった。


病室へ入ると、母が何か眩しそうな目で俺を見てきた。

「何だよ。その目」

「んーん。さっき女の子と喋ってたでしょ。美緒ちゃんだっけ?」

嫌味っぽく言ってくる。

「ああ、そうだよ。で、何」

俺がふてくされて言うと、母はますます面白そうにした。

「美緒ちゃんって、クラスメート?それともカノジョ?」

「カノジョとは何だよ!ただのクラスメートに決まってるだろ!!」

体中が熱い。

「もしかして拓海、美緒ちゃんのこと、気になってるんじゃない?」

「…まぁ」

母がふっと笑う。

「まっ、拓海も高校生だし、そういうのがあってもいいんじゃない?」

「俺、帰るよ」

ドアへ向かう。

「ちゃんと、気持ち伝えるのよ!」

「だからッ」

「はいはい、帰った帰った」

母のされるがまま、俺は病室を出た。


病室の前で、美緒が待っていた。

「まだ、いたのか」

すると、彼女は悲しそうな顔をした。

「あたしがいたら、迷惑?」

別に美緒がいるからって、何かあるわけでもない。

「全然」

ふっと、彼女がほころぶ。

「ねぇ、今、ケータイ持ってる?」

「あるけど、何?」

そう言いつつ、ポケットからスマホを取り出す。

高校へ入学すると同時に買ってもらったもので、まだ2ヶ月くらいしか使っていない。

「連絡先、交換しよう!」

彼女の言葉に、戸惑ってしまう。

「だってさ、お兄ちゃんのこと知ってるの拓海くんだけだし。何かあったらすぐに相談したいから」

「ああ、分かったよ…」

面倒臭そうにする演技をしつつ、俺は内心すごくドキドキしていた。

好きな女子との連絡先の交換と、そこからのベタな展開の妄想で、頭が一杯になった。

「じゃあ、試しにメールするね」

彼女の言葉で我に帰った。

そして彼女は背を向けて、何かを打ち込み始めた。


「送信!」

彼女が言うと、ピロンとケータイが鳴った。


『拓海くんへの初メール✨

ねぇ、何であたしを助けてくれたの?』


「おい」

「何?」

「目の前にいるのに、何でメールで訊くんだよ」

「だって…」

彼女が俯く。

恥ずかしいとでも言いたいのだろうか。

「俺は…、君の笑顔が見たいから。だから、助けようと思ったんだよ」

ふざけて言うと、彼女は顔を真っ赤にした。

俺も、めちゃくちゃ恥ずかしかった。

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