ハロウィン記念作品『極点仮装大戦:SHIBUYA』 〜〜SIDE 男の娘〜〜
〜〜シブヤ・路地裏〜〜
現在、この人通りの少ない場所には、一組の男女とおぼしき人影が不穏な空気を纏いながら対峙していた。
一人はショートカットにやんちゃそうな印象の笑顔を見せる女子高生の格好をした若者だった。
ミニスカートから覗く健康的な足などが魅力的だが、その全身からは何故か淡い光のようなモノが発光していた。
対するもう一人の人物は、何のコスプレとも言えないような普通のスーツ姿だった。
だが、マトモなのは格好だけであり、何とその肉体は3メートルを優に超える体躯と、ツルリ!とてっぺんでまばゆい輝きを放つ禿頭の持ち主だったのだ!!
……単なる特殊メイクでは説明がつかぬ異様な風貌の男だが、彼の正体は一体何者なのか?
禿頭の巨漢が、鼻息荒く眼前の女子高生らしき人物に詰め寄るーー!!
「クッソ〜!!ピチピチのギャルの身体を存分に楽しめる!と思ってついてきてみたら、股間に変なモノをぶら下げやがって〜〜〜!!……日夜社会を支える中年男性の純情を踏みにじったその罪、万死に値するッ!!」
なんと、この女子高生らしき人物は本当は女性ではなく、女子高生の格好をしただけの男の娘であるらしい。
……にわかには信じられない話だが、男の娘はそれを否定するどころか、茶目っ気を浮かべた笑みと自信満々な態度で逆に男を糾弾する。
「ふっ、ふっ、ふっ!ボクが可愛すぎるとはいえ、それに騙される方が悪いんだよ〜♡……そうは思わないかな?"神待ち入道"さん?」
"神待ち入道"と呼ばれて、男が盛大に慌てふためく。
それを肯定、と見なした男の娘は、そのまま話を続けていく。
「女子高生の間に『"援助交際"は最先端のオシャレである』という風潮を蔓延させる事によって、彼女達に安い賃金で売春させその身体を弄ぼうとする卑劣な妖怪:"神待ち入道"。……みんなが楽しむハロウィンイベントに乗じて、自分の穢れた欲望を発露しようとするお前のような悪しき怪異は、"あやかしマイスター"であるこのボク:西秋院 真虎様が退治してやるぞ♡」
真虎と名乗った男の娘あやかしマイスターの強気な発言を受けて、神待ち入道が憤怒を露にした表情を浮かべる。
刹那、神待ち入道の内部に溜め込まれた妖気が、爆発的に膨れ上がるーー!!
「黙れ!!メスガキは馬鹿しかいないのだから、黙って金を受け取り、言われた通りその身体を使って大人を慰労しておれば良いのだ!!……貴様のような、社会の常識をかき乱すだけの愚か者に、性技の鉄槌を食らわせてくれるわッ!!」
とてつもなく独り善がりな暴論を口にしながら、神待ち入道は瞬時に自身の懐から財布を取り出し、そこから抜き出した3枚の一万円札を右手の指の間に挟み込むーー!!
「……フォォォォォォォッ!!……政治家がランチで3千円を使うのは不謹慎……だが、サラリーマンが援助交際に3万円を使うのは別腹……!!」
そう呟きながら妖気を溜め込んだ神待ち入道が、クワッ!と目を見開く――!!
「喰らえッ!!"神の厳粛たる裁きは本番あり"――!!」
荘厳たる響きとは裏腹に、邪悪なる妖気を纏った3万円を構えながら、真虎のもとへと迫りくる神待ち入道。
絶体絶命の危機にも関わらず、真虎は不敵な笑みを浮かべながら、同じように懐から取り出したモノを構えて迫りくる敵を迎え撃つーー!!
「やれやれ、ここまで手強い相手だと"あやかしマイスター"とはいえ、ツカサちゃん達では荷が勝ちすぎる、という奴かな。……先々代として、ボクがとっておきの退魔術でコイツを倒さないと……!!」
そう口にするのと同時に、真虎の右手に握られたスタンガンが激しい雷光を放ち始めるーー!!
「来い、"神待ち入道"!!……みんなの笑顔を、下卑た欲望で穢そうとする悪しき怪異は、ボクがとっておきの退魔術で調伏しちゃうぞ♡」
対する神待ち入道は怯むどころか、その身に宿した妖気をより濃密なモノにしていくーー!!
「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!……このさい、もう男でも良い気がしてきたァッ!!」
「ッ!?なんで、強くなってんのさ!!……これはひょっとして、マズいかも……!!」
ついクセで可愛らしい口調とポーズで決めてしまった事が、神待ち入道の新しい扉を開く事に繋がり、真虎を追い詰めることになってしまったようだ。
絶体絶命の危機だが、それでも、真虎は怪異を相手に一歩も退いたりはしない。
「……これでも、プロのあやかしマイスターだからね。年季が違うんだよ、年季が……!!」
悲壮な決意を宿しながら、強敵に対峙する真虎。
対するは、自身の欲望のために、どこまでも突き進もうとする神待ち入道。
誰の目も届かぬ闇の領域にて今、二つの強大な意思と力がぶつかり合おうとしていた……!!
〜〜end〜〜