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魔法少女物語~魔法の××× マジカル○○○~  作者: 庭野 ワニ
パラレル女番長 登場
53/54

第10新卒:『パラレル女番長』その6




【夢咲いちご/パラレル女番長】




 なるほど、今回の極悪帝国はピエロっていうワケか。

 三日前に自分の世界からいなくなったアタシにとっては初めて見る相手……。だが、今更、極悪帝国など相手にしたところで、苦戦もしえないだろう。

 周囲を見回すと、不安に駆られている群衆の姿がある。それは、まるで、ピエロよりもアタシを恐れているかのようなまなざしだった。視点はすべて、あのピエロなど忘れて、アタシに集中している。

 かつてサインをねだられたマジカル女番長を見る瞳ではなかった。そんな孤独な気持ちを味わうのは、あの地獄の三日間を含めても初めてだった。


「――マジカル女番長、逃げてっ!」


 ふと反応しそうになるが、そのマジカル委員長の一声はアタシに向けられたモノではない。仮面の裏で、アタシはマジカル女番長を睨んだ。

 蛇が蛙を睨むように、逃がさないという意思を向けたつもりだった。


 今、目の前にいる戦士は、すべてがアタシの敵だと考えて良いだろう。

 しかし、その為にも、優先順位がある。やりやすくするために、邪魔な物から早々に片づけてしまおう。


「極悪帝国、か……」


 そう。まずは彼らが、邪魔だ。アタシたちの戦いを妨害する可能性も否めないし、何より今でも極悪帝国はアタシの宿敵に違いない。彼らの侵略行為は許されざるものだ。

 先ほど投げてしまった木刀に代わって、再び新しい木刀を作り出す。

 垂れ下げるように伸ばした腕に、木刀が握られる。


「なんダ、貴様は……一体、なんなんダ……?」


「これ以上知る必要はない。あんたたちは、これからすぐに……全滅する」


 そう言った次の瞬間には――アタシの身体は戦闘ロボットのもとに肉薄していた。

 別に今はマジカル女番長も含めて攻撃するつもりはない。邪魔な敵を片付けた方が、彼女たちも心置きなく現実と向き合えるだろう。

 しかし、念を押して、アタシは構える三姉妹に言う。


「動くな、マジカル三姉妹(スリーシスターズ)。こいつらは、アタシが三分で終わらせる」


 人を縛れるほど冷たい言葉を、かつての仲間と自分自身に向けて告げる。

 風のように接近し、鉄仮面の裏で眼光を向けたアタシに何を思っただろう――誰もその場から動く事はなかった。

 再び、極悪帝国たちに視線を向ける。


「ギィ……!?」


 まずは、戦闘ロボットどもを纏めて始末する――。アタシは木刀を目の前の戦闘ロボットの頭に向けて突き出した。もはや、それは鉄の塊と呼ぶにはあまりにも柔らかい。あっさりと貫いた。

 スイカ割りのように、ぐちゃりと潰れた戦闘ロボットの頭は、火花を散らした。木刀を引き抜くと、中から血のようにオイルが飛び散る。

 どろどろとした液体が一斉にアスファルトを汚す。


「消えろ」


 言い捨て、叩きつけるようにして真上から木刀を振り下ろすと、戦闘ロボットは真っ二つになって爆発四散した。


「まずは一体……いや、振り返れば二体目か――」


 それを見ても戦闘ロボットたちは引き際を知らない。

 他の戦闘ロボットたちは、一斉にアタシを敵と見做(みな)して、砲火を続けた。多量の弾薬の雨を、アタシは木刀一つで弾き返す。すべての攻撃が止まって見えた。数十発の弾丸すべて(はた)き落とす――。

 と同時に、高く飛び、ある戦闘ロボットの肩に跨った。


「ギィ……」


 敵の首に脚を絡めて締めつける。動けなくした敵の首を、木刀を一度投げ捨て、そのまま素手で掴むと、少々力を込めて、もぎ取った。

 戦闘ロボットの生首は、脊髄のように繋がった導線ごと、胴体と分断した。

 アタシがその首を、思い切り、敵の一体に向けて放り投げた。何かが爆裂する。


「――ふんッ」


 アタシはそこに乗ったまま、右手に短機関銃UZIを構える。

 これは、魔法(マジカル)によって出したモノではない。完全な実銃だ。

 殺し合いの最中で獲得したもので、既にアタシ以外の誰かがこれを手に取って誰かを殺した獲物だった。アタシは、リュックサックの中に入れていたそれを、魔法でその手に呼び出したのだ。

 首が捥ぎ取られた戦闘ロボットに、真上からUZIの弾丸を撃ち込む。


「爆ぜろ」


 ダダダダダダダ……。

 弾切れになるまで、連続して弾丸が落ちていく。様々な機械部品や液体がアタシの顔に向けて跳ね返ってくるが、その攻撃によって内部メカがズタズタにされ、戦闘ロボットは完全に機能を停止した。

 爆裂する前に、そこを離脱する。


「なんてえぐいやり方……」

「あれがマジカル女番長なの?」

「でも、マジカル女番長はあっちにも……」

「まあちゃん、見ちゃダメ! あれは悪い雑魚の狩り方よ!」


 人々の声。

 呆然とするマジカル三姉妹(スリーシスターズ)

 決して恐怖しないロボットたち。


「あれが、アタイなのか――どうしてあんなやり方をッ!」


 もうひとりのアタシが、動かず――しかし確かに苦虫を噛み潰していた。

 見下すように、アタシはそちらを見る。

 自分の事だ……自分で考えろ、と。

 弾丸の切れ用済みなったUZIを地面に捨てた。それは、アタシたちの呼び出す武器と違って、もう消える事はない。地面を滑っていった。


「壊れろ」


 続けて、アタシは、目に入った戦闘ロボットに馬乗りになって、その胸元をメッタ刺しにする。

 戦闘ロボットは中身をまき散らした。これも爆発した。


「煩わしい」


 アタシは、倒れた戦闘ロボットの頭を踏み抜いた。ぐちゃりと、あっけなく潰れた。


 ああ。……既に、この体には、既に、かつてしていたような無駄口を叩き合う楽しくて軽いノリの戦いなどない。

 アタシが三日間経験したのは、念入りに倒さなければ自分の方がやられてしまう凄惨な殺し合い――百人が争い合う戦争だ。

 やり方はむしろ、こうでなければ意味がない。

 敵に情けをかけた瞬間、背中を狙われ死んだヤツを――殺し合いの最中に見た。

 たまたまアタシはそういう目に遭わずに済んだが、殺意を伴った敵を前に、情けは不要である事をその時に学んだ。

 何体も、アタシのやり方が最新型の戦闘ロボットを潰していく。


「――ギィ……」


 すぐに彼らは全滅し、辺りは火の海になっていた。

 辛うじて発声機能だけが残っている戦闘ロボットが、小さく断末魔のような音とバグったような音を鳴らし続けているが、じきにそれも終わるだろう。

 この光景を見た周囲からは小さく悲鳴もあがっていた。

 観客たちは、いつしかこの戦争をショーとして見るようにもなったが、アタシの戦い方は娯楽ではない。地球と帝国による、本物の代理戦争だ。


「――な、なんなんダ……貴様!

 我々より極悪……そのやり方、まるで……悪魔じゃないカ!」


 あとは、小隊長のピエロだけだった。アタシは、そいつを見ていた。

 おぞましいものでも見るかのようにこちらを凝視し、しかし、目が合うとすぐに目を逸らそうとするこの敵――相当怖気づいているようだが、逃がしはしない。

 アタシのこの手には、木刀が残っていた。


「こ、これはし、仕方がないヨネ……! きょ、今日のところは撤退するヨ!」


「――逃がすわけが、ないだろう」


 振り返り逃げ出そうとするピエロに向けて、アタシの手から放たれるのは御縄妖妖(オナワヨーヨー)だった。――それは打撃を与えるとともに、相手の身体にぐるぐると周回して絡まった。

 ピエロの身体は、動けないように、念入りに拘束される。

 きつく、縛り上げるように――。


「がっ……痛いっ!? カラダが締め付けられる……!!

 な、なんだこれは……! 魔法(マジカル)じゃない……!?」


「ああ。そうだよ、アタシの“魔法”は痛いんだ」


「き、貴様……な、何故こんな……こんな魔法(モノ)を……」


「知らないよ。理由なんてないさ。

 アタシたちの平和を脅かしたかった誰かが、これを与えて、運命を壊したのさ」


 アタシだって知らない。だが、そうなった。

 お互い、不幸な事だっただろう。


「それだけだッ」


 アタシは右手の木刀を、ピエロに向かって叩きつける。

 勿論、本気は出さない。本気を出せば、一撃で頭蓋骨をザクロに出来る。

 そんな木刀が、左腕を殴打したのだ。


「あ、あがぁっ…………!!!!」


 ピエロは、喉の奥から吐き出されたような、(たん)のかかった(うめ)き声をあげた。

 確かにこの手には、左腕を折った感触がした。

 彼にとっても、思わぬほどの衝撃だっただろう。


「……どうした、極悪帝国。

 これは戦争なんだろ? これでもまだ地球を侵略するっていうのか?」


「あ、あふぅ……い、いだい……だずげで…………こいつにごろざれる…………」


「返事ができないか。それなら、もう一撃――っ」


 アタシはまた木刀を構えた。

 何せ、マジカル女番長亡き後のこの世界は、こいつらに侵略されかねない。

 考えてみればわかる事だ。その先手として、アタシはこいつらを倒し、二度と地球侵略ができないように見せしめにする必要がある。

 殺せば刺激になるか、撤退する理由になるかはわからないが――アタシは覚えている。彼らは、最初の襲撃で、「我々には死の覚悟がある」と明確に宣言した事を。


「――や、やめなよっ! あんた、マジで自分がやってる事わかってんの!?」


 と、背後から声がかかった。耐え切れずにマジカルギャルが向かってきたのだ。

 優しいミウの事だ。たとえどんな敵であれ、こういうやり方は気に入らないに決まっている。


「ふんッ」


 ――が、アタシにも事情がある。


 駆け寄った彼女の眼前に向けて、アタシは木刀を突き出す。

 突如、目の前に現れた武器に、マジカルギャルは動きを止めた。


「……わっ!?」


「マジカルギャル。アタシの攻撃は、これまでの戦いとは違う。痛みを伴うよ。

 ……それがなければ、こいつらはわからないしね」


「――だからって!」


「じゃあ、仕方がない。これでどうだッ!」


 どしりっ! ――と音が鳴る。

 アタシは、その木刀を、そのまま、ピエロの間近くの地面に突き立てたのだ。

 重量のある鉄球が落下したように地面が抉れて、この道路にも小さなクレーターが生まれた。割れた地面に、ピエロは体ごと沈み込むように転げ落ちた。

 深さはないとはいえ、いまの威力にピエロは泣きべそをかいている。

 痛くはないだろう。しかし、それが当たればどうなるかだけはわかったはずだ。

 少なくともこいつに関しては、二度とこの地球を侵攻しようなどとは思わないに相違ない。


「失せな。……二度と来るんじゃないよ。次に会ったら、殺すからね」


 告げると、泣きながら、ピエロが必死で頷いた。

 御縄妖妖(オナワヨーヨー)の拘束を解くと、彼は即座に左腕を抑えて立ち上がった。


「は、はぁ……も、もう地球なんか行くもんカ……!

 これじゃあボクたちの給料に合わないヨ……!」


 こちらを警戒するように見て、何も言う事もなく――闇の世界へと帰って行く。

 どうやら、今回の極悪帝国の襲撃はこれで終わりだ。地球に残された残骸(ゴミ)の数々は引き取ってはくれないらしく、それはアタシたちの周りでめらめらと燃えている。

 人気は一斉に消えたが、サイレンの音が聞こえてきた。


「さて、極悪帝国は約束通り三分で片付いた。

 あとは――」


 アタシは、ただ、その炎の中心で三人の魔法少女(マジカリスト)と対峙する。

 三人でかかってきたところで、もはや勝ち目はないだろう。

 アタシたちの攻撃は本来、痛みのない仮想ダメージを連ねて戦うシステムがある。しかし、そのシステムがアタシに関してだけは崩壊している。つまり、アタシの攻撃を食らえば、死ぬ事だってある。


「――マジカル女番長。アタシの狙いはあんただけだ。

 さて、どうする?」


「……なんであんたは、そうまでしてアタイを狙うんだ」


 もうひとりのアタシが、震えながら問いかけてきた。

 答える必要もないが、「なんだかんだと訊かれたら答えてあげるが世の情け」という慣用句がある。そう、情けと義理はかけてやるのが筋だ。

 それに、相手は他ならないアタシだ。アタシへの悪態はアタシに返ってくる。

 だから、答えてやる事にした。


「三日前、アタシたち三人は悪魔に誘拐され、百人の魔法少女と異世界で殺し合いをさせられた。

 アタシとあんた、違うのはその三日分の経験だけだ。それまでは同じ出来事を経て、同じように生きてきたよ。

 そして、そこにいる二人は、戦いの中で殺された。

 他に出来た多くの仲間も、次々と死んでいったんだ……。

 ……みんなを生き返らせる手段はただ一つ。最後に、アタシ自身の死に様を捧げる事だ!」


 ――特攻服が風に揺らめく。

 はっとした様子のアタシの顔が見えた。


 たまたま運命のいたずらで、光の存在のままでいられた目の前のアタシ。そして、その運が巡ってこなかったこのアタシ。

 正しくいられるか、悪に落ちずにいられるか……その際どい橋の上をずっと渡ってきたに過ぎないのだ。


 改めて、アタシの前で言葉にすると、やはり胸の奥底に嫉妬心が湧き上がる。

 きっと、アタシにとって地獄だった三日間、何も考えずボーッと生きていて――それでも平和で、人々の羨望を浴びられて、子供にお礼を言われて、隣に仲間がいる。そんなアタシが羨ましいと。

 そうやって生きられるのは、もしかしたらアタシの方だったかもしれない。そう思うと、とても悔しいものが湧き上がる。

 これまでどれだけ優しい戦いをしてきたか、それがいかにアタシにとって良かったかは言葉に出来ないほどだと思う。――だけど、それはもう出来ない。


 ……いや。

 ……全部、自分の事だ。

 これ以上はやめておこう。考えるのが、ここまで不毛な事はない。

 目の前のマジカル女番長は、傍らの二人をちらと見た。そして、アタシに言葉を投げかける。


「……なるほど。じゃあ、そうか……。

 あんたは……アタイは、仲間を、見捨てない為に……!」


 アタシは――おそらく目の前のアタシも――かつての事を思い出す。

 委員長の命を助ける為に、世界を明け渡そうとした――非情の殺し屋クロック・ボーガンとの戦いの事も。

 母親にその座を奪われて、ミウと喧嘩になった――キャプテン・コバルトマリンとの戦いの事も。

 それぞれが巡り合う事になったすべてのはじまり――マスクド・チェーンソー・タカハシとの戦いの事も。

 そして今、その時と同じように――アタシは、どんな手段を取ってでも仲間を生き返らせるという道を選んだに過ぎなかった。――目の前にいるアタシが納得しないわけがなかった。


「――だとしても」


「やらせないし!」


 しかし、同時に、アタシの仲間だけは納得しなかった。

 マジカル女番長の前の障壁になるようにして、マジカルギャルとマジカル委員長とが、手を広げるようにして立ち塞がっている。

 わかっている。計算通りというほど計算して戦っていたわけではないが、何となくそうなる事は考えていた。

 たとえ、その行為に意味がないのだとしても、彼女たちはお互いを庇い合うだろう。

 アタシの隣にいた仲間と、この二人はやはり、全く同じ存在なのだと実感する。


「マジカル女番長、逃げて。

 このアナザー女番長は私たちが食い止める!」


「行って! マジバン! にせ女番長には負けないから!

 とりあえず、後で、駅から一番近い本屋(・・・・・・・・・)で待ち合わせねっ!」


 二人はそう告げた。

 正直、呼称を統一してほしくもあったが……それはまあいい。

 目の前で、アタシ(・・・)が悩んでいるのが見える。


「でも……っ! そのアタイは――」


「――マジカル女番長くん、ダメだ、行こう!

 パラレル女番長の狙いは、あくまできみだ!」


 ワニワニンが言う。

 アタシがこの二人を殺す事はない、という前提で動いているらしい。的中している。アタシは仲間を殺せない。

 ……しかし、アタシはアタシ(・・・)についてまだ知っている事がある。それは、――アタシ(・・・)は、絶対に仲間を見捨てないという事だ。

 だから、捕まえて人質にでも何でもすればいい。仲間を見捨てないアタシは、きっと来る。卑怯なやり方だが、優先順位の上では仕方がない……。


「まずはマジカルギャル……マジカル委員長か……。

 だが、逃がしても無駄だ。すぐに見つけ出す」


 目の前でマジカルギャルとマジカル委員長が、じりりと深く構えていた。

 肝心のマジカル女番長はワニワニンを引き連れて、後ろめたそうに逃げ始めてはいるが――今は見逃そう。

 周囲にやって来た警官たちは、迷いながら――アタシのもとに銃口を向けた。

 人類すべての敵になった気分だった。


「悪いけど、すべてをかけて止めさせてもらうわ!」


「右に同じねっ! まあこれもマジバンの為だし、めっちゃ本気出すよ!」


 二人の手にそれぞれの武器が握られる。

 彼女たちとは、それぞれ一度、二度程度、仲間割れを起こして戦い合っている。

 しかし、二人纏めて敵とは――アタシの胸の内に何か嫌な物が這い回る。

 ここにいる三人、誰も戦いたくはないのだろう。


「こうなるのは、残念だな……」


 悲しい声が喉から出た。

 それでも、やるしかない。この二人がどうして死んだか、頭の中を過る。

 たとえ何があっても、死なせたままにするわけにはいかないのだ……絶対に……。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆




【夢咲いちご/マジカル女番長】




 ……不安な心のまま、アタイは街を逃げていた。

 どこへ逃げたって、修羅のマジカル女番長に勝てる気がしない。

 それに、こうして逃げている間にも、ミウと委員長は――あの冷酷な敵を前に、アタイとは思えないアタイを前に、二人は無傷で済むか考えるといてもたってもいられない。

 友達を見捨てない、というその想いさえ捨ててしまっているんじゃないか……。そんな気がした。


 ……そうだ。

 いずれにせよ、すべてはアタイの性格に起因する。この直近三日だけ別の生き方をしたアタイ自身が襲って来ている。それは、今のアタイ自身の闇を反映している存在と言ってもいい。

 それ以前のあれだけの戦いや出来事を経ても、「夢咲いちご」はあんな悪役のような行動を取れるのだ。

 そして、それが多くの人間に迷惑をかけている。

 ……ヒーローのように讃えられてきた日々こそ、偽りだったのかもしれないと思う。


「……マジカル女番長、いや、いちごくん。

 ごめんね、ぼくのせいで、いつも危ない目にばっかり遭わせてしまって……」


 ふと、胸に抱えていたワニワニンが口を開いた。彼はあまりにも暗い口調で、アタイは思わずぞっとする。

 なんだか、アタイたち以上に戦いに大してネガティブな感情を抱いているんじゃないかとふと思った。――息を飲む。

 それに対して、どう答えればいいのかわからないまま、時は過ぎ、アタイの耳に訴えかける呼び声が聞こえた。


「――マジカル女番長! こっちですわ!」


 我に返る。

 聞き覚えのある声だ、と思った。


「クリス……!」


 それは、金色のジャンパーを着たクリスだ。目の前に現れるなんて、驚いた。アタイの変身前の荷物まで持ってきてくれて、うまく合流できた事に内心ほっとしている。

 すぐにクリスのもとに駆け寄った。


「……事情は、すべて見ていましたわ。

 自分自身に命を狙われるなんて、大変ですわね、ホントに……」


「自己責任だよ……。考えてみると、アタイにとっては……自分が一番怖い」


 何しろ、アタイは地球を裏切った事だってある。自分を裏切る事だってあり得る。

 大事なモノの為には何でも犠牲にしてしまう……そんな温情が夢咲いちごの中には眠っているのだ。

 思い起こすと、それが事の発端な気がする。


「――そう、ですわね……ワタクシも同じかもしれませんわ」


 クリスがそう言った。

 クリスもアタイの事を怖がっているというのだろうか……。まあ、無理もないだろうと思う。……だけど。


「――さて、そんな無駄話より、今は逃げましょう!

 無駄話は逃げてからするもの!

 隠れるのに最適な場所(スポット)がありますわ」


 そう言って、クリスはアタイの手を引く。

 どきりとしつつも、アタイは強く手を引かれて走った。なんだかんだ言っても、クリスは助けてくれるのだ。

 隠れるのに良い場所と言われたが、アタイはその場所をちょっとした建物の陰の路地だとか、天楽市から遠い場所だとかだと思っていた。

 だけど、それからクリスが向かった場所は――ある喫茶店だった。






 すぐに、小さな喫茶店についた。

 場末のバーみたいに小ぢんまりとしていて、入口にかけられた『CLOSED』の看板のお陰で、店内にはお客さんもいない。……それにしても、その看板、裏には『探偵物語』としか書いてないし、これじゃあ開店しないんじゃ……と思うんだけど。まあそれはいいや。

 カウンターに、仕込みをしている店主らしき男が立っていた。


「マスター。GRセット・スペシャルメニュー、二人前お願いしますわ」


「――ナポレオンの切り札は?」


「ダイヤの15」


 ……マスターらしき長身の男に、クリスは何やらよくわからない事を言っていた。

 マスターは、アタイの方を見てちょっと見たが、別に何とも思っていないらしく、すぐに仕事に戻った。少し松田優作似だ。


 しかし、その優作風のマスターにそう言って案内された席のあたりには、トイレしかない。アタイは疑問に思う。まったくよくわからないんだけど、クリスが平然と男女共用トイレのドアを開けた。

 すると、そこは地下へのエスカレーターになっている。……この下にトイレがあるんだろうか? と考えるには、なんか、エスカレーターって……。

 え? どういう事なんだろう……。


「いちごさん。ここから先は全て機密事項ですわ。口外無用。わかりましたわね?」


「あ、ああ……なんだかわからないけど」


「では、教えましょう。

 これこそ、ワタクシがバイトしている秘密組織……マッドサイエンス研究所!

 異世界のあなたといえど、こんな秘密基地に気づくはずがないでしょう!?」


 クリスはなんだか嬉しそうだ。

 そういえば、喫茶店の地下にあるとか何とか転職サイトに書かれていたのを思い出す。

 それでマスターと暗号を言い合ったり、トイレがエスカレーターになったりしたのか……。


「秘密基地、か……」


 アタイは、まったく知らない企業の内部に勝手に入っているという事で、相当不安になっている。バレて怒られたりしないだろうか。悪い意味でドキドキしている。

 一方、ワニワニンはエスカレーターが下に進むにつれ、その長すぎるエスカレーターの横――見下ろす為の窓で行われている作業や、その設備に驚いていた。


「……凄い。地球にこんな技術があるなんて――」


 アタイたちが向かった地下は、どこにそんなものがあったんだと思うくらいだだっ広い地下空間だったのだ。

 ガンダムもイデオンもザブングルも格納できてしまいそうな、テレビでしか見た事のないような超巨大秘密基地――。

 こんなものが、街の地下にあったのか……。道理で千葉県にはろくな地下鉄を作れないわけだ。これを見て平然としていられるのは、この世でクリスくらいだろう。


「ほんとだ、すごい……」


 マッドサイエンス研究所。

 えっ……これが高校生のバイト先なの? と、アタイはまず真っ先に思ってしまう。

 確かに、狂ったような科学力が結集した、まるでヒーローか悪役かしか作り得ないような超巨大な地下基地……。


「――さあ、変身を解いて。作業着エプロンと帽子を着用してくださいな」


「あ、ああ……うん」


「これだけの設備がありながら、我が研究所は管理がザルなので、

 作業着さえ着れば、部外者がうろついてもバレませんわ」


 言われた通り、アタイは――アタシは変身を解いて、夢咲いちごに戻る。

 それで大丈夫なのか、と思いつつも、言われたように、渡された帽子とエプロンをつける。

 エスカレーターを降りて到着すると、膨大な白衣の研究者たちと、作業員が働いていた。誰も彼も、自分の事しか考えて居ない様子で、しかし、多くの人々は何か良くも悪くも楽しそうだった。確かにマッドサイエンティストが多そうだ。それはみんな顔や髪形に出ている。

 クリスは、変な事務所に入っていった。アタシは念の為、帽子を深く被る。


「今日のシフトは……あら、丁度良いですわ。相羽くんだけですわね。

 では、休日出勤という形にはなりますけど、商品倉庫に行きましょう」


「……」


「いいです事? いちごさん。そこで、ワタクシに全てを話しなさい」


 クリスの口調は、妙に険しい。アタシに対するクリスらしくないように感じる。

 そうか、クリスはあのアタシを見て恐れてはいるんだ……。

 なんだか、大事な友達に警戒されるようになるなんて、凄く胸が嫌な気持ちになるものだと思った。アタシの印象についた泥はすぐには消えない。もう二度と消えないかもしれない。

 しかし、調子を変えてクリスは続けた。


「――それから、ついでに、今のあなたに必要な武器や発明品もすべて無断で貸しますわ。

 あのダーク女番長に対抗する為には、この組織の持っている装備を使う必要があるでしょう?」


「装備って……」


「マッドサイエンス研究所はその名の通りマッドサイエンティストしかいませんわ。

 あらゆるクソ科学によって作られた異常発明の数々……それを差し上げるというのです」


「でもいいの? もしそんな物が盗み出されたら……

 マッドサイエンティストたちが何するか……」


「大丈夫ですわ。

 何しろ、今日のシフトには二百億円相当の被害を隠蔽(いんぺい)できる男がいますから」


 クリスが、口元をゆがめつつ、なんだか恐ろしい事を言っていた。

 とにかく、アタシは、クリスの指示でその商品管理倉庫まで行く事になった。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆

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