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魔法少女物語~魔法の××× マジカル○○○~  作者: 庭野 ワニ
マスクド・チェーンソー・タカハシ 登場
3/54

第1新卒:『番長×委員長×ギャル』その2




【夢咲いちご】




 色々飛ぶが、一日の授業が終わった。その後の授業風景まで逐一丁寧に語る気はさらさらない。

 魔法はもう間もなく出てくるから待ってほしい。




 帰り道の土手は、ややあって委員長の緑川綾香と一緒に歩いていた。

 スケバンスタイルのアタシと、おさげ髪のめがね少女である委員長とが並んで歩くのは、周りから見てちょっと異様だったみたいでもある。

 何となく好奇の目があった。

 聞こえるのは、「マニャポッペ星人が云々」「電波が云々」という声で、どことなく不穏だったが、とりあえずそれはまあ一端置いておこう……。


 アタシは今日、この高校に入って初めて、他の誰かが一緒に帰ってくれるのを待った。

 挨拶の終わりとともにすぐに回れ右して教室から出て帰ってしまうアタシには、昼休みに一緒に帰る事を約束して、その相手を待つなんていう事はなかったのだ。


 委員長がそこまでしてくれているのは嬉しいが、なんだか他人に面倒を見られているようで少し悔しい気持ちもある。

 ……他人の好意に対して、あんまりそんな事を思うのは、性格が悪いのかもしれないけど。


「それにしても、夢咲さんにそんな過去があったなんて思いませんでした」


 委員長は、どこか冷たい鉄のように感情のない敬語を使って話す。慇懃無礼というんだろうか。なんでか、悪い人じゃないのに怖い。

 ただ、委員長はやっぱり純粋でもあるんだと思う。

 悪気もなしにこうやって話しているが、その話はアタシの傷を抉ってくる。


 ……アタシの過去がどうのっていう話。

 正直言って、その話をされるとアタシはちょっと心苦しい。

 あの作り話のドラマ。




 ――五歳の時にヤンキーに絡まれたのを助けてもらった。




 ……などというのは、当然真っ赤な嘘。


 いや、こういう過去がある方がカッコいいし、ドラマになりそうではあるけど、アタシが本当にやりたいのは、自分の過去を捏造ねつぞうする事じゃない。

 女番長になろうというアタシにとって、こうして筋の通らないその場しのぎの嘘をついてしまうのは、許しがたい不義だ。


 器量きりょうが小さく、人として弱すぎる行為。

 たとえ喧嘩は弱くても、心は女番長でありたいと思っていたが、アタシは、やっぱり心も弱すぎたのだ。



 やっちゃった。そういうやっちゃいけない事をやっちゃった。あーあ。



 なんでこんな嘘をついてしまったのだろう。

 過去の自分を消したいし、なるべくなら未来の自分も消したい。

 しかし、それはやっぱり嫌なので、一番簡単な解決策として周囲の記憶を消したい。

 だが、残念ながら人の記憶はすぐには消えない。

 人の記憶がすぐに消えるように今すぐ神様がこの世界の理を書き換えてくれないかなと思う。

 と、ひたすらに時間が空いている間をウジウジ考える。


 ……たぶん、あの時は何となくバカにされているようで悔しかったから、同情的な理由で抵抗しようと思ったのだ。それは、まるっきり裏目に出てしまった。

 罪悪感、敗北感、無力感、恥ずかしさ……だけではなく、ここから先は引き返せない状況に陥っていくと気がする。この嘘を貫き通さないともっとナメられるんじゃないかという気持ちが、どこか胸を占めてきている。

 嘘っていうのは、怖い。


「ま、まあね……アタシも色々あったからさ」


 アタシは、とりあえず抽象的な事を言って、可能な限り思わし気な瞳で空を見て、壮大な過去をほのめかし返した。

 ほのめかすような態度を取っただけで嘘はついてない、と思いつつもなんだかそれと変わらない気がした。



 あーどうしよう。このまま嘘に嘘を重ねなければならないのだろうか。



 正直言って怖い事しかない。これも、時が経てばうまく忘れ去られてくれるかなと思うが、こうやって触れてくる相手がいる以上、簡単に行く気がしない。

 他人の過去を掘り下げないでくれる相手が多い事を望みたい。


「でも、何故そのヤンキーたちは五歳のあなたに攻撃的な態度を取ったんでしょうね?

 五歳に絡むヤンキーっていますか?」


「うっ……! え、えーと、アタシもあんまり覚えてないかな、その辺は」


「もしかすると、幼いながらに大金を持っていたとか、ヤンキーが度を越した幼少女愛好家だったとか……

 まさか、そんなおぞましい事が」


「そ、それはないと思うよ。ほら、悪いヤンキーの考える事なんてわかんないもんだし!

 きっと、薬物で脳改造されて人間辞めてる奴だったんだよ……!」


 ちょっと苦しいかも。大丈夫かな。

 だが、委員長は想像以上に納得した。


「……まあ、それもそうですね」


「うん、そう」


「ヤンキーは、すべからく薬物で脳改造されて人間を辞め、

 オレンジレンジか湘南乃風を聞いていて、

 マガジン派かチャンピオン派しか存在せず、

 いずれにせよクローズを愛読し、十代で子供を産み、

 喧嘩のファイトマネーと恐喝とオレオレ詐欺で生計を立てながら、

 廃墟に集まり夜な夜な非道徳に耽るものだと聞いていますし……」


 そこまでは言ってない。

 アタシの発言の段階でも不適切でヤンキーに失礼だとさえ思ったのに。誰だろう、委員長にこの偏見を流布るふしたのは。


 ……しかし、やっぱり考えてみると、最初の嘘はツッコミどころだらけの話だったかもしれない。


 あのギャルのノーコメントも多分、アタシの発信したこのアヤしい情報を切磋した結果生まれた沈黙だったんだろうか。

 そう思うと、見透かされてたようで、超恥ずかしいし悔しい。

 この嘘設定を出来ればもうちょっと練って、頭の中で真実だと思い込んでから発言した方が…………とか考える自分が惨めだった。


「あら」


「ん、どうしたの、委員長」


 ふいに委員長が立ち止まった。

 よかった、話題が切り替わる。ホッとした。


「なにかしら、あの……ビームライフルから発射されたメガ粒子砲か、あるいはレーザービームのようなモノは」


「レーザービーム?」


 委員長が真上を見上げていたので、空を見ると、なんだか三色のカラフルな光が空を飛んでいた。……飛んでいたというか、流れ星のように落ちてきている。

 やっぱり、普通にたとえると、レーザービーム、というか綺麗な流れ星では……?

 質量がなさそうな光だが、光というにはあまりにもゆっくりと落ちている……。なんだろう、あれは。

 まだ夕方の空に、流れ星なんて見えるんだろうか。


「なんだあれ、流れ星かな?」


「そんなわけないでしょう、あれはきっとレーザービームです」


「それも違うと思うけど……というか、あれ、こっちに落ちてきてる気がするんだけど……」


 アタシの中に焦りが到来する。

 あの流れ星が、本当に隕石だったら、アタシたちは死ぬ。

 離れても危険かもしれないが、離れた方が少し安全になるのは確かだ。


「やばいよ、委員長! 逃げなきゃ!」


「……夢咲さん。女番長が背中を向けて逃げるんですか?」


「いや、いいんだよ、こういう時は逃げたって!

 委員長だってあれが隕石やレーザービームだったら逃げるだろ!

 危ない時、逃げたい時は、逃げていいんだ!」


「それもそうですね。

 あれの正体はわかりませんが、とりあえず、まずは逃げましょう!」


 そう言って、アタシたちは慌てて背中を向けて、その光の落下地点から逃げようと走り出した。

 とりあえず、前の方で落ちているから、後ろに逃げれば大丈夫のはずだ。

 ……が、どう足掻いてもあんまり意味がなかった事に、すぐに気が付いた。




 だって、アタシたちは、揃って短距離走のタイムがカスなんだから。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆




【緑川綾香】




 ……その光は、私たちの背中にふと温かなぬくもりを与えて消えました。

 赤、緑、青のみっつの光……だったような気がするのですが、恐ろしい事にそれはまっすぐに地面に落ちるのではなく、動いている人間を追尾して落下寸前で軌道変更し、私たちに命中しました。


 私は、振り向きざまについその光景を見てしまったのです。

 追われている怖さが胸をよぎりはしたのですが、そんなの一瞬でした。


 私たちは揃って走りが苦手です。

 夢咲さんと一緒に背中を謎のビーム攻撃に襲われ、僅かな間衝撃が来たんですが、体はなんともありませんでした。


「――ねえ、いま、あの流れ星みたいなの……当たったよな?」


「ええ……当たったはずですけど」


「なんだったんだ、今のは……」


 そうして頭にハテナを浮かべつつ、どことなく怖がっている夢咲さんを私はじっと見た後、こういう時の対処法を調べる術を思い出しました。


「そういう時は、とりあえずスマホで調べましょう」


 そう、我々の心強い味方――インターネットの大手検索サイトです。病気かなと思ったらまずこちらで調べておけば、危険かどうかはわかるでしょう。

 試しに思い当たる検索ワードを調べました。


 空・光・命中・病気とか。

 紫外線とか。

 レーザービーム・命中とか。


 ……まあ、色々調べてみたのですが、どうも該当しそうなものがありません。画像なんかは特にさきほどの光景から縁遠いものばかりです。

 つまり、検索能力が低すぎて話にならないか、あるいは、ネットの海からは探し出せない事象という事です。

 諦めて、スマホはすぐにしまいました。


「……なんだったんでしょうね、さっきの」


 私はそう答えました。夢咲さんも背中に命中したはずなのですが、制服には別段怪しい様子もなく、さすってみてもおかしいところはありません。

 まさか脱がせるわけにもいかないので、とりあえず身体に痕があるのかは保留します。

 私も背を見せましたが、何ともないとばかりに夢咲さんは首を振りました。

 夢が現実なのかが心配になってきた頃、夢咲さんも同じ事を考えていたのか、私にこう聞きました。


「ちゃんと見たよな? 赤と緑と青の光」


「ええ。色もそのみっつ。私も確かに見ました」


「虹ではないと思うんだけど」


「きっと……誰かがトリック的な何かで見せたか、もしくは人工衛星からの対人レーザービーム攻撃実験のどちらかです」


 科学的に考えるとそうだと思います。ざっくりしていますけど、答えなど出ようはずもありません。疑問は突き詰めて考えてみたいとはいえ、無理な物は無理です。

 そう、無理を掘り下げてもどうしようもありません。

 まして、そんな事の為にこんな土手の上で呆けていても仕方がないのです。


「まあ、今のが何だったのか考えるのはいったんやめましょう。

 どうせ大した事じゃありません」


「人工衛星からの対人レーザービーム攻撃実験だったら大した事だと思うけど」


「だとしても、私たちにはどうしようもありません。

 何かが起きたら、病院で診てもらうだけです」


「……まあそうかな。仕方ない」


 このまま立ち止まっていると、帰るのが遅れるでしょう。

 帰りが遅くなるほど家族は心配し、家に帰って出来る事も減ります。

 勉強、読書、ティータイム、料理、シャワー、テレビ鑑賞、ネットサーフィン、SNS、部屋掃除、瞑想、猫ちゃんのお世話、ひとり枕投げ、ペン回しの練習、フィギュアーツのポージング……帰ってからやるべき事もやりたい事も様々です。

 それを考えると、いま起きた出来事なんてどうでも良くなるはずです。


「帰ろう」


「そうですね」


 私たちは、先ほどの出来事は切り替えて、帰宅の為に歩き出す事にしました。

 しかし、そうしてお互い押し黙って歩いていると、ふと夢咲さんが声を出しました。


「――と思ったんだけど……なんだ、あれ?」


「何か?」


「ほら、あそこ……あの橋の下」


 夢咲さんに指を差されて見てみると、そこにはあまりに「可哀想」な光景がありました。



 橋の下には、誰かに捨てられたと思しき小さなワニの赤ん坊に、日本語で喋りかけている青山さんの姿があったのです。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆




【青山未羽】




 ……帰る途中に青い光が直撃したと思ったら、そのままウチの頭のうえにワニが落ちてきた。


 ワニっていっても、なんかちっちゃくて子猫くらいのワニなんだけど、なんだろうこいつ。

 こんなワニいるのかな。赤ちゃんかな。


「……いたたたた。あ! やあ、ぼくはワニワニン」


「あ、なんだ、しゃべるんだこれ。……こんにちは、ワニワニン」


「こんにちは、君の名前は?」


「ミウだよ」


 なんだ、おもちゃか。最近はこういう会話できるおもちゃあるんだよね。


 考えてみれば、こんな小さくて喋るワニとかいるわけないし。

 そもそもワニっていうか、なんかマスコットっぽい。肌ざわりはモフモフでぬいぐるみっぽいし、地面に置いてみたら四つん這いじゃなくて二本足で歩いてる。

 やっぱ、ワニなわけないや。


 まあ、結構かわいいじゃん。

 誰かが橋の上から落としたのかな。


「ミウくん。

 もしかして、さっき、きみは青い光に当たったのかい?」


「当たったよー。

 ねえねえ、ワニワニンの好きな食べ物は何?」


「パセリだよ。

 ――ところで、その光に当たった件についてなんだけど……」


「ね、ワニワニンってどこから来たの?」


「北朝鮮だよ。うそ、冗談。魔法の国的なところだよ。

 ――……で、その光に当たると、魔法マジカルが使えるようになるんだけど……。

 ちょっと、とても申し訳ない事があってね……」


「ウケるー。

 じゃあ、ワニワニンの好きな文房具は?」


「蛍光ペンだよ。

 何故かと言うとノートの中身をカラフルに出来て、若干にぎやかな気持ちになるから。

 ……えっと、その、マジカルが使えるようになった話なんだけど、実はこの世界に極悪帝国(ごくあくていこく)っていう悪魔の集団が侵略しに来ててね」


「ワニワニンはかわいいなー」


「ありがとう。

 ……それでね、その極悪帝国と戦うには、聖なる光を浴びた戦士の力が必要なんだけど、その聖なる光が無作為にこの世界の人間を選んじゃって、ミウくんもそのうちの一人に……」


「オッケー、ワニワニン、明日の天気を教えて」


「――そんなの知らないよ! お願いだ、人の話は最後まで聞いてくれ!

 ミウくん、ぼくはおもちゃとかスマホアプリじゃない、真面目に聞いてほしいんだ!」


 なんか、ワニワニンがキレ気味だ。

 ……あれ、こいつおもちゃじゃないの?

 っていうかコレ……。


「キモッ……! ヤバッ……! は!?

 なんでこんなこと喋んの? マジおかしくない?」


 思わず声に出た。怖っ。

 今更だけど、こいつがおもちゃならともかく、生き物だったら超怖い。どこから生まれてきたのかわからないし、なんか見た事ないし。


 でも、レーセーに考えて、こいつがメカなワケないじゃん。

 ロボットって、もっとぎこちない動きだし。


「傷つくなぁ、さっき可愛いって言ってたじゃん……。

 まあ、いいや。とにかく、ぼくは諜報組織の報告で極悪帝国がこの地球に攻めて来るのを知ったから、この世界の人間に魔法マジカルを与えに来たんだ」


「……え、じゃあもしかして何? 地球やばいの?」


「こんな話を信じてくれるのかい?」


 さらっと話しておいて、信じたら意外そうな顔をされたのはなんかムカついた。

 でも、こっちも言いたい事を言う。


「いや、とりあえず、話は一度聞いといた方がいいじゃん。生身の人間がそれを話し出したら電波だと思って距離置くけど、きみはワニじゃん。喋るワニって一般的には超おかしいもん。羽毛みたいなの生えてるし、ワニにしては小さいし、立って歩いてるし、ワニワニン構成してるすべての要素がおかしいもん」


「うーん……なんだか悪口っぽいなぁ」


「そもそも、日本に野良のワニってあんまりいないし。

 この時点でもう、異世界から来たマスコット的な妖精かなと思っちゃった」


「とにかく、それなら、ものすごく話が早いね。

 ――極悪帝国には、既に色んな世界が侵略されている。地球も、今のままじゃわりと大変な事になるよ」


「どんくらい?」


「結構やばいよ。

 超強いから地球の現状の力だと、あいつらに勝つ事は厳しいかな。

 ミサイルとか撃てば別だけど……あいつらは異世界とのゲートを開いて、突然やって来るから市街戦を避けられないし」


「マジ?」


「マジだよ。ワニは嘘つかないからね」


 ヤバいじゃん。でも、さっきちょっと嘘ついてたじゃん。ウチは忘れない。


「もし、ちょっとでも信じられないなら、目を閉じてみて。

 ぼくが、極悪帝国の様子をテレパシーで送る」


「そんな事できんの?」


「ああ。聖なる光を受けた者たちだけにね。

 ……彼らの侵攻する世界が、これだよ」


 ウチは言われて目を瞑った。

 が、すぐに開けた。


「……変な事しないよね?」


「変な事って?

 テレパシーもきみたちからすると変だと思うけど、もし嫌なら、無理にはやらないよ」


「あ、まあいいや……所詮ちっこいワニだし」


 もし、目を閉じてる間に変な事されたらボコボコにする。

 ……で、ウチはまた目を閉じた。


「あれ?」


 すると、そこにはホントに映画を観てるみたいに色んな映像が流れ込んできた。

 自分が目を閉じてるんだか開けてるんだかわからない。

 わからなくなったので、確認の為に慌てて目を開けてみると、そこにはさっきと同じくワニワニンがこっちを見てる。

 あ、ちゃんと閉じてたんだ。


「あ、開けないで。

 テレパシーの映像が来ると、目を開けてるんだか閉じてるんだかわからなくなるよね、ごめん」


「うん」


「もう一度目を閉じて……この映像を見れば、真実だってわかってくれると思う。

 あと、そう何度も目を開けられると話が進まないから、もう開けないでね」


 それで、ちゃんと、ワニワニンの言うように目を閉じてみた。






 そしたら、鎧や甲冑を着たみたいな変な奴らが戦っている映像が見えた。

 甲冑を着た奴らが超能力みたいに遠く離れたところから、鎧を着た奴らを宙に浮かせて地面に叩きつけている。

 戦車が歩いてるみたいな感じのヤツが街を攻撃してる。

 変な髪形の女が、高笑いしながら、見た事もない動物を使って人を襲わせてる映像も流れた。

 忍者みたいなやつがパトカーを破壊したりもしていた。

 色んな映像が流れてきた。






 ……怖い。

 なんか、戦争みたいだった。


「……もう目を開けていいよ」


「ワニワニン……今のが極悪帝国?」


「ああ。……彼らは、この世界の人間にはない力を使える。

 だから、この世界の人間にそれ以外の勝機を与える方法は、あの聖なる光を持ってもらう事だったんだ。

 聖なる光は、最も近くにいたその世界の適格者に魔法マジカルの力を与える」


「じゃあウチはその魔法マジカルってやつ使えるの?」


「……うん。きみは今日、魔法を手に入れたんだよ。

 彼らともっと思う通りに戦える力だ。――で、その……あと二人いるはずなんだけど」


 と、ウチの中ではワリと深刻に話していたら、後ろから変な奴らがやって来た。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆




【三人集合――だけど視点は、青山未羽】




「――おい、どういう事だよ、今の」


 ウチらのところに来たのは、夢咲と委員長だった。

 なんでだろ、凄くナイスタイミングって感じがする。

 でも、なんだ、ふたりとも、一緒に帰ってたんだ。


「二人とも、どうしたの? 何、仲良くデート?」


 とりあえず一回、場を和ませる為に茶化してみる。

 なんか、今のを立ち聞きしてたのかわかんないけど、ウチよりも深刻そうな顔をしている。

 委員長が、ウチに目もくれずに口を開いた。


「私、地獄耳なので全部聞こえてました」


「アタシも聞いてた……それに、しっかりこの目で見てた」


 あ、やっぱり。でも見てたって。

 なんだろ……二人とも、ワニワニンをめっちゃにらんでる。

 ウチはもう、こいつを持って帰ってしっかり全部話聞いときたいなーと思ったんだけど、夢咲はこのままワニワニンを殴り倒しそうな顔をしている。


 ……まあ、正直、夢咲じゃ殴り倒すのはムリかもって思うけど。

 ワニワニンが彼女たちの感情に鈍感な表情で見上げている。


「きみたちは?」


「私たちが、先ほどの光に当たった残りの二人です。

 私は、緑川綾香。彼女は、夢咲いちごさんです」


 あ、二人も当たったんだ。

 ビビるよね。当たった時も、瞼を閉じて変な映像見た時も。


「……なるほど。きみたちが……」


 ワニワニンは軽く顔を下げて、ちょっと深刻そうに表情を変えた。

 こうしてみると、確かにワニワニンも生きてるって感じがする。

 なんか、ちょっと可哀想に見えた。餌がもらえなかった子犬みたい。


「すまない、三人とも……。

 極悪帝国との戦いの代表は、これできみたち三人に決まってしまった。

 だから、これからしばらく、普通よりハードな生き方をする事になるし、重責を感じる事になるかもしれない。

 本当に申し訳ない。……何なら、今すぐぼくを殴ってほしい」


「――殴りはしません。暴力は嫌いなので。

 でも、謝るくらいなら、最初からやらない方が良いんじゃないかしら、ワニさん」


「ああ……そうだね。でも、ごめん。

 新卒二年目のぼくの立場じゃ、どうしようもなかったから」


「……申し訳ないけど、私に拒否権があるなら拒否させてもらいます。

 そんな重責を負って、地球を守りたくはありません。別の人に任せてください」


 委員長、ちょっと厳しいじゃん。ウチのママが営業の電話にキレる時みたいに、怖い口調で敬語を使ってる。なんか、ウチもちょっと怖くなった。

 こんな委員長初めて見た気がするし、普段は割と穏やかだから。

 だから、余計にママがたまに見せる静かなムカつきみたい。


 ……まあ、実際これって結構難しいコトなのかもしんないし、委員長の気持ちもわからなくもないけど。

 ワニワニンは相変わらずショボーンとしている。


「わかってるよ。だけど、他にこの世界を守る方法がなかったんだ。

 その世界にぼくが降り立った瞬間から、聖なる光は適格者を選んでしまう。

 ……だから、許してほしい」


「それで、私に拒否権はあるんですか?」


「ああ。もちろん、構わない。

 ぼくにも強制はできないよ。

 ……ただ、魔法マジカルはそのままきみの身体に残る」


「何か異常が出てはいないでしょうね?

 もし私の身体に異常があったら、訴えますよ」


「それは大丈夫。

 ちょっと自分の可能性が広がっただけで、今の生活にも支障はないし、

 きみが何か変わってしまったわけでもない。

 その点は安心してほしい。――あ、でもそういう力が使える事を、誰かに言わない方が良い。

 それだけは忠告するよ」


「……言われなくてもそうします」


 超厳しい口調だ。

 なんか、委員長を見る目が変わる。ちょっと怖い時はあったけど、基本はのんびりしてる優しい人だったし。


「綾香くん。

 もし、気が変わったり、わからない事があったりしたら、またいつでも連絡してほしい。

 ……えっと、これが僕のベル番だ」


「ポケベルはもう使えません」


「わかった。

 えっと、じゃあ、ぼくは今日から、ミウくんの家に住むから、

 いざという時はミウくんに連絡してほしい」


 いや、なんで勝手に決めてるんだろこいつ。

 ワニワニンって、ウチの家にペットか何かになって住む気?

 まあ、ウチの弟も喜びそうだから、とりあえず許すし、その方が便利だけど。


 ……でも、委員長はともかく、夢咲はどうなんだろ。

 さっきのが本当だったとして、やるのかな。


「きみはどうだい、いちごくん」


「え? あ、アタシ?

 下の名前で呼ばないでもらえると助かるんだけど」


「ゆ、ゆめ……えっと…………いちごくん、悪い奴らと戦えるかい?」


「夢咲だ。まあいいや。

 ……悪いけど、ちょっと悩んでる」


「うーん、そうか……。無理もないよ。責任が重いからね」


 と、言われて、なんかちょっと夢咲がムッとしたような顔をする。


「……い、いや、正直、今のが全部本当だって言うなら、やりたい気もしてはいるんだよ。

 つまりは、魔法の力で戦って世界とか救うんだろ?」


「そうだよ。だいたいそんな感じだ」


「ちょっと憧れるし、世界も守りたいよ? ホントに。……でもさ」


 夢咲が言いにくそうに口を開いた。

 目を泳がせながら、夢咲は言い始めた。


「――なんていうか……アタシの百メートルのタイム、二十八秒だし……。

 ソフトボール投げ、八メートルだし……。

 それで任せろって言われてもきついっていうかさ……」


 うわ、やっぱり夢咲ってこういうヤツなんだ。

 ……なんだろう、このイライラする感じ。

 悪いヤツじゃないのはわかるんだけど、強そうな見た目とか口調に反して、いざってなるといっつもこんな感じっぽいんだよね。


 優柔不断っていうかなんていうか、正直めっちゃウザい。

 ウチは、我慢しきれず、ちょっと冷めた口調で言った。

 この子見てるとイライラするし、さっきの委員長みたいな口調になった。


「……別にいーじゃんこんなの。

 何も考えずに任されちゃえば。ねっ、ワニワニン」


「えっ? ミウくん、きみはマジカルで戦ってくれるのか!?」


「当たり前じゃん。だって、地球ヤバいって話だし。

 それなら、どっちにしろやるしかないじゃん。

 拒否るのも自由だけど、始めてみて、辞めたくなったら辞めるでいいかなーって思うし」


 それでいいじゃん。なんで二人とも深く考えてんだろ。

 極悪帝国ってどんな奴かもわかんないし、来た時に弱そうだったら引き受けて、ムリそうだったらすぐ辞めちゃえばいいのに。ウチらにもその権利あるはずだし。


 委員長もなんか冷たかったな。なんだろ、夢咲ほどじゃないけど、委員長もちょっと好きになれないんだよね。

 ま、女バンチョーとイインチョーとギャルだからかもしんないけど。


「……で、夢咲さん。どうすんの?

 半端って困るんだけど。辞めるなら委員長と帰って、やるならウチらと残ってよ」


「そうは言うけどさ……アタシじゃ役立たずかもしれないし」


「でも、さっきの光浴びたのってウチらしかいないじゃん。

 ウチと委員長とあんたしかいないし。

 あんたいなかったら、可能性減るだけだし」


「い、いや、だってそれは……!」


「これ、他の人に任せられるってワケじゃないみたいだし、

 マジならウチらがやるかやらないかしかなくない?

 自分の能力が低いとか何とかって、そんなの結局言い訳だし。

 出来そうかどうかじゃなくて、やりたいかやりたくないかだけじゃないの?」


 こう言うと、夢咲はなんか黙って、しょぼくれ始めた。

 説教してるみたい。


 ……っていうか、もっと言うと、「いじめてる」みたいで気分悪い。ウチは自分の意見言っただけなんだけど。

 だから、そんなつもり全然ないのに、なんかこいつが勝手に落ち込むから、周りから見てもいじめみたいに見えるかもしれない。

 ……なんだろこれ。やな感じ。


「……ねえ、言いすぎじゃない? 青山さん。

 あなたみたいに軽い気持ちですぐ何かを始められる人と、準備が必要な人がいるでしょう。

 そういうのも半端って言うんじゃないですか?」


 げっ、そう思ってたら、突然委員長が加勢してきた。

 口で勝てる気しない。


「――それに、言い訳だと言うけど、それも酷くないですか?

 私たちはただ巻き込まれただけ、進んでそうなろうとしたわけじゃないんです。

 それを躊躇ったり辞めたりしたからって、言い訳だなんて言われても困ります」


 委員長がコワい目で言った。

 たぶん、いじめみたいになったから、庇い始めたんだ。

 なんかやな事言われてる気がする。しかも正論かも。


 さすが委員長だ。考えてみると、始めようと思ったわけでもないのに勝手に色々背負わされるのって、めっちゃブラックじゃん。

 委員長の言ってる事、間違ってないし。


 ……うーん。

 でも、なんだろう、それでも、今の委員長、「自分にはかんけーないよ」って感じで、超やなヤツっぽい。

 ウチはそう思っちゃう。


 それに、夢咲ずっと黙ってるし。

 ウチは、こいつと話してるのに。


「じゃ、じゃあさ……委員長は別にいいんだけど、夢咲さんには、ウチはこう言うよ」


 捨て台詞かもしんないし、卑怯かもしんないけど、やっぱ、夢咲には言いたい事がある。




「――ねえ、あんた五歳の時に会ったカッコいい女番長にあこがれてるんじゃないの?

 いまの夢咲さん、そういうのと真逆って感じ」




 五歳の時に会った女番長だとか何とか、そんなん嘘だって全部わかってる。

 だけど、ウチは今、こう言ってやった。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆


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