第4新卒:『参上!お嬢様転校生』その1
【1年B組:黄島クリスティーヌ(ファントムお嬢様)】
おーっほっほっほっほっ!!
皆様ごきげんよう。
ワタクシは、ファントムお嬢様こと、地球人名:黄島クリスティーヌですわ。
退屈なあらすじが終わったところですし、極悪帝国地球侵略軍からはるばるこの地球まで高校に通いに来た、このワタクシの活躍をご覧になってくださいまし。
ワタクシは、ひとまず、前回から今回までのあらすじというか、特に描写する必要のなかったくだりをテキトーに数行説明してから本題に入りますわ。
――さて、ワタクシは前回から今回までの間に、彼奴等魔法少女の溜り場がこの私立サンテグジュペリ学園高等部の校舎である事を特定し、無事転校の手続きを済ませ、この高校にスパイとして潜入する事に成功いたしました。まあ、すぐにゴールデンウィークという楽し気な連休が始まり、それが明けてから行く事になったのですけど。
それから幾日か経って、そのゴールデンウィークとやらも終わり、なんやかんやと極悪帝国内部はバタバタして地球出撃の算段は整わなかったらしく、それとは別にワタクシの方も引っ越しや何やらでバタバタし、ようやく今日、黄島クリスティーヌがこの学校に参上する時が来ました。
さあ、待っていなさい、マジカル三姉妹。
今すぐにあなた方の秘密を解き明かし、ワタクシの帝国に持ち帰ってしまいますわ。
「――今日は転校生を紹介するぞ」
けだるそうな男性教師がそう言ったのを見計らい、ワタクシは教室の外から愛馬フィリップに乗って現れました。
フィリップは、毛並みの美しい優雅な白馬です。
さすがに教室の皆様も目を丸くなさったようですわね。
「ヒヒーン」
「……ワタクシは、人呼んでさすらいのお嬢様転校生・黄島クリスティーヌですわ。
私立サンテグジュペリ学園の皆様、ごきげんよう」
ワタクシの華麗なる挨拶に教室中の平民たちがざわめきました。
ワタクシが背を向けると、制服の背中に刺繍した金色の美しい「姫」の文字が皆の目に入った事でしょう。
これで、ワタクシはこの学校の事実上の姫ですわ。背中のこういった刺繍は、まさしくさすらい転校生の証。
「では、例に倣って、ワタクシも黒板で自己紹介いたしますわね」
……そう、この世界の学校では、自分の名前を黒板に書くのが礼儀だと聞いていたので、しっかりと筆も用意しています。
さて、筆と墨汁を使って、黒板に名前を書きましょう。この国の人間は確か、筆や墨汁で字を書くんでしたわね。
そういうわけで、墨汁に筆先を浸し、ワタクシは黒板いっぱいに『黄島クリスティーヌ』と書きました。
……。
……。
……。
……うーん。なんだか、墨汁の量が足りなかったようですわね。あんまり、ちゃんとワタクシの字が見えませんわ。
というよりも。
「……あの、先生?
なんでこの『黒板』というものは黒っぽいんですの?
これでは、ワタクシの美しい名前がこの学校の平民の皆様に伝わらないじゃありませんか?」
「黄島。黒板に字を書く時は、
この白色のチョークを使ってくれ。
今後、チョーク以外のもので黒板に字を書かないように」
「ああ、なるほど、チョーク……
そんな便利なものがあるんですわね。……わかりましたわ」
「あと、教室での乗馬は禁止だ。
というか、ペットの持ち込みは全面的に禁止な。
次回から連れてこないように」
……注文が多いですわね。
まあ、彼らの注文を聞きながらでも、あまり目立たないよううまく順応していきましょう。
学校というのは、元々注文が多いモノ。私もこう見えてしっかり中学までは出ていますから、そのくらいは承知の上ですわよ。
「見ての通り、黄島は海外での暮らしが長く、
日本の常識にあまり慣れていないようなので、
みんな、どうか仲良くしてあげてくれ。
美人だから男子は大丈夫だと思うが、
女子は絶対いじめるなよ。
えっと、それじゃあ、席はあそこの委員長の隣で……」
しめた。
これはきっと、マジカル委員長――そしてエンジェル委員長の正体ですわ。
何故って、マジカル委員長ですもの。変身前も委員長に決まってますわ。
そして、席が隣ならばいくらでも話しかけるチャンスがある。彼女が前回のクライマックスで使ったあの力が何なのか、窺い知るにも丁度良いというもの……。
「よろしく、黄島さん」
――と思ったのですが、なんでしょう、この無害そうなお顔の、特徴なき男性は。
よろしくと声をかけられましたが、無視してやりましたわ。ざまあみろ、偽委員長め。かなり落ち込んでいるようですわ。
まあ、何か手違いがあるようなので、ワタクシは先生に訊いてみます。
「あのぉ……。先生。ちょっとよろしいかしら。
この偽委員長ではなく、本当の委員長はどこにいらっしゃるの?」
「ん? ああ、いや、彼がこのクラスの委員長の相羽だ。
立候補がいなかったんで、
出席番号が一番のそいつにとりあえず委員長になってもらったんだ。
あんまり委員長っぽくないか? 何なら、黄島に交代してやってもいいが――」
「いや、そんな面倒な事はやりたくありませんけれど。
……だって、委員長というのは、代々女性が務めるものでしょう?
なぜ男子が委員長などやっているのです?」
「それはかなり偏見だと思うが……。
何しろ、うちは各クラス一人しか委員長にならないし、
男女雇用機会均等法に基づいてクラス委員を決めてるからな……。
――あ、でも、そうだな、隣のクラスの緑川なんかは、きみの言う通り女性だったと思うぞ」
うーん……とにかく、クラスに一人、男女問わずの委員長がいるんですのね……。
なんだかこの星のシステムがよくわかりませんわ。大統領もいるのに、この国にはいないようですし。ぶっちゃけると、わけわかりません。
それにしても、どうも……この様子だと、ワタクシは転入するクラスを間違えたっぽいですわね。
いいえ、しかし、ワタクシがそんな酷いミスをする筈がありません。
つまり、合理的に考えると、既にワタクシはマジカル三姉妹の仕掛けた罠にかかっている可能性が高いという事。奴らは既に発信機に気づいて、ワタクシを虐に罠にかけようとしているんですわ。
おのれ、マジカル三姉妹……既に戦いは始まっているという事ですわね。
この屈辱は忘れませんわ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
【1年3組:緑川綾香】
口調が似ているので注意。
私、緑川綾香に視点が回ってきたようです。
さて、この私立サンテグジュペリ学園は、クラス名が番号だったりアルファベットだったりするくらい自由な、私たちの学校です。
そこに今回、また色々と自由な方が転校してきたようです。
こういう事が起きた時に、「こんな時期に転校生?」と言う方も多いかもしれません。実際、こうして高校一年生の一学期――というか、一ヶ月経ったばかりの五月のゴールデンウィーク開けに転校してきたその方に、私も少々疑問を感じました。
しかし、それもまた、理事長が「自由」を謳うこの高校ゆえ。
最低限この学校に見合う学力さえあれば、来るもの拒まず去るもの追わず、です。
そんな転校生と、私たち三人とのファースト・コンタクトは、月曜二時限目の保健体育の時間の事でした。
彼女は隣のクラスだったので、何クラスか纏めて授業を行う体育の時間に初めて会う事になったのです。
「……皆様、ごきげんよう。
見てくださいまし、ただいまより始まるワタクシの軽やかなる走り……。
この美しいワタクシが百メートルを駆け抜ける姿に、
きっと誰もが目を奪われるに違いありません」
黒髪の縦ロールの、少々傲慢な乙女。体操服の後ろには「姫」と大きな金色の刺繍が入っています。
なんだか、ごくごく最近、この方にそっくりな人物を見かけたよういな覚えがあるのですが、その方と比べると、随分穏やかな態度に思えますね。だから、別人でしょう。
しかし、この様子ではナルシスト。何故だか、凄く「ライバル出現」という予感がします。
「さて、準備はよろしくてよ。
早くワタクシにこのコースを走らせなさい」
そんな彼女は、転校生でスポーツテストをしていなかったので、一人だけスポーツテストの測定をやらされているようです。
一応種目は百メートル。
私たちの授業はサッカーなのですが、自由練習の時間――彼女の宣言通り、軽やかな走りに、私といちごさんは目を奪われてしまい、驚いていました。
「えっ!? 百メートルが――」
「――二十五秒!?」
「なんて速さだ……」
「私と良い勝負です……」
私やいちごさんを凌駕するスピードを持っている事が判明しました(実は私もほとんど同じくらいなので負けてはいないのですが)。
ちなみに、その後の様子だと、ソフトボール投げは十メートル。
さすが、さすらいのお嬢様転校生。とてつもない運動神経です。
彼女はその運動神経を見せつけた後、先日の縦ロールさんのような高笑いをしていました。
「――ねえ、番長、委員長。
あれって普通に、二人と同じ運動音痴の部類じゃない……?」
一緒のチームでサッカーをしていたミウさんが言いましたけど、とりあえず無視しましょう。
この直後に、私といちごさんのもとにボールが飛んできて、二人まとめて転びましたが、そんな事はどうでもいいじゃありませんか。
……それからまた何日か過ぎていきました。
どういうわけか私たちの事を意識し始め、彼女は休み時間・授業中を問わず私たちのクラスに足を運んでは、奇行を繰り返すようになりました。
自由自体は構わないのですが、授業はきっちり受けるよう注意され、結果的になんというか……休み時間のたびに、私はため息を出す生活になってしまいました。
「見なさい、ミドリムシさん!
私のこの数学の小テストの結果を!」
「緑川です。何度間違えれば気が済むんですか?
人の名前を呼び間違えるなんて失礼です。
今度呼んだら叩き斬りますよ?」
「あら、ごめんあそばせ。
しかし、見てくださいまし。
ワタクシはいきなり転校してきて、
数学の達成度が既に三十パーセントを超えている……。
このワタクシの類まれなる頭脳が怖いですわ……」
「三十点ですか……
とりあえず六十点以下なので再テストですね……」
滅多に下回る者がいないという私たちの学校の小テストの赤点。事前に範囲も知らされ、配られる『ワーク』なる問題集からそっくりそのまま同じ問題が出るという仕組みなので、だいたい勉強すれば一定以上の点数は取れるのです。一般的にはそうなっています。
まあ、彼女は転校してきたばかりですし、高一の五月に編入という時点で彼女の家庭事情がバタバタしているのは察しがつきますし、それならばまあ彼女にとって悪い点数ではないのかもしれませんが……。
あと、ちなみに、これは関係ない話ですし、凄くもない話ですが、私の場合は、当然百点満点です。小テストでは九十点を下回った事は一度もありません。
今回の場合、多少難しく平均点は七十点ほどだとか。まあ、これは大して自慢になる事ではないのかもしれませんが、私はこの平均点を超えいますね。
そんな事を考えていたら、教室からいちごさんとミウさんの愉快な掛け合いが聞こえてきました。
「あーーーーっ!!!
もう、今回のウチのテストの点数聞かないで!!!!!!」
「見せろよ、ほら、アタシ八十点!」
「げっ! ウチの三倍……じゃなくて、ぴったり四倍じゃん!!!
番長、普通に頭良いの!? ……って、あっ、ウチの点数言っちゃった!!!!」
ミウさんの数学の結果は二十点という事ですか……。
色々嘆かわしいですが、少なくともこの黄島クリスティーヌさんの頭脳は、ミウさんのそれを凌駕するレベルという事。
ミウさんにとっては、強烈なライバルの出現です。
「――あら、黄島さん。
おはよう。やはりこの来ていたのね?」
そうこうしているうちに、黄島さんに何かとちょっかいを出す女性教諭が廊下でたまたま黄島さんに会ったらしく、艶っぽい口調で黄島さんに呼びかけました。
なんでしょう、この笑み。
「あら先生。ごきげんよう。
……先生からの恋文、確かにお受け取りいたしましたわ。
しかし、残念ながらワタクシは、
今は恋愛などにうつつを抜かしてはいられぬ身。
重大なる使命を帯びてこの学び舎に来ているのですわ!
……ですから、申し訳ないですが」
どうやら、この女性教諭は黄島さんに恋愛感情をしたため、それを手紙としてお渡しになったようです。成人の教師が未成年にこうした行為を行うのは、私の分も含めて、流石にどうかと思いますが、まあいいでしょう。
……しかし、とにかくこれは成人女性からの告白です。
成人女性。
私は、自慢にはなりませんけど、これまで男子三十二名、女子四名、成人男性一名から告白されました(ちなみに、ここしばらくで「委員長」ファンが増え、ちょっと告白人数が増えました)。
しかし、成人女性からの告白は、いまだかつて受けた事がありません。
やはり、この黄島クリスティーヌは私たち三人にとって、身体能力・学力・魅力・自意識などあらゆる面において、勝る恐るべきライバルのようです。
いちごさんを超える走力。
ミウさんを超える頭脳。
そして、私を超える成人女性への魅力。
……私たちは、この強烈な転校生に勝てるのでしょうか。
――しかし、それにしても、さすらいのお嬢様転校生・黄島クリスティーヌ……彼女は一体、何者なのでしょう。
なんだかすごく、妙な予感がします。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
【1年3組:夢咲いちご】
――というわけで、相変わらず授業描写は全部カットし、アタシたちは、ミウと、委員長と、三人一緒に帰っている。
最近は、この三人で一緒に帰る事が多い。
最初の頃にいたミウの友人がどうなったのかとかは放っておいてくれ。一応、画面に見えないところで普通に友達をやっていると思う。
とにかく、アタシたち三人は途中まで帰り道が同じで、この土手をいつも通る。
そして、他の下校生徒がいない時は、アタシが鞄からワニワニンを出して、だいたいいつも四人で話している。
学校では黙っているワニワニンも、帰り道だと饒舌だ。
「……黄島クリスティーヌか。
なんだか、ぼくにも凄く彼女に似た子に覚えがあるような気がするんだよなぁ」
「えっ。マジ?」
「いや、なんだろう。
ぼくは、鬱で休職する前に彼女みたいな女の子をね……うーん……」
それって、ワニワニンの前の派遣先っていう事だろうか。
あれだけの変わり者なら、確かに印象に残りやすそうだ。まさか、元・魔法少女だったりして。そんなわけないか。
……しかし、ワニワニンが考え込んでいる時に、ふと委員長が立ち止まって、タイミングよく黄島の話をし始めた。
「ねえ、あれ黄島さんかしら?」
「え? どこ?」
「ほら、あのいつもの橋の下」
「あ、マジじゃん。何してるんだろ」
アタシたちの前には、橋の下にテントを張って、その下に家具を置いて座っている黄島の姿があった。
なんと、あの変な馬も一緒だ。
昨日まであんなところにいなかったのに、一体どうしたというのだろう。
アタシたちは、すぐに土手を下って、その橋の下まで降りた。
「……何やってるんですか? 黄島さん」
「あら、平民の皆さん。おそろいで」
「いや、だから何やってるんですか?」
「見ての通り、ワタクシの豪邸を作ったんですわ!
思った以上に『円』を持っていなかったので、
家賃が払えずアパートを追い出されまして、
いま現在こうして橋の下に家を作って暮らす事にしたのです!」
その発言に「ホームレス」という言葉が浮かぶ。
まさか、この黄島クリスティーヌ……家がないという事なのだろうか。
そもそも家族はどうしたのだろう。
ミウが訊く。
「え、クリス、親いないの?」
「クリスではありませんわ。
黄島クリスティーヌです。
人の名前を間違えるなんて失礼ですわよ。
今度名前を間違えたらぶっ殺しますわ」
「いや、これ間違えたんじゃなくて……
長いからあだ名のつもりなんだけど。
え、なんか気に障ったならゴメン」
「ああ、なるほど。あだ名ですか。
……まあ、そういう事なら良いでしょう。
でしたら、ぜひ、そちらの二人も今度から、
ワタクシはクリスと呼んでくださいまし」
「うん。わかった。
……で、親は? 家族は? これ聞いていい?」
「……ふっ、ワタクシは家族などなくても生きていけますわ。
ワタクシは、いつまでも親の脛をかじるあなた方と違い、
この齢にして既に独立した留学生……。
アパートの空き部屋にホームステイし、
今はこの橋の下に家を作ってホームステイしているのですわ!」
「それはホームステイではないですし、
今となってはホームすらない気がするんですが……」
委員長が冷静に言う。
しかし、親と離れているにしても、頼るべきところもないのか? そもそも、それで親に連絡しないんだろうか?
……アタシの中には色んな疑問が浮かんだ。
「……うーん」
で、何よりの疑問は彼女が張っているテントだ。
誰も突っ込まないが、よく見ると、そこには、でかでかと「極悪帝国地球侵略軍仮設本部」と書いてある。
「ねえ、この極悪帝国地球侵略軍仮設本部って……」
「ああ、先日、森で拾ったんですわ」
「拾ったって……それどこの森だよ」
「森は森ですわ。
そんな細かい事どうでもいいじゃございませんか。
とにかく、あなたたち三人は、
ワタクシのこの豪邸にお招きする最初のお客様。
……でしたら、誰であれ歓迎いたしますわよ」
「……」
歓迎も何も、このテントに三人は入れないし、ただの橋の下に張ったテントじゃないか。
それにしても、本当に森で拾ったというなら、森に極悪帝国が来ていたという話だし、本当なら調査でもしたいんだが……なんかあまりちゃんと話してくれそうにはない。
黄島――じゃなかった、クリスはテントの奥に引っ込んでしまった。
そのまま待っていたら、彼女はテントの奥に入って、何かを取り出している。
彼女は、おもむろに缶のドクターペッパーを、持ってきて、ソーサーの上に置いたティーカップに注いで、アタシと委員長とミウにそれぞれ渡される。
一般的には紅茶を淹れるのに使うようなティーカップが、ドクターペッパーに満たされていく。
「どうぞ。先日箱買いしたドクターペッパーですわ。
お口に合うかはわかりませんけれど」
「……あの。こういうのって普通コーヒーとかお茶じゃなくて?」
「ええ。この星の――じゃなかった、
この国のコーヒーやお茶は、ワタクシの口には合いません。
しかし、この香り、この味、このしゅわしゅわ感。
この国にも随分と良いおもてなしの飲み物があるものだと感動しましたわ。
日本も捨てたものではありませんわね」
「日本発祥じゃないと思うけどなぁ……」
言っても仕方ないかもしれないが、やはりこの子はネジが二三本抜け落ちている。
そのレベルは、ミウや委員長の比ではない。地球上で探しても相当いないレベルではないかと思う。今更、缶のドクターペッパーをティーカップに淹れて出されたところで、アタシたちは驚かない。
……それにしても、この子が来た海外ってどこの国なんだろう。極悪帝国だったりして。なーんて、まさかな。そんな事あるわけないか。あはは。
などと考えているうちに、彼女は案内を始める。
「さて、この線から向こうの部屋が客間ですわ。
どうぞ、そこの地べたにお座りになって。
……で、ここから向こうが愛馬フィリップの部屋」
「石並べて線作っただけじゃん……」
「橋の上が二階ですが、今は車がたくさん通っていますね。
あの歩道がバルコニーにあたります。
どうです、ワタクシの豪邸の感想は?
よければ後でバルコニーからの景色をご覧ください」
「うーん……部屋とは呼べないし、バルコニーでもない気がするな」
テント以外はもろに屋外だ。
ただ、一応道路が通っている橋が上にあるから、辛うじて雨は避けられるだけ。
小石で丁寧に線を作って、その線で仕切っている場所を一つの部屋だと言い張っているらしい。
「――ふっ。想像力が足りませんわね。
ワタクシなど、横断歩道の白い部分以外をマグマの池だと強く念じる事で、
白線を踏み外さないよう心掛け、強い想像力を養っていますわ」
「おまえ何歳……?」
「高校一年生である事を考えると、設定上、十五歳から十六歳ですわ」
「そういう事じゃなくて……」
やはり、彼女は色々とツッコミどころが多い。心配になる事の方が多いが。
そんな時、ミウがふと、ズバッと何か言い始めた。
「――つーか、お金、ないんじゃないの?
それって、学校は追い出されないのかな……?」
……ああ、そういえばそうだった。
うちの学校は私立で学費もかかるだろうし、クリスの場合、親からの支援もなく、どうやって暮らしているのだろう。
彼女も、なんだか随分と苦労している気配があるが、その辺りは色々と謎に包まれている。
そもそも、何故いま転校してきたのかとか。極悪帝国のスパイが魔法で洗脳して入学したとかなら話は別だが……。勿論、そんなわけがない。
「……」
「……」
「……」
「……」
全員沈黙して、数秒経った。
それから、ふと、青ざめて、クリスは慌てたように奇声を発した。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーっっ!!!!!!!!!」
「きゃああーーーーーーーっ!!! 何っ!? えっ、どうしたの!?」
「しまった! 大変ですわ!
学費の事をすっかり忘れていました!
最初に持ち込んだお金も使い込んでしまいましたし!
ええ、このままだと学校を追い出されてしまいますわっ!!」
どうやら、本当に学費が払えるか払えないかの苦境にあるらしい。
「あ、あんたそれ本気で言ってるのか?」
「何か仕事を見つけて、
学業と掛け持ちしないととても学費が払えませんわ――!!
そうですわ、先日道で拾ったタウンワークで何か良い仕事を探して……!!」
「えっと、そんなにピンチなんですか……?
良ければ、白い消費者金融でも紹介しますけど――」
「あっ!
このアパレルショップなら家から近くて、学校帰りでアルバイトできそうですわ!
馬で通勤もできると書いてありますし、アットホームでやりがいのある職場だそうですし!
――って、これ募集締め切りが今日じゃありませんか!! いまから急いで応募しませんと!」
「あ、あのさ……アタシたちの言ってる事聞いてる?」
「あっ、あなたたち。
申し訳ないですが、この家に空き巣が入らないか見ておいてくださいまし!!」
そう言って、クリスはその場をダッシュで去っていった。
……が、数秒経って、もう一度白馬を取りに戻ってきて、また慌てて白馬に乗ってどこかへ消えていく。
しかし、履歴書も持たずに何を面接しに行くつもりなのだろう。
本当に、色々と大丈夫なんだろうか。
アタシには、クリスが本当にここでの生活に馴染めているのか、本当に心配だ……。
新しい環境っていうのは、いつも凄く恐い事ばかりある。
でも、それにしても。
「……なんなんだろ、あいつ」
「ぶっちゃけ、海外に行ってたにしても、日本の常識わかんないってレベルじゃないよね」
「一応異世界から来たぼくですらあそこまでじゃないよ……」
ひょこっと、鞄の中からワニワニンが現れた。
確かに、異世界ですらワニワニンなら人間の形をしていても普通に過ごせそうな予感はある。
まあ、彼女が超変わった異世界の人間だったとしたら別かもしれないが。しつこいようだけど、そんなワケないだろうな。うん。
「――彼女はきっと、私たちの、ライバルです。
私たちの個性を食いに来たんです」
委員長だけ、そんな事を言っている。
こんな時に一番冷静なのも委員長だし、彼女もやはり、クリスに負けないくらいネジが飛んでいるのかもしれない。
「~♪」
ふと、そんな事を考えたらアタシたちのスマホでアラーム音が鳴り始めた。
アタシのスマホから斉藤由貴の『卒業』のサビが鳴り、ミウのスマホから『極悪帝国きたよー^^』とミウの声が鳴り、委員長のスマホから『仁義なき戦い』のあのBGMが鳴る。
この音が流れると、速報で極悪帝国が来たという事だ。委員長が、プログラミング技術を駆使して、極悪帝国の速報ニュースで音が鳴るアプリを開発したのだ。
凄く便利な発明で、アタシたちはネット情報を頼りにすぐに駆け付けられる。
「ヤバッ! 極悪帝国速報じゃん!」
「出動ですね!」
「ああ。――気合入れていくぜっ!」
「それやめてね、いちごくん」
アタシたちは、クリスに頼まれた見張りを無視して変身。
マジカル女番長、マジカル委員長、マジカルギャルとなって、極悪帝国が現れた天楽市内の陽海駅まで出動する事になった。
それにしても、また、この街に来たのか……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆




