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魔法少女物語~魔法の××× マジカル○○○~  作者: 庭野 ワニ
マスクド・チェーンソー・タカハシ 登場
2/54

第1新卒:『番長×委員長×ギャル』その1


(注)この物語に出てくる魔法少女的な連中は、残念ながら、グロい事したり鬱な事したり殺し合ったり男が変身したりしません。


   喧嘩はするけど。





【番長少女】




 アタシは、「生まれる時代」か、もしくは、「生まれる地域」を間違えたと思う。

 ……そう気づいたのは、高校に入学して一週間が過ぎた頃だった。

 それは、アタシが浴びる一日分の視線と、何故か友達のいない昼休みが物語っている。


 アタシは、泣く子も黙る「女番長(スケバン)少女」だ。

 この鬱陶しいほどの長い髪と、膝下までの伸びた漆黒のスカート丈は、アタシの憧れるスケバン像そのものである。

 目つきが悪く、更に背もやたら高い「スケバン向けの素材」が見事揃った状態で生まれ育ったので、余計にアタシ自身の満足できるクオリティに仕上がっている。

 自分で言うのも何だが、スケバン全盛期ならこれほどカッコいい女もいないだろう。




 ……。




 ……まあ、そういうわけで、アタシは厳密にいうと、「スケバンのファッションをしている少女」なのだが、人生に一度でいいから、こうして地の文で嘘をついてまで「スケバン少女」を名乗りたかったのだ。

 それくらいにはスケバンというスタイルに憧れているし、そう見える恰好を心がけている。


 しかし、わけのわからん現世代風のギャル族が幅を利かせているこの時代、この準東京的な地方都市――千葉県天楽市(てんらくし)だ。

 そんな背伸びした都会もどきでは、アタシなりの素敵ファッションは他人受けする事は全くなかった。


 というか、嘲笑の対象ですらある。

 制服が自由だと言われたから、主流の青ブレザーではなく黒セーラー服で来ているが、そんな生徒はアタシひとり。

 「勇気ある行動」などした覚えもないのに、アタシはこのクラスの中で、変な恰好をして登校し続けている「勇者」となった。

 もし、異世界転生で勇者になる事を夢見ている人には、一度、スケバン風セーラー服で登校する事をお勧めする。


「あの人ってさぁ……」


「うんうん……」


 ほら聞こえる。

 アタシの話。教室でお昼ご飯を食べているだけで、誰かが何かを言っている。

 良い噂でも悪い噂でも何でもいいのだが、それがどちらだかわからないのが絶妙に嫌だった。

 ……しかし、おそらく良い方ではないと思う。


 それは、四時限目の体育の後というタイミングで想像がつく。


「四時限目で意外とさ……」


「えー、あれで?」


 ――アタシの欠点は、男みたいな体格に反して、運動音痴(ウンチ)だという事だ。


 正直、ひととおりの球技ができない。

 先ほど、体育の授業でスポーツテストを受けさせられたが、その結果があんまりにも酷いのだ。

 それがこのクラス中の女子に知れ渡っているのは、極めて恥ずかしい。やばい。


 無様なフォームで投げて十メートルも飛ばないソフトボール。

 他の女子生徒とともに数回でバテるシャトルラン。

 良い数字が出ただろうと確認してみると、想像を裏切る非力を教えてくれた握力測定。


 あーーー、嫌になる。思い出したくない。

 喧嘩が出来れば恰好が良いのだけど、それもできない。それどころか、普通に体を動かす事については、一通り何をやっても最弱の部類に入ってしまうだろう。


 何しろ、アタシはただスケバンが好きでこの恰好をしているだけであって、別に心や能力までスケバンなわけではないのだ。自分で言うのも何だが、見かけ以外はどこにでもいる普通の良い子である。

 更に言っておくと、アタシがこのスタイルにこだわるまでのドラマも全くない。

 むかし自分を救ってくれた女番長にあこがれているというストーリーはよくある事だと思う。

 ……が、アタシがあこがれたのは「云十年前のテレビ番組に登場するヒロイン」であって、現実の漢女(おとめ)ではない。


「はぁ……」


 ふと何となしにため息をついて、クラスの隅っこを見つめる。

 こんなアタシの本質に近いのは、あそこで話題の深夜アニメやゲームについて楽しそうに語り合う少女たちの方だ。

 小さい頃に衛星放送で再放送を見て、何故かアタシの趣向にベストマッチしてしまったのが、スケバンという生き方なのだ。ニッチな趣味までそっくり。

 彼女たちがもし、休日にゴスロリファッションを着たり、コスプレをしたりを趣味にしているタイプならば、アタシは「学び舎で平日にそれをやっている人」と言って良い。


 既にアタシの存在は、このクラス内の噂の中で、「高校デビューに失敗した人」という学説から、「趣味と世間の空気のギャップを見誤った人」なのではないかという学説へと変わっていったのではないかと思う。実際、それが正しい。

 そんな事を考えていた時、ため息が呼び寄せたのか、一人クラスメイトがアタシの前に現れ、声をかけてきた。




「夢咲さん、こっちで一緒に食べませんか?」




 …………あーーー。


 …………そうだ。


 …………もう一つだけ、言いたくないが言っておかなければならない事があったんだ。




 そんなアタシの名前は、夢咲(ゆめさき)いちごだ。




【『番長』少女――――夢咲いちご レッド枠/運動音痴/昭和趣味/友達なし】




◆ ◆ ◆ ◆ ◆




【委員長少女】




 この私立サンテグジュペリ学園高等部は、私――緑川綾香(みどりかわあやか)にとって夢のような場所です。

 中堅の進学校である為、生徒の学力は幅広く、個性的。スポーツや芸術方面での活躍を目指す学友たちも多く、皆それぞれ非常に輝いています。

 進学校とはいえ、これもまた進路は様々。


 それぞれが自由に未来を目指す事を推奨されており、その結果として、卒業後は、研究者、政治家、舞台俳優、プロレスラー、自称霊能力者、政治『活動』家、ネオニート、動画投稿者など、様々な分野で活動する原石たちを輩出しています。

 生徒はおろか、先生方の中にも金髪に染めている方がいたくらいなのですから、中堅の普通科高校とは思えない光景が広がっている事でしょう。


 しかし、常識にとらわれる事の危険性を説き続ける理事長の思想に、彼らはしっかりと従っていただけなのです。

 勿論、奇怪な個性を発揮する人間は少数です。多くの人は目立ちたがりませんが、その実、しっかりと自分の夢や好きな物を追いかけ続けているように感じます。

 だから、個性を伸ばす教育を尊ぶ私にとって、この場所は夢のような学校なのです。


 ちなみに、私は、そんな中で、まあ全然大した事はないし――こんな事を言っても個性や能力の証左にはならないと思うのですけど、学力という一面で測るなら「学年トップ」で、「歴代指折りレベルの才女」だそうです。

 それ故か、今年度は学級委員長という役割を頂くにあたりました。

 まあ、そんな事実とはあまり関係ない話ですし、これも全然大した事はないのですが、いつもかけているこのめがねを外すと美人と評判で、これまで男子三十名、女子三名、成人男性(教師)一名ほどに告白されています。

 更には、この私なりに可愛らしく結んだつもりの三つ編みおさげ髪も、男女問わずまた好評です。

 告白はすべてお断りしましたが、とてもありがたく思っています。


 そんな、平凡極まりない私ですが、それもまた、「平凡」という名の個性。

 ここで毎日楽しく過ごせる事が私の喜びです。


 ……しかし、そんなこの学校で非常に問題的であると思えるのは、エスカレーター式で登ってくる私のような人間は、既に中学までで交友関係を作り込んでいるのに対し、夢咲さんのように、「中学までは普通の公立校、高校からはサンテグ」という道で編入してきた方が馴染みやすい風土ではない点です。

 入学した時点で周囲が既に輪を作っているのですから、その輪に溶け込みづらいのは致し方ない事でしょう。


 夢咲さんもまた夢を追う一人。この学校のあらゆる生徒たちと同じように、夢や個性を与えられた仲間です。

 おそらくですが、彼女は、何かのパフォーマンスをしたい方なのでしょう。漫画でしか見た事のないような奇天烈な恰好をしていますが、私は彼女と交遊を深めたいと思っています。

 それに、このクラスの委員長として、彼女を孤立させるわけにはいきません。一週間の中で、自分で友達を作らない彼女には、こちら側から声をかけるのがベストでしょう。


 何より、彼女はきっと、悪い方ではありません。

 それが私には今日、はっきりとわかったのです。


「夢咲さん、こっちで一緒に食べませんか?」


 ――何故って、それは簡単な事です。

 彼女は今日、短距離走のタイムで初めて、私よりも下の結果を出したからです。




【『委員長』少女――――緑川綾香 グリーン枠/成績優秀/容姿端麗/自意識過剰】




◆ ◆ ◆ ◆ ◆




【ギャル少女】




「おー、誘ったんだ、委員長」


 ウチこと青山未羽(あおやまみう)は、タコさんウインナーを食べながらその光景を見ていた。

 なんか、あの番長の夢咲と、委員長たちのグループとが一緒にご飯を食べるらしい。ずっとぼっちしていた夢咲も、ようやくつるむ相手を作ったのかな。

 まあ、結局どうなるのかはわからないけど。


 ……一週間前、ウチもあの夢咲にちょっと話しかけてみたんだけど、それとなーく突っぱねられたんだよね。

 なんか近い感じだし、ウチらの仲間に誘おーと思ったんだけど、なんか気に入られなかった。

 まあ、仲間っていっても、何をするでもなくダベるだけで、ファッションだとかメイクだとか好きな事をやっているだけなんだけど。それでも、ウチにとっては楽しいっちゃ楽しいんだ。


 勉強が退屈で、とりあえず学校に来ても話す事も何もないし。

 そっちは、中学で躓いている時点で、もうついていける状態にないし。

 だから、ウチはウチの夢の為に必要最低限をしに来てるだけ。


 で、あいつはそうじゃなかったってワケ。ウチらとはつるめないって感じ。

 それならそれでいーやと思う。


「ねーミウ、あのスケ番ってなんでスケ番の恰好してんのかな?」


 黒ギャルのアンナが横で馬鹿にするように笑って言った。本人に聞こえるんじゃないかってくらいでかい声だ。つるんではいるけど、やなやつだなー。

 遅れている度合に差があるだけで、ガングロギャルもかなり時代を逆行している気がするけど、まあいっか。


「そんなん知らないし」


「聞いてきなよミウ」


「いや、なんでウチが」


「純粋に興味が湧き出しすぎて」


「だから、なんでウチが」


 とか言っていると、横から茶髪のカレンが「ミウ聞いてきなよ」と煽るにとどまらず、物理的に背中を押して無理矢理に夢咲のところに誘導しようとした。

 ギャル仲間たちは面白がって、陰キャいじりにウチを利用しようとしているのだ。

 ……これだからギャルの評判下がるんだ。


「ちょっ、やめてよ!」


 必死のテーコーもむなしく、ウチは夢咲や委員長たちのいるグループのもとへと押し出された。

 しかも、直後にカレンが後ろに戻って、ニヤニヤ笑ってアンナたちと見守ってきてる。

 ……なんかウチまでバカにされてる気分。


「あー、あの……」


 前を見たら、夢咲は当然フキゲンそーな顔をしているし、委員長も準不快くらいの顔をしていた。まーそうだよね。

 でも、それが、あっちのアンナやカレンではなく、代表してここにいるウチに向けられていて、ちょっと気まずい。一緒にそこにいただけで、ウチは別に声出してバカにしたりしてないし、そういうの正直嫌いだったんだけど。

 ……とにかく、ウチは一応聞いてみた。


「あ、あのさ……夢咲さん。…………えっと、あ、やっぱりなんでもないわ……ごめん、あはは」


 ごまかすしかない。

 ……けど、なんか夢咲が喋り出した。


「――アタシのこの恰好の理由が聞きたいんでしょ。聞こえてたよ」


 あ、こんな声だったっけ。

 わりとハスキーでかっこいい声なんだ。


「……」


 この時は怒ったように言った夢咲だったんだけど、ちょっと気まずい間が空いた後、わざとらしく、「ふー」とタメイキをついた。

 なんだかドラマなら感動的なBGMが流れる調子の気取った声で、夢咲は語りだした。


「あんまり言いたくはなかったんだけどね。

 五歳の頃、ヤンキーに絡まれていたアタシを救ってくれた女番長がいたんだ。

 ……あのねえさん、どこの誰かはわからないけど、

 並みいるヤンキーたちを女だてらに次々と倒して、

 それからアタシもあの姐さんみたいになりたいって思ったのさ……」


 あ、これ絶対嘘だ。

 五歳に絡むヤンキーなんかいないもん。

 目もめっちゃ泳いでるし、途中から声小さいし。


「そんな過去があったの……夢咲さん」


 なんか委員長だけちょっと感動している。

 委員長ってマジで素直なんだ。一緒にいる他の面々は、真面目に聞いてたり、ちょっと嘘に感づいてたりするけど、なんか総じてノーコメント。

 ウチもちょっとコメントしづらいな。


 うーん……。


 ……でも、まあいっか。

 なんか夢咲もちょっと楽しそうだし、ウチのクラスからハブられてる子はいなくなったし……。


 あー、でも、この嘘ストーリーをアンナやカレンにどう話そっかな。あいつらならバカにしちゃうよなぁ……。

 ウチは、あんまりそーゆーの好きじゃないんだけど。




 ……とりあえず、「マニャポッペ星人のお告げで、地球滅亡を食い止めるためにスケバンファッションを始めた」って事にしてごまかしちゃお。




【『ギャル』少女――――青山未羽 ブルー枠/勉強嫌い/リア充?/性格・適当】




◆ ◆ ◆ ◆ ◆



【ついき】


※マジカルエミとは関係ないです。


※2章目まで書いたら、本編の最後についていた下記の文章が浮きまくっていたので、これを本編から外しました。

 活動報告かなんかに乗っけます。

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