97話 妹はカップケーキを作ります
<結衣視点>
私は、選択授業で家庭科を選んでいます。
女の子として、色々とできるようになっておきたいですからね。
その方が、兄さんに喜んでもらえそうですし……
褒められたりなんかして……えへ♪
まあ、学校の授業なので、そこまで本格的な内容ではありませんが……
それでも、色々と勉強になります。
そして……
今日の授業の内容は、調理実習でした。
「よろしくね、結衣」
「はい、よろしくお願いします」
同じく、家庭科を選択している凛ちゃんと一緒の班になりました。
凛ちゃんは、なんでもできるイメージがあるので頼もしいです。
「はーい、今日はお菓子を作るわよ」
壇上で、先生がレシピを黒板に書いていきます。
「クッキーとカップケーキね。どちらも手間はかからないけど、ちょっとしたことで大きく味が変わってしまうから、注意してね? 丁寧に、しっかりと作ることが大事よ。わからないことがあったら、遠慮なく聞いてちょうだい」
「クッキーとカップケーキ……担当を分けましょうか。結衣は、どっちがいい?」
「そうですね……」
ぽん、と兄さんのことが思い浮かびました。
作ったものは自分で食べていいので、誰かにあげることも可能です。
もちろん、私は兄さんにあげます。
兄さんは、どっちが好きでしょうか?
クッキー……カップケーキ……
「じゃあ、私はカップケーキでいいですか?」
「ええ、構わないわ。なら、私はクッキーね」
「がんばって、おいしいものを作りましょうね」
「そうね。結衣は、先輩にあげるから、特にがんばらないといけないわね」
「な、なんでわかったんですか?」
「むしろ、わからない方がおかしいわよ。そんな顔をして」
私、どんな顔をしてるんでしょうか?
兄さんのことを考えていたから、笑っていたのかもしれません。
「よし、がんばりましょう!」
真白ちゃんは、お菓子が作れる妹はポイントが高い、と言っていました。
日頃のごはんは、兄さんが担当していますが……
ここでおいしいカップケーキを作り、私もできるということを兄さんに教えてあげましょう。
目指せ、妹ポイントアップ、です!
「えっと……まずは、材料を混ぜる……」
黒板に書かれたレシピを見ながら、各種材料をボールに入れて、ぐるぐると混ぜます。
ただ混ぜるだけの作業。
でも、想いを込めて、ぐるぐると混ぜます。
兄さんのことを想いながら、ひたすらに混ぜます。
兄さん、喜んでくれるでしょうか?
笑ってくれるでしょうか?
兄さんの笑顔は、とても好きです♪
見ているだけで、胸がぽかぽかしてしまいます。
あの笑顔を向けられた時なんかは、もう、どうなってしまうか……
えへへ、兄さん♪
がんばって作りますからね。
「結衣、結衣」
「え? あ、はい。なんですか」
「それ、かき混ぜすぎじゃない? 材料が均等に混ざるくらいでいいのよ?」
「そうなんですか?」
言われて、手を止めました。
混ぜすぎたみたいですが……まあ、見た目は特に問題ありませんし、平気でしょう。
えっと、次の行程は……塩をひとつまみ?
カップケーキなのに、塩を入れるなんて不思議ですね?
あっ、もしかして、隠し味というやつでしょうか?
塩を入れることで……まあ、色々あっておいしくなるんでしょう。うん。
「……塩だけ、というのは寂しいですね。せっかくだから、胡椒と……あと、七味も入れてみましょう」
隠し味はたくさんあった方が、きっとおいしくなりますよね。
「結衣……あなた、今、なにを入れて……?」
「隠し味ですよ?」
「……まあ、いいか。私が食べるわけじゃないし」
「どうしたんですか?」
「いえ、なんでもないわ。それより、そろそろ焼いたら?」
「そうですね」
仕上げにドライフルーツを入れて……
……あと、ナッツとチョコチップ、バナナも入れて、賑やかにしましょう。
それから、できあがった生地をカップに流し込んで、オーブンへ……
「えっと……」
設定温度は、200度ですか。
んー……凛ちゃんもクッキーを焼かないといけないから、早く終わらせた方がいいですよね。
なら、250度にしておきましょう。
設定し直して……これでよし、っと。
「結衣、できた?」
「はい。あとは、焼きあがるのを待つだけです」
私が作ったカップケーキ、早く兄さんに食べてもらいたいです♪
おいしいよ、なんて言ってもらえたりして……
結衣はお菓子が作れるなんて、女の子らしいなとか言われたりして……
頭を撫でてもらったりして、褒めてくれたり……
えへ♪ えへへ♪
ダメですよ、兄さん。
そんなに言われたら照れてしまいます。
でもまあ、うれしいことなので、もっともっと褒めてください♪
「って、目的が変わってしまってますね」
あくまでも、『妹らしさ』をアピールすることが一番の目的です。
そこは間違えないようにしないといけませんね。
……でもでも、あわよくば、という感じで褒めてもらいたいです。
好きな人の褒め言葉は、とても胸にくるものですからね。きゅんきゅんしてしまいます♪
「結衣」
「はい、なんですか?」
「えっと……ニヤニヤしてる場合じゃないと思うんだけど」
「え?」
「オーブンの中、大変なことになっているわよ」
「あぁ!?」
焦げ臭い匂いがして……
慌ててオーブンを見ると、そこには、黒い塊になったカップケーキが……




