この度、妹が彼女になりました

９５話 妹は弟子入りすることに決めました

＜結衣視点＞

　真白ちゃんとお話をすること、少し……

「うーん……」

　真白ちゃんは明るくて、とてもいい子で……

　ついつい本来の目的を忘れてしまうくらい、楽しくおしゃべりができました。

　でも、真白ちゃんが持つ『妹らしさ』を学ぼうとしても、よくわからず……

　ただ時間だけが過ぎてしまいました。

「結衣お姉ちゃん、どうしたの？　なんか、難しい顔してるよ」

「えっと、ですね……」

　……いっそのこと、直接聞いてみましょうか？

　真白ちゃん。

　あなたは、『妹らしさ』についてどう思っていますか？　……って。

「おっ、二人とも仲良さそうだな」

　タイミングが良いのか悪いのか、兄さんが戻ってきてしまいました。

　さすがに、兄さんのいる前で『妹らしさ』について聞くことはできません。

　でも、この機会を逃したらいつになるか……

「えへへー、結衣お姉ちゃん優しいから、大好きなっちゃった♪」

「ふふっ、真白ちゃんにそう言ってもらえるとうれしいですね」

「ホント、仲が良いな……姉妹みたいだ」

「じゃあ、私は次女？」

「私が長女ですね」

「俺は長男か」

　真白ちゃんが妹になったら、楽しそうですね……

　って、それはそれとして。

　今は、真白ちゃんの『妹らしさ』を、どう学ぶか考えないといけません。

「……真白ちゃん。せっかくなので、携帯の番号を教えてもらってもいいですか？」

「うんっ、もちろんいいよー！」

「あと、メッセージもやりとりしませんか？」

「うんうん、やる！」

「じゃあ、俺も……」

「私が先なので、兄さんは待っていてください」

「妹が厳しい……」

「よしよし。次女の私がお兄ちゃんを慰めてあげるからね？」

――――――――――

　夜になりました。

　私は、自室で携帯と向き合います。

　今なら、真白ちゃんと簡単に連絡をとることができます。

　しかし、しかしですよ？

　本人に直接、『妹らしさ』を聞くというのは……どうなのかな、と思います。

　私が、ちゃんと『妹』をやれていないことを告白するみたいで、恥ずかしいやら情けないやら。

　年上のお姉さんとしての威厳がなくなってしまいそうです。

「……でも、プライドにこだわっていたら、余計に大切なものを見失ってしまいそうですね」

　プライドは後回し。

　今はなによりも、『妹らしさ』を身につけないといけません！

　私は意を決して、真白ちゃんの番号をコールしました。

「はい、もしもしー？」

「真白ちゃんですか？　私、結衣ですけど……」

「うん、わかってるよー。結衣お姉ちゃんの番号、ちゃんと登録したし。名前が出てるからね」

「えっと、ですね……今、大丈夫ですか？　少し聞きたいことがあって」

「大丈夫だよ。聞きたいこと、って？　もしかして、相談とか？」

「はい。実は、相談したいことがあるんです」

「あれ？　ホントに相談なんだ。私なんかでいいの？」

「むしろ、真白ちゃんでないとダメです」

　すぅ、と息を吸って……

　私は、一気に相談の内容を口にしました。

「私に『妹らしさ』を教えてくれませんか！？」

――――――――――

「……なるほどなるほど。そういうことなんだー」

　一通りの事情を説明すると、真白ちゃんの納得したような声が聞こえてきました。

「結衣お姉ちゃん……」

「は、はい」

「その気持ち、すっごいよくわかるよっ！！！」

　大きな声に、耳がキーンとしてしまいます。

　でも、言い換えれば、それだけ真白ちゃんが真剣だという証。

　よかった。

　私の言いたいこと、気持ちを、真白ちゃんは理解してくれたみたいです。

「私も、一時期悩んでたことがあるんだ。ほら、従姉妹だから、正確に言うと妹じゃないでしょ？　だから、お兄ちゃんの妹らしくなろう、って考えてたことがあって……」

「そうだったんですか……」

「だから、結衣お姉ちゃんの気持ち、よくわかるよ！　お兄ちゃんにふさわしい『妹』になりたいよね！」

「はい、そうなんですよ！　兄さんはとても素敵な人だから……私も、兄さんに見合うような『妹』にならないといけない、って思って」

「そっかー……でもでも、結衣お姉ちゃんはお兄ちゃんの彼女さんなんだよね？　『妹らしさ』よりも、『良い彼女』を目指した方がいいんじゃ？」

「えっと、ですね……確かにその通りなんですけど、私が兄さんの妹であることは、この先、変わりませんから……私は兄さんの彼女である前に、一人の妹です。ならば、『妹らしく』あるべきだと思うのです」

　兄さんの彼女になることは、ひとまず保留です。

　今は、『妹らしく』あることが目標なんです。

「……」

「真白ちゃん？」

「感動したよっ！！！」

　再びの大きな声に、耳が……

　真白ちゃん、パワフルです。

　とても元気で……こういうところも、『妹らしい』ですね。

　憧れてしまいます。

「結衣お姉ちゃんが、そこまで考えてたなんて……こんなに想われてるお兄ちゃんは幸せものだね♪」

「お、想うなんて、そんな……わ、私はただ、兄さんにお世話になっているから、その、恩を返さないといけないだけで、ぎ、義務といいますか……も、もっともっと私に夢中になってほしいとか、そんなことは思っていませんからね！？」

「へー、そうなんだ。もっと見て欲しいなんて、結衣お姉ちゃん、恋する乙女だね♪」

「あうあう……」

　真白ちゃんは、兄さんみたいに鈍感じゃなくて……

　しっかりと私の気持ちを理解したらしく、楽しそうな声で言いました。

　電話の向こうで、ニヤニヤしてる顔が思い浮かびます。

「って、ごめんね。話が脱線しちゃった」

「い、いえ。気にしないでください。私のせいでもありますし……」

「それで、『妹らしさ』についてだけど……私でよければ協力するよ」

「本当ですか！？」

「うん！　結衣お姉ちゃんにはがんばってほしいからね。どこまで役に立てるかわからないけど……私の知ってることとか、経験則とか、教えられること、全部教えてあげる♪」

「ありがとうございます！」

　……こうして、私は真の妹を目指して、真白ちゃんに弟子入りすることになりました。