94話 妹はお手本を見つけました
<結衣視点>
なんていうことでしょう。
世間一般の定義からすると、私は『らしくない妹』……でした。
『らしくない妹』だとしても、兄さんは優しくしてくれます。
そのことはうれしいです。
でもでも、それは兄さんが優しいだけであって、本心では、『らしい妹』を求めていたら……?
よくできた妹じゃなくて、甘えたがりで、手のかかる妹が欲しいと思っていたら?
な、なんとかしないといけません!
これは、私のアイデンティティに関わる重大な問題です!
でも……
『らしい妹』なんて、どうすればなれるんでしょうか?
昨日、少し考えましたが、答えは見つかりませんでしたし……
どうすればいいんでしょう?
「あっ、お兄ちゃん! それに、結衣お姉ちゃんも!」
元気な声で我に返りました。
道の先に、真白ちゃんが見えました。
笑顔でブンブンと手を振り……
元気よく、こちらに駆けてきます。
「二人とも、こんにちは!」
「こんにちは、真白ちゃん」
「こんにちは」
真白ちゃんは、近くの中学校の制服を着ていました。
私たちと同じく、学校の帰り道なんでしょう。
「こんなところでお兄ちゃんに会えるなんて、真白、うれしいな♪」
「お、おい。抱きついてくるなって」
「えー、いいじゃん。これくらい、昔はいつもしてたし」
「昔はガキだったから……今は違うだろ」
「変わらないよー。真白は真白。お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ」
真白ちゃんが、うれしそうに兄さんに抱きついています。
いつもなら、嫉妬していたんですが……
今は、それよりも気になることがあります。
兄さんに抱きつく真白さんは、全力で甘えています。
甘えたがり、という言葉がぴったりと合います。
「お兄ちゃんと結衣お姉ちゃんは、今、帰り?」
「はい、そうですよ。真白ちゃんも?」
「うん! 今日が初登校だったんだー。どうどう、この制服? かわいいでしょ」
「そうだな、かわいいよ」
「えへへー、お兄ちゃんに褒められちゃった♪」
兄さんに甘える真白ちゃんは自然体で……すごく『妹らしい』です。
「ねえねえ、お兄ちゃん。入学祝いに、なにか欲しいな」
「おいおい、いきなりねだってくるなよ。っていうか、入学ってなんだ。それをいうなら転校だろ。って、転校も祝うもんじゃないし」
「おー、怒涛のツッコミだね!」
「真白ちゃんが言わせてるんだろうが」
「てへっ」
おどける仕草も、同性の私から見てもかわいいです。
「というわけで、なにか買ってほしいなー。奢って欲しいなー」
「まあ……寄り道するくらいなら。結衣もいいか?」
「あ、はい。私は構いませんよ」
「やったー!」
ぴょんぴょんと、ウサギのように跳ねる真白ちゃん。
あぁ、そんなに動いたらスカートが……!
ちょっとハラハラさせられてしまいますが……
もしかして、これは、手がかかる、ということにならないでしょうか?
「じゃあじゃあ、パフェ食べにいこ。ファミレスのパフェでいいから」
「まったく……真白ちゃん、いつの間に、こんな手のかかる子になったのやら」
「真白は、昔からこんな感じだよ」
「かもな。だんだんと思い出してきたよ」
二人の会話を聞きながら、私は脳をフル回転させます。
真白ちゃんは、甘えたがりで、手のかかる子……
つまり、とても理想的な『妹』というわけですね!
瞬間、私は閃きました。
真白ちゃんのようになれば、私も、『らしい妹』になれるのでは!?
まさに、真白ちゃんは妹の教本!
そんな真白ちゃんが、ちょうど困っていたところに現れるなんて……
これはもう運命ですね。
神さまが、私に真白ちゃんのようになれ、と言っているに違いありません!
「兄さん!」
「うん?」
「私、がんばりますからね!」
「え? なにを?」
――――――――――
真白ちゃんが合流して、方向転換。
私たちは、ファミレスに移動しました。
「ポテトフライとショートケーキとフルーツパフェ。あと、ドリンクバーを三人分」
「はい、かしこまりました」
注文を済ませたところで、兄さんが席を立ちました。
「トイレ行ってくるから」
「お兄ちゃん、一人で大丈夫? 私も一緒に行こうか?」
「あのね……俺は子供じゃないんだから」
「あははっ、いってらっしゃーい」
兄さんが苦笑して、トイレに向かいました。
意図せずに、真白ちゃんと二人きりになりました。
これはチャンスです!
「ねえねえ、結衣お姉ちゃん」
「はい、なんですか?」
「私、結衣お姉ちゃんと色々なことをたくさん、たくさーん話したいな! 同じ妹同士、仲良くしたいの」
「私も、真白ちゃんと仲良くしたいですよ」
「わーい♪ 私たち、相思相愛だね」
「そ、それは、ちょっと意味が違うかと……」
「そなの?」
「それはそうと……兄さんが戻ってくるまで、私とおしゃべりしましょうか」
「うん!」




