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92話 妹はモヤモヤします

<結衣視点>



 兄さんのお手製の料理をいただいて……

 それから、お風呂に入りました。


「ふぅ」


 ほどよい加減のお湯に浸かります。

 ちょっとした半身浴。

 気持ちいいんですけど……


 でも、この心地よさに浸る余裕はありません。

 頭の中では、昼間の女の子……

 兄さんの従姉妹の真白ちゃんのことを考えていました。


「真白ちゃん……ですか」


 太陽のように明るい性格をしていて……

 人懐っこい笑顔が魅力的で……


 とても元気なところに圧倒されて、あまり言葉を交わすことができませんでしたが、いい子というのはよくわかりました。

 友だちになってみたい、と自然と思うような子です。


 あと……


 元気で、それでいて甘えん坊で……

 『お兄ちゃん』と呼んで……

 言葉としておかしいかもしれませんが、『妹の見本』のような女の子でした。


 真白ちゃんと比べて、私はどうなんでしょうか?


「……私、あまり、兄さんの『妹』をやれていない気が……」


 素直になれないですし。

 八つ当たりしてしまいますし。

 思ってもないことを口にしてしまいますし。


 真白ちゃんと比べると、ぜんぜん妹らしくありません。


「ひょっとして、ひょっとしなくても……これは、なかなかにまずい事態なのでは?」


 兄さんの『彼女』になりたいとは思いますが……

 でもでも、兄さんの『妹』でもありたいと思っています。


 妹だからこそ、得られる恩恵というものがあるはずです。

 兄さんのことを、堂々と『兄さん』と呼べることや……

 あ、甘えたり……

 わがままを言って、ちょっと困らせたり……

 そういうことは、『妹』だけの特権だと思います。

 とても大事なことですね。


 でもでも、今の私はとてもじゃないけれど、良い『妹』とは呼べなくて……


「うぅ……どうしましょう?」


 彼女になることばかりを考えて、本来の『妹』の役目というか、役割というか、そういうものを放棄していました。

 そのせいで、妹らしくない妹になってしまうなんて。


「兄さんは、気にしないのかもしれませんが……」


 仮に、今思っていることをそのまま口にしたら……

 『結衣は妹だぞ?』って、兄さんは言ってくれると思います。

 いつも優しい兄さん……大好きです♪

 そんな兄さんだから、私はいつも兄さんのことばかり考えて、夢に見てしまうほどで……


 って、いけませんいけません。

 思考が横道に逸れてしまいました。


 とにかく、です。

 兄さんは気にしないかもしれませんが、それは、甘えているだけではないでしょうか?


 兄さんの優しさに甘えて……

 私は、『妹』らしいことを放棄するなんて……


 それは、ダメダメな気がします。

 兄さんの彼女になることも大事ですが……

 まずは、妹らしい『妹』になることを優先しないといけない気がします。


「でも……らしい『妹』って、どんな感じなんでしょうか?」


 やはり……真白ちゃん、みたいな子でしょうか?


 とはいえ、あんな風に振る舞うなんて、私には無理です。

 明るく元気に、なんでも言えるような性格じゃありません。

 恥ずかしくて素直になれないのが私なので……


 この厄介な性格は、すぐに矯正できるものではありません。

 昔からなんとかしようと思ってましたけど、ぜんぜん、直りませんでしたからね。

 おかげで、兄さんの前で、何度、素直じゃない態度をとってしまったことか……


 でもでも、それでも優しくあり続ける兄さんは素敵です♪

 私のためにいつもがんばってくれて、困っている時はすぐに助けてくれて……えへ、えへへ♪


「って、また脱線してしまいました……」


 性格を直すのは無理なので……

 まずは、表面を直してみるのはどうでしょう?


 そう……呼び方とか。


「思えば、『兄さん』っていう呼び方は、ちょっと距離があるような気がしますね……兄妹なのに礼儀正しいというか、親しみが薄いというか……」


 呼び方を変えてみましょうか?

 でも、どんな風に?


 ぽんっ、と真白ちゃんが思い浮かびます。


「お……お……」


 たった一言。

 それだけなのに、とてつもなく恥ずかしいです。


「お……おにい、ちゃん……」

「おーい、結衣」

「ひゃあああああっ!!!?」


 お風呂の扉越しに声をかけられて、思わず、お尻をぴょんと浮かせてしまいました。


「なっ、ななな、なんですか!?」

「バスタオル、忘れてなかったか? リビングに置きっぱなしになってたんだけど」

「え、えっと……そ、そうですね。忘れていたかもしれません」

「そっか。なら、ここに置いておくな」

「は、はい。ありがとうございます」


 ドクンドクンドクン、と心臓がうるさいくらいに鳴ります。

 これ、兄さんに聞こえてませんよね?


 というか、今のは……


「に、兄さん?」

「うん?」

「あの、その……い、今の……」

「今?」

「だから、そのっ……き、聞いていましたか?」

「なんのことだ?」


 兄さんはいつもと変わりありません。

 よかった……この調子なら、お、おおお、お兄ちゃん……と、私が試しに呼んでみたことは、気づいていないみたいです。

 この時ばかりは、兄さんが鈍感であることに感謝しました。

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