91話 妹が二人
「に、ににに、兄さんっ! な、なにをしているんですか!? そんな、うらやま……はしたないことを!」
「ご、誤解だ!? 俺はなにも……ほ、ほら。よくわからないけど、君も離れてくれ」
「えー、なんで?」
女の子は不満そうに頬を膨らませた。
子供っぽい仕草だけど、それが似合っててかわいい。
「むぅうううううっ」
「はっ!?」
結衣が、逆三角形の目をして俺を睨んでいる。
そ、そうだよな。
女の子と密着するなんて、真面目な結衣からしたら許せないだろう。
風紀的な意味で。
やや強引ではあったが、女の子を引き離した。
「やん」
「えっと……とりあえず、落ち着いてくれるかな? あと、結衣も……その、睨まないでくれるか?」
怖いです。
「別に! 私は睨んでなんていませんよ。それに、怒ってもいませんからね? 兄さんが私の知らないところで、知らない女の子と仲良くなっているなんて……むぅうううっ……ヤキモチなんて妬いてないですからね!?」
どう見ても怒っているんだけど、それは?
やはり、風紀の問題なのだろうか?
でも、突然飛びつかれたから、どうしようもないんだけどな……
って、今はそのことは置いておこう。
問題は、この女の子の正体と目的だ。
「ねえねえ、お兄ちゃん。難しい顔してどうしたの?」
「それは、君のせいで……っていうか、さっきから気になってたんだけど、その『お兄ちゃん』っていうのは?」
「ん? お兄ちゃんはお兄ちゃんだよね?」
「俺、君みたいな妹を持った覚えはないんだけど……」
「えーっ、ひどいよ、お兄ちゃん。真白のことを忘れちゃったの?」
「真白……?」
その名前に聞き覚えがあった。
真白……真白……真白……
「……あっ」
ピンッ、と閃く。
記憶と記憶が繋がり、埋もれていた情報が表に出てきた。
「笹野……真白ちゃん?」
「うん、そうだよー。思い出してくれた?」
古い記憶と同じように、女の子……真白ちゃんはにっこりと笑った。
「えっと……兄さん? その子は……?」
「笹野真白ちゃん。父さんの妹の娘さん……従姉妹なんだ」
「従姉妹……」
「歳は、えっと……いくつだっけ?」
「15だよ」
「そうそう、15になるんだよな。ずいぶん久しぶりだけど、大きくなったなあ」
「えへへー、成長期だからね。えっへん」
なぜか得意げに胸を張る真白ちゃん。
こういう元気なところは、昔とまるで変わっていない。
「従姉妹がいるなんて、私、初めて知りました……」
「最近は、ぜんぜん交流がなかったからな……それに、遠くに住んでいるし」
真白ちゃんは、電車で何時間もかけて移動しないと会うことができないくらい、遠いところに住んでいる。
だから、正月とかお盆とか、親戚が集まる時くらいしか会う機会がなかったんだよな。
でも、父さんが二度目の離婚をして、仕事に病的なまでに打ち込むようになって……
それで、親戚の集まりに顔を出すこともなくなり、真白ちゃんと会う機会もなくなっていた。
結衣が知らないのも無理はない。
「お兄ちゃん、そっちの子は?」
「妹の結衣だよ。話くらいは聞いたことあるだろ?」
「おー、結衣お姉ちゃん!」
人懐っこい笑顔を浮かべて、真白ちゃんが結衣を見つめる。
「真白は、真白だよ。よろしくね、結衣お姉ちゃん!」
「あ、はい。その……よろしくお願いします」
真白ちゃんの勢いに飲まれているみたいで、結衣は、ちょっとタジタジだった。
まあ、わからないでもない。
真白ちゃん、ホントに元気だからなあ……
初対面の人は、大抵、結衣みたいに呆気にとられてしまう。
「結衣お姉ちゃんは、お兄ちゃんの妹なんだよね?」
「はい、そうですよ」
「じゃあ、私と同じ妹仲間だー!」
「妹仲間……ですか」
「うん! 真白、結衣お姉ちゃんと仲良くしたいな」
「えっと……はい、こちらこそ。よろしくお願いしますね」
「うん、よろしくー!」
真白ちゃんの元気な笑顔に、結衣も笑顔を見せた。
落ち着いた様子で握手をする。
ただ……微妙に、考えごとをしてるような気がするな?
いや、考えごとというか……戸惑い?
って、今はそのことは後回しだ。
それよりも先に、確かめないといけないことがある。
もちろん、真白ちゃんのことだ。
「どうして、真白ちゃんがウチに?」
「お兄ちゃんがいるって聞いて、遊びにきたの!」
「いや、そうじゃなくて……どうやってここに来たの? 家、すごく遠いじゃないか」
「えっとね……ひっこし? をしたの!」
「え? そうなの?」
「うん! 真白、今日からお兄ちゃんのご近所さんだよ!」
ぜんぜん知らなかった……
まあ、交流が途絶えてたから、情報が入ってこなくても仕方ないんだけど。
「ご近所さんってことは、ウチの近く?」
「えっとねー」
真白ちゃんは、新しい家の住所を口にした。
ホントに近い。
ウチから歩いて5分の距離だ。
「これからよろしくね!」
「あ、うん。こちらこそ、よろしくね」
「あっ! 真白、荷物を片付けないといけないんだった。そろそろ帰るね。またね、お兄ちゃん、結衣お姉ちゃん」
ばいばい、と手を振り、真白ちゃんは外に出た。
タタタッ、と元気に走り去る。
「なんていうか……小さい嵐みたいだったな」
突然現れて、突然去って……
情報を整理しきれなくて、ぽかん、としてしまう。
「……兄さん!」
「うん? どうした、結衣」
「兄さんの妹は私ですからね!?」
結衣がよくわからないことを言う。
とにかくも……
またひと波乱、起きそうな気がした。




