87話 妹とみんなで遊園地に行こう!・7
楽しい時間はあっという間に過ぎて……
陽が傾いて、空が茜色に染まる。
本当なら、夜のパレードも観ていきたいんだけど……
そうなると、さすがに帰りが遅くなってしまう。
というか、乗り継ぎの電車がなくなってしまいそうなので、帰れなくなってしまう。
「時間的に考えて、次が最後かな」
「そうね。なににする?」
「ジェットコースターで締めましょうか?」
「凛ちゃん、それはちょっときつい……」
「だらしないわねー。男らしいところ見せたら?」
「関係なくないか?」
「だらしないですねー」
「両面からの攻撃!?」
「……」
ふと、結衣が静かなことに気がついた。
結衣は明後日の方向を見て……
いや、あっちは……
「観覧車、乗りたいのか?」
「あっ、それは……はい」
「観覧車も悪くないわね。今の時間なら、そんなに並んでないと思うし」
「結衣らしいチョイスね」
「でも、四人はきつくないか?」
乗れないことはないだろうが……
ベストな人数は二人、ってところだろうな。
「なら、あたしは凛ちゃんと一緒に乗るわ」
「えっ? 明日香さん、それは……」
「お詫び、っていうことで。ね?」
「……はい、わかりました。ありがとうございます」
「お詫びなんだから、お礼とかいいのに」
明日香は苦笑しながら、凛ちゃんの手を引いて、先に列に並んだ。
「お詫びって、なんのことだ?」
「なんでもありません」
気になる……気になるけど、この様子じゃ教えてくれないだろうな。
しつこく食い下がると、怒らせてしまう可能性も……
やめておくか。
妹にはヘタレな俺であった。
「じゃ、いこうか?」
「は、はいっ」
「ん? なんか緊張してる?」
「そ、そそそ、そんなことありませんよ? 兄さんと二人きりになれるとか、夕暮れの観覧車が最高のシチュエーションとか、そんなことは思っていませんからね?」
もしかして……
結衣、高いところが苦手なのか……?
でも、そんなことはなかったような?
……まあいいか。
今は、この楽しい時間をもう少し……
――――――――――
窓の外の景色がゆっくりと上昇する。
遊園地全体が眼下に広がり……
その向こうに、綺麗な街並みが続く。
それらが夕日で赤く照らされて……
月並みな言葉かもしれないけど、宝石みたいでとても綺麗だった。
「わぁ……! すごいすごいっ、綺麗ですね、兄さん!」
「ああ、そうだな」
結衣は子供のようにはしゃいでいた。
楽しんでいるようで何よりだ。
妹が元気だと、自然と俺も元気になる。
知らず知らずのうちに笑みを浮かべて、はしゃぐ結衣を眺めた。
「あっ……」
ふと、俺の視線に気づいた結衣が頬を赤くした。
コホンと咳払いをして、席に戻ってしまう。
「景色はいいのか?」
「こ、これくらいで喜ぶような子供じゃありませんから」
「つい30秒前の光景を結衣に見せてやりたいな」
「むう……兄さん、意地悪ですよ」
「悪い悪い」
「ふふっ」
頬を膨らませて……
でも、それは少しで、すぐに結衣は笑う。
「……ねえ、兄さん。その……ありがとうございます」
「ん? どうしたんだ、突然」
「今回は……いえ。今回だけじゃなくて、日頃、いつも私のことを助けてくれて……その、なんていうか……私は兄さんにとても感謝していて……だから、ありがとうございます」
「気にするなって。兄が妹の力になるのは当たり前のことだろ」
「……そんなことをサラリと言える兄さん、かっこいいです……」
「え?」
今、かっこいい……って。
「か、勘違いしないでくださいね!? い、以前と比べたら多少はマシになっただけといいますか、ゾウリムシと比較したらいい、という程度のレベルですからね!? ちょ、調子に乗らないでくださいよ!」
「おおぅ……そ、そうか」
だよな、そうだよな……
結衣に「かっこいい」なんて言ってもらえるはずないよな……
まあ、少しは前進した、って前向きに捉えておこう。
……いつか、結衣の自慢の兄になれるように。
「えっと……話が逸れましたが、私、兄さんに感謝してるんです。あの、その、ほんの少しですよ? ちょっとだけですからね? でもでも……感謝してることに変わりないので、その……お、お礼をしたいと言いますか……」
「別に礼なんていいけど」
「よくないです! 私の気がすみません!!」
「お、おう。そうか……」
ものすごい前のめりになって、力説された。
今日の結衣は、なんか、やけに積極的だな?
「それじゃあ、その、あの……お礼をするので、目をと、ととと、閉じてくれませんか?」
「こうか?」
言われたとおり、目を閉じる。
でも、目を閉じないといけないお礼ってなんだ?
「……い、いきますよ、私っ。せっかく、明日香さんがチャンスをくれたんですから……そ、それを有効活用しないといけません……すー、はー……すー、はー……い、いきます!」
よくわからないが、結衣は緊張してるらしい。
ホント、なにをするつもりなんだ?
怪訝に思っていると……
ちゅっ。
頬に柔らかい感触が触れた。




