85話 妹とみんなで遊園地に行こう!・5
<結衣視点>
ほどよく回復したところで、今度はお化け屋敷に行くことになりました。
お化け屋敷!
遊園地の定番ですね。楽しみです。
純粋に楽しそう、という意味もありますが……
やっぱり、お化け屋敷といえば、悲鳴をあげて、だ、だだだ、抱きつく! ……ですよね。
これはチャンスですよ。兄さんに合法的に抱きつくことができます。
恋人のフリをしていても、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいので、なかなか大胆なことはできないのが現状です。
しかし、いつまでもそんなことではいけません。
私は……もっと、大胆になります!
兄さんに、だ、だだだ、抱きついてみせます!
はしたないかもしれませんが、好きな人の温もりを全身で味わいたいというのは、誰もが抱くことです。きっと。たぶん。
なので、私は正しいです。うん。そう決めました。
というわけで、いきます!
――――――――――
<宗一視点>
みんなでお化け屋敷に入る。
幸いというか、一度に四人まで入場できるらしい。
薄暗い廃墟のようなところを、慎重に進む。
「おー、けっこう雰囲気あるなあ」
「ですね。あ、兄さん兄さん。この血文字、すごい凝ってますね」
俺と結衣は、のほほんとしてた。
俺は、わりとホラーとか好きなんだよな。ホラー映画を借りて、家でよく観てる。
で、結衣がそれに付き合い……
自然と結衣も鍛えられていった、というわけだ。
「宗一ってば、かわいげがないわねえ。きゃー、とか、ひぃー、とか悲鳴を上げて、あたしに抱きついてもいいのよ?」
「それ、男がやるのはどうなんだ?」
「宗一なら、いいわよ♪」
「そ、そういうことを簡単に言うな」
「照れてるし。抱きついちゃおうかしら? きゃー、こわーい」
「ぜんぜん怖がってないだろうが。バレバレだ」
「あっ!?」
突然、なにかに気づいた様子で結衣が叫んだ。
「どうしたんだ?」
「いえ、その……ついつい、いつものノリになってしまいましたが、これじゃあ兄さんに抱きつくことが……今から怖がってみましょうか? いえ、しかし、わざとらしいですね……」
なにやら、結衣が真剣な顔でぶつぶつとつぶやいている。
お化け屋敷の分析でもしてるんだろうか?
「こ、困りました……いきなり計画が……いえっ、でも、まだチャンスはあります。驚いたフリをして抱きつけば、それならまだアリかと……やりますよ。私はやるんです」
や、殺る……?
結衣のやつ、お化けに恨みでもあったのか?
物騒なことは控えてほしいんだが……
それとも、ターゲットはお化けじゃなくて……もしかして、俺?
この暗闇に紛れて、妹が兄を……
やばい。なんか、『ふふふ、兄さんが悪いんですよ』とか言う結衣が想像できてしまった。
別の意味で恐怖が湧いてきたぞ。
こういう時は、話でもして恐怖心を紛らわそう。
「ところで、凛ちゃんは、こういうの平気?」
「……ソウデスネ」
「なかなか雰囲気が出てて、やばい感じだけど……きついようなら言ってね?」
「……ソウデスネ」
「怖くなくなるコツっていうか、お化け屋敷の遊び方っていうのがあるから、そういうの教えてあげるよ」
「……ソウデスネ」
「……もしかして、余裕ゼロ?」
「……ソウデスネ」
壊れたロボットのように、片言を繰り返す凛ちゃん。
暗いからわからなかったけど、いつものクールフェイスはどこへやら、雨に濡れた子犬のような顔をしてる。
意外と言ったら失礼かもしれないけど、凛ちゃん、お化け屋敷が苦手だったのか……入る前に聞いておくべきだったかな?
とりあえず、怖くなくなるように、もっと話しかけて……
「うぼぁあああああっ!」
「ひああああああああああぁぁぁーーーーーっ!!!?」
突然、飛び出してきたゾンビに、凛ちゃんは涙声で俺に抱きついてきた。
「あああああっ、凛ちゃんにとられました!?」
なぜか、結衣も悲鳴をあげていた。
……悲鳴の質は、凛ちゃんとまったく違うみたいだが。
「先輩先輩先輩っ!!! ぞ、ぞぞぞ、ゾンビが……!!!」
「落ち着いて、ほら。平気だから、大丈夫だよ」
「で、でも……」
「俺がいるよ。それに、結衣と明日香もいる」
「先輩……」
ちょっとだけ、凛ちゃんが赤い顔をした……ような気がした。
「先輩、いつもよりかっこ……」
「ぶるわぁあああああっ!!!」
「ひにゃああああああああああぁぁぁーーーーーっ!!!!!?」
「あああああっ!? また抱きつかれました!?」
凛ちゃんの悲鳴と、よくわからん結衣の悲鳴が響いた。
「ちょっ、凛ちゃん、落ち着いて!」
そんなに抱きつかれると、や、柔らかい感触が……
それに良い匂いもして……色々な意味でやばい!
「あうあうあう、先輩っ、先輩っ、先輩っ!」
「凛ちゃん、ずるいですよ! わ、私も……兄さんっ!」
「じゃあ、あたしも♪」
「お前ら、なにを……うぷっ!?」
突然、結衣と明日香も抱きついてきて……
ふにゅふにゅと、女の子の柔らかい体に包まれる。
なんだ、これは?
お化け屋敷にいるのに、天国に迷い込んでしまったのだろうか?
とりあえず……
「お前ら、落ち着けえええええぇっ!!!」
この面子でお化け屋敷には絶対に入らない。
固く誓うのだった。




