83話 妹とみんなで遊園地に行こう!・3
電車に揺られること、小一時間。遊園地に着いた。
遊園地の名前は……伏せておく。
ほら、ハッキリと明記すると、色々と問題が出てくるだろう?
「わぁっ」
結衣がいっぱいの笑みを浮かべた。
「遊園地なんて、久しぶりです。しかも、兄さんと……いえ、みんなと一緒なんて、とてもうれしいです」
「フリーパスだから、遊びたい放題ね。全部、制覇する?」
「さすがに、時間的に厳しいかと。ここは厳選して、狙いを絞るべきですよ」
まだなにもしていないのに、みんなは笑顔だ。
かくいう俺も、わくわくしてる。
遊園地って、人を笑顔にして、楽しくさせる魔力みたいなものがあるよな。
「最初はどうする?」
「そんなの決まってるでしょ?」
明日香がニヤリと笑う。
「定番中の定番、ジェットコースターよ」
――――――――――
ゴトン、ゴトン、と音を立ててゆっくりと上昇していく。
少しずつ景色が上昇して……
この瞬間が一番緊張するよな。
「あの……に、兄さん?」
隣りに座る結衣が、不安そうにこちらを見た。
明日香と凛ちゃんは後ろだ。
明日香は俺の隣に座ろうとしたが、結衣が譲らず、結局、じゃんけんで決めた。
明日香はともかく、なんで結衣は俺の隣を選んだんだろうな?
凛ちゃんと一緒の方が楽しめると思うんだけど……
こんな時でも、『恋人のフリ』をしてるのだろうか?
「えっと、実は私、こういうのあまり得意ではなくて……」
「知ってるよ」
「知っていたんですか!? それなのに、あっさりとジェットコースターに乗ることを承諾するなんて……兄さんは、ドSですか? 妹が怖がるところを見て喜ぶ、鬼畜なんですか? ひどいです」
「いやいやいや。そんなつもりはないからな!?」
「本当でしょうか……?」
「本当だって! ジェットコースターは定番だから、乗っておいた方がいいかな、程度にしか思ってないから」
「……なら、いいです」
よかった。
なんとか、結衣の誤解を解くことができた。
というか、苦手なら乗らなければいいのに……
明日香に張り合って、俺の隣を死守したように見えたが……まあ、気のせいか。
「許してあげますから、その……私の、て、手を握ってくれませんか!?」
「いいぞ。ほら」
「ひゃっ!?」
言われた通りに手を握ると、結衣は変な声をあげた。
「どうしたんだ?」
「だ、だだだ、だって、兄さんがあっさりと手を握るから……」
「手くらい、いつも握ってるだろ? 朝、登校する時とか帰る時とか……」
「それとこれとは別なんです! こういうシチュエーションでは、手を握ってもらうことでとても安心できるから、いつも以上のドキドキを感じてしまうんですよ! 兄さんは、天然ですか。妹をドキドキさせて、萌えさせたいんですか!?」
そんなよくわからないことを言われても困るぞ。
「じゃあ、手を握らない方がいいか?」
「手を放すなんて、とんでもない!」
逆に、ぎゅうっと握られる。
「こ、こここ、これは仕方なくですからね!? その、ちょっと怖いから、兄さんを頼りにしてるといいますか、近くに感じたいといいますか……こういう時でなかったら、こんなに強く手を握ったりしませんからね!? 勘違いしないでくださいよ? あ、でもでも、少しくらいは勘違いしてくれても……」
「ちょっと、お二人さん」
俺たちの会話が聞こえてたらしく、後ろから明日香の呆れるような声が飛んできた。
「あたしたちがいること忘れて、イチャイチャしないでくれる?」
「こ、これはイチャイチャしてるわけじゃないですよ? ただ、ちょっとだけ、ほんの少しだけ、兄さんを頼りにしているだけで……」
「それをイチャイチャって言うんでしょうが。そんなに攻めるなんて、さすが、あたしのライバルというべきか」
「ライバル?」
「いえいえいえっ、な、ななな、なんでもありませんよ!? ええっ、なんでもありませんとも!」
「あー……みなさん、お話はその辺にしておいては?」
妙に冷静な凛ちゃんの声が聞こえてきた。
「そろそろ……落ちますよ?」
「え?」
果たして、その『え?』は誰の声だっただろうか?
一瞬の後……
タイミングを計ったように、急降下する!
とりあえず……みんなで揃って叫んだ。
――――――――――
<結衣視点>
ジェットコースターから降りた私たちは、ふらふらと歩いて……
手近なベンチに座りました。
まさか、あそこまでなんて……
ジェットコースター、ぱないです。
言い出しっぺの明日香さんも、ぐったりしていました。
兄さんも顔色が悪いです。
でも、凛ちゃんだけはケロリとしていました。タフですね……凛ちゃんの心臓は鋼でできているんでしょうか?
「結衣……大丈夫か?」
「はい、なんとか」
自分も大変なはずなのに、兄さんが私を気にかけてくれます。
それが、たまらなくうれしいです♪
その時、ふと、閃きました。
今なら、自然に甘えることができるのでは?
調子が悪いと言って兄さんによりかかり……
あわよくば、膝枕をしてもらったり……なんて!
兄さんの膝枕……素敵です! 夢のようなシチュエーションですね。ぜひぜひ、体験してみたいです。
大丈夫か、結衣? なんて言いながら、兄さんが私の頭を撫でて……
私は、兄さんの膝に頬をこすりつけたりなんかして……えへへ。
このチャンス、逃すわけにはいきません!




