80話 妹は約束をしたいです
次の日曜日。
俺と結衣は、セントラルシティの近くにある公園にやってきた。
「♪」
「やけに機嫌がいいな?」
「それはもう、こうして、また兄さんをデートをすることが……いえっ、なんでもありません。天気が良いと、自然と気分もよくなりませんか? ほら、雲ひとつない青空ですよ? 決して、兄さんと一緒ということを喜んでいるわけじゃありませんからね?」
「そうだな、これだけ気持ちのいい天気だと、テンションも上がるよな」
「……兄さんのバカ」
「えっ、なんで?」
「そうやって、兄さんが鈍感なので色々と助かっている部分もありますが、やきもきしてしまうこともあるんですからね? もっと、改善してください!」
「お、おう?」
結局、結衣は俺にどうしてほしいのだろうか……?
「それで、今日はなにを?」
昨日の夜……
結衣が、二人でテストの打ち上げをしたい、と言ってきた。
特に予定はないから、一緒に出かけることにしたんだけど……
やってきた場所は、なぜか、この前の公園。
遊ぶ場所なら、他にたくさんあるはずなんだけど?
「兄さん、あそこに行きましょう」
「あそこ?」
「ホント、鈍いですね……」
ため息をつかれた!?
「この前、できなかったことがあるでしょう? 今日は、やり直したいんです」
「できなかったこと……ああっ」
ようやく、結衣の言いたいこと、望んでいることを理解した。
目的地……公園の高台に向かう。
今日は天気がいいからか、たくさんの人がいた。
主にカップルだ。
どいつもこいつも、幸せそうな笑顔を浮かべている。
くっ、リア充共め。
爆発してしまえ!
って、傍から見れば、俺もリア充なのか。
でも、悲しいかな。
相手は妹で、しかも『フリ』なんだよな。
「あれ、やりたいんだろ?」
「はいっ!」
チェーンに錠をかけるおまじない。
以前は、天気が崩れたせいで、そのまま流れてしまった。
「って、錠は?」
「安心してください。事前に買っておきましたから」
チャラ、と結衣が錠を取り出した。
なかなかに準備がいい。
「わざわざ用意しておくなんて……もしかして、楽しみにしてたのか?」
「えっ!? いえ、その、これは……」
「実は、俺も、ちゃんとしてみたい、って思ってたよ」
「えええっ!? に、兄さんもですか? それじゃあそれじゃあ、私たちは、両……」
「こんなおまじない、初めてだからな。面白そうだから、ちゃんとやってみたいって思ってたんだ」
「……アー、ハイ。ソウデスカ」
どうしたんだろう?
結衣の目が、なぜか、どんよりと曇って……
俺、変なことを言っただろうか?
「まあ、わかっていましたけどね。兄さんはそういう人だ、って……それでも、ちょっとは期待してしまうじゃないですか……期待しても仕方ないじゃないですか……はぁ」
「えっと……結衣? よくわからんが、すまん」
「よくわからないなら謝らないでください、兄さんはあほなんですか」
「お、おおう……悪い」
ギロリと睨まれた。
ウチの妹、超怖い。
でも、すぐに気を取り直したらしく、いつもの『らしい』笑みを浮かべる。
「じゃあ、さっそくおまじないをしましょうか」
「だな。また雨が降らないとも限らないしな」
「兄さん。そういう、フリみたいなことを言うの、やめましょうね? ホントに降ったらどうするんですか? もしかして、期待してるんですか? 芸人ですか? 私、怒りますよ?」
年頃の妹は難しい……
「えっと……このチェーンに、錠をかければいいのか?」
「違いますよ、そんな単純じゃありませんから」
結衣は、ポーチからマジックペンを取り出した。
錠に、『宗一』『結衣』と並べて書く。
さらに、相合傘。
「ち、違いますからね!? こういう風にするのが、おまじないのやり方なんですからね!? 決して、私がしたいと思っているとか、そうありたいと願っているとか、他意はありませんからね!?」
「ああ、わかってるよ。変な勘違いなんてしないさ」
「……ああもう、どうしてこういう時だけ、冷静というか勘違いしてくれないというか……勘違いしてくれてもいいんですけど……まったくもう、兄さんは」
なぜか怒る妹さま。
ホント、年頃の女の子の扱いは難しいなあ。
「こうやって二人の名前を書いて……それで、一緒に錠をかけるんですよ」
「なるほど。じゃあ、やるか」
結衣の手を取り、錠を握る。
「はぅ!? に、ににに、兄さんの手が……わ、私の……手を、ぎゅううう、って……あうあう」
「どうした?」
「い、いいい、いえっ、な、なんでもありませんよ? ええ、なんでも……はぅううう、幸せです♪」
なんでもないとはいえないような顔をしてるが……
下手にツッコミをいれたら、また怒られてしまうかもしれない。
ここは、スルーで。
今は、おまじないに専念しよう。
結衣と一緒に、錠をチェーンに……
「結衣?」
「……」
「おーい、結衣?」
「あっ……な、なんですか?」
「手を離してくれないと、錠をかけられないんだけど……」
「す、すいません。つい名残惜しくて……ではなくて、ぼーっとしてしまって……あっ、に、兄さんのことを意識していたとか、そういうわけじゃありませんからね? 勘違いしないでくださいよ?」
「わかってるって」
「サラリと流されました……やっぱり、兄さんは手強いですね……むううう」
なぜか、結衣がむくれるものの……
その後は、特に問題なく、チェーンに錠をかけた。
カチリ、と音がして……これで終わりだ。
「終わり?」
「はい、そうですね。これで、私たちの絆は絶対に解けることはありません」
「なら、安心だな」
「兄さん、ありがとうございます。私のわがままに付き合ってくれて」
「いいさ。俺も、こういうおまじないならしておきたかったし」
「えっ、それは……」
「この先、どうなるかわからないけどさ……俺は、結衣とずっと一緒にいたいと思う」
「兄さん……はいっ、私もですよ♪」
満面の笑みで、結衣は応えた。




