77話 妹は完全復活します
なにがおきたのか、詳細はわからないが……
結衣は回復した。
肉体的な面は元より、精神的な面でも。
……そして、中間テストを迎える。
――――――――――
「はい、そこまで」
チャイムが鳴ると同時に、監督の教師が声をあげた。
一番後ろの席のクラスメイトが、順々にテスト用紙を回収する。
「んーーーっ!!!」
今日は、中間テストの最終日だ。
でもって、たった今、最後の科目が終わった。
ぐぐっと伸びをして体をほぐす。
そんなに長い時間じゃないとはいえ、いつも以上に集中すると疲れるなあ。
ちょっとだけ、体が重くなってるような気がした。
「宗一、どうだった?」
「んー……まあまあかな」
明日香の問いに、そう答える。
色々とあって、一時、勉強は中断されたものの……
テスト前日までがんばってきたからな。
その成果は出ていて、それなりの手応えを感じていた。
赤点はまずないだろうし、得意科目なら、それなりの点数に届くんじゃないだろうか?
「明日香は?」
「問題なしよ。宗一たちと勉強したから、いつもより良いくらい。ありがとね」
「お礼を言うのは俺の方だよ」
「そう? なら、後でごはんでも奢ってね♪」
「遠慮ないな、お前……こういう時は、そんなの気にしない、とか言うもんだろ」
「あたし、貸し借りはキッチリしておかないと気がすまないの」
「守銭奴め」
「ほほほ、なんとでも言いなさい」
テストの重圧から解放されたからか、明日香との会話がいつもより弾んでいるような気がした。
「結衣は大丈夫かな?」
「平気でしょ。むしろ、宗一よりもうまくやってるんじゃない?」
「まあ、否定はできないが……」
結衣なら大丈夫、という思いはあるのだけど……
それでも気になってしまう。
携帯を起ち上げて、メッセージを送る。
『どうだった?』
一分ほどで返事がきた。
『ダメでした……』
「えっ!?」
『なんて、ウソですよ。バッチリです♪ たぶん、過去最高を記録するかと』
心臓に悪い……質の悪い冗談はやめてくれ。
まあ、そんな冗談を言えるくらい元気になったと考えればいいか。
――――――――――
ショートホームルームが終わり、放課後になる。
最も、今日はテストだけなので午前中で終わりだ。
「ねえねえ、宗一。テストも終わったし、打ち上げしない?」
「おっ、いいな。せっかくだから、結衣と凛ちゃんも誘おうぜ」
「ええ。元からそのつもりよ」
そんなわけで、明日香と一緒に一年の教室に向かう。
ほどなくして、結衣と凛ちゃんを発見。
ただ……それだけではなくて、いつかの学年主任もいた。
「結衣さん。テストはどうでしたか?」
あの人、わざわざ結衣の様子を確かめにきたのか?
そんなもの、後でハッキリとするだろうに……
暇というか、ネチネチしてるというか……呆れてしまう。
「はい、問題ありませんよ。全科目で、良いところに入れたと思います。これも、日頃の先生の授業のおかげですね」
結衣はにっこりと笑い、皮肉を返していた。
いつの間にか、妹のメンタルがすごいことに。
「そ、そうですか……しかし、まだ結果は出ていませんよ? 安心するのは早いのでは?」
「いえ、大丈夫です。自信がありますから」
結衣はきっぱりと言い切った。
これには、さすがの学年主任もたじろいでしまう。
しかし、やられっぱなしでいられないと思ったのか、単なる『大人』の意地というやつか。
しつこく食い下がる。
「……手応えがあったのなら、何よりです。しかし、テストは一度きりではありません。気を抜かないでくださいね? それに、テストだけではなくて、日常の生活態度にも気をつけてください。結衣さんがお兄さんと付き合うことで、問題になるのならば、やはり、それを見過ごすことは……」
「失礼ですが」
学年主任の言葉をぴしゃりと遮り、結衣は笑いながら言う。
……笑ってはいるが、笑っていない。
矛盾した表現ではあるが、そんな笑顔で、不敵に言葉を放つ。
「兄さんと付き合うことで問題が生じることなんてありません。全て、プラスの方向に働きます。兄さんと付き合うことは、私に良い影響を与えてくれますから」
「そのようなことは……」
「恋愛って、そういうものだと思いませんか? 好きっていう想いが、色々なものの糧になるんですよ。成長させてくれるんですよ。だから私は、以前よりも成長することができました……先生は大人だから、それくらい、わかりますよね? それとも……もしかして、恋愛をしたことがないんですか? だとしたら、私の言っていることはわからないかもしれませんね」
「なっ……」
いきなりの結衣の口撃に、学年主任はおもいきりたじろいだ。
「わぁ……結衣ちゃん、強烈」
隣の明日香が、驚くような楽しむような、そんな声を漏らした。
「というわけで、私は、これからも兄さんと付き合い続けます。兄さんの彼女であることをやめません。ご理解していただけますね?」
「……か、勝手にしなさいっ!」
学年主任はそう言うのが精一杯で、逃げるようにその場を後にした。




