76話 妹は元気になりました
買い物を終えて、急いで家に帰る。
結衣は大丈夫だろうか?
荷物を適当に置いて、結衣の部屋へ。
ドアをノックしようとしたところで、部屋の中から笑い声が聞こえてくるのに気がついた。
明日香か?
頼んだ通り、様子を見てくれているみたいだけど……
なんか、やけに楽しそうな?
「結衣、入ってもいいか?」
「はい、どうぞ」
部屋をノックしてから、中に入る。
「兄さん、帰ってきちゃいましたね」
「じゃ、あの話はここまでにしましょうか」
「私は続けてもかまいませんよ?」
「ちょっ、それは反則じゃない? あたし、まだなにも言ってないんだからね」
「ふふっ。冗談です、ちょっとした意地悪ですよ」
ウチの妹と幼馴染が、なぜか、すごく仲が良い。
つい先日は、仲が悪いってほどじゃないけど、張り合っていたのに……
いつの間にこんなことに?
「えっと……結衣、具合はどうだ?」
二人の様子を尋ねたい気持ちを我慢して、まずは、体調を確認する。
「はい、問題ありませんよ。たくさん寝たから、だいぶマシになりました」
「夕飯、食べれそうか? おかゆにするか?」
「えっと……あまり油っこくないものなら、なんでも構いませんよ」
「本当に平気か?」
「心配症ですね、兄さんは。大丈夫ですよ」
「それならいいんだけど……」
「ふふっ。心配してくれて、ありがとうございます。それは、うれしいですよ」
「あ、ああ」
暗い顔をしていた時のことがウソみたいだ。
結衣はとても晴れ晴れとした顔をしてる。
本当に、なにがあったんだ……?
「なあ、明日香……」
「なぁに?」
「えっと……結衣となにか話をしたのか?」
「そうね、したわね」
「どんな話を?」
「教えて欲しい?」
「ああ」
「だーめ。内緒♪」
にひひ、と明日香は楽しそうに笑う。
こちらも本当に楽しそうだ。
「乙女の秘密の会話なの。男の宗一には聞かせられないわね」
「なんだよ、それ」
「内緒、っていうことよ」
「……おかしいなあ。この部屋に乙女は結衣しかいないんだけど。誰と乙女の話とやらをしていたんだろうな」
「へぇ……あたしが乙女じゃないって言いたいわけ?」
「なんだ、自覚あるじゃないか」
「よし。結衣ちゃん、葬儀屋の手配をして。今日で、宗一はこの世を去ることになるわ」
「はい、わかりました」
「物騒なことを言うな。ってか、結衣も乗らないでくれよ!?」
「ふふっ」
結衣が笑う。
いつもの笑顔だ。
なにがあったのか。
どんな話がされたのか。
それはわからない。
わからないけど……
まあ、詳細はどうでもいいか。
結衣が元気になったのなら、それでいい。
「明日香」
「なに?」
「ありがとな」
『なにか』をしたであろう幼馴染に、俺は心から感謝の念を込めて、お礼を言った。
「どういたしまして」
明日香は、とても気持ちのいい笑顔で応えた。
「まあ、結衣ちゃんのためだけにしたことじゃないからね。あたしのためでもあったし」
「どういうことだ? それ」
「その辺は乙女の話に繋がるから内緒」
「またそれか」
「兄さん、ジェラシーですか? 一人だけ仲間外れにされて、寂しいんですか?」
「あらやだ。心が狭い男ねー。そんなんじゃモテないわよ」
妹と幼馴染が結託してる……
まるで、本当の姉妹みたいだ。
俺よりも、兄妹らしいのでは……?
あ、やばい。
なんか凹んできたぞ。
くそう。
明日香なんかに兄の……というか、姉のポジションを奪われるなんて。
このままじゃあ、俺の株がピンチが。なんとか回復しないと。
「えっと……結衣、今夜はなにが食べたい? 好きなものを作るぞ」
「ですから、さっき言ったじゃないですか。油っこいものでなければ、なんでもいいですよ」
「それでも、ほら、食べたいものとかあるだろ? 好きなものを作ってやるから。な?」
「あら、今度は食べ物で釣ろうとしてるの? 宗一、結衣ちゃんを甘く見すぎよ」
「兄さん……」
あっさりと魂胆を見抜かれて、暴露されて、妹のジト目が突き刺さる。
くそう。
明日香は俺に恨みでもあるのか?
「ホント、なにがどうなってるのやら……」
まあ、一つ、確かに言えることはある。
それは……
「そうだ。せっかくだから、明日香さんも一緒にごはんを食べていきませんか?」
「えっ、いいの?」
「はい、もちろん。ごはん、みんなで一緒に食べた方がおいしいんですよ」
「でも、迷惑に……って、作るのは宗一だからいっか」
「そうそう、兄さんだからいいんですよ」
「結衣ちゃんも言うようになったわねえ」
「誰かさんに影響を受けたみたいです。えへへ」
結衣が笑顔になって良かった、っていうことだ。




