75話 妹と兄の幼馴染と・2
<結衣視点>
「あたし、宗一が好きよ」
「っ!?」
そうかもしれない、とは思っていましたが……
いざ言葉にされると、かなりの衝撃を受けました。
「もちろん、異性として……男として、っていう意味だからね?」
「はい……わかっています」
「きっかけは……って、そういう話はいいか。あたしが宗一を好き、っていうことだけ理解してもらえれば」
「……はい」
「たぶんなんだけど、あたしの気持ちがわからなくて、結衣ちゃんはもやもやしてたんじゃない? だから、まずはハッキリしておいた方がいいかな、って」
「その通りですけど……よくわかりますね」
「結衣ちゃんとも、それなりに付き合いが長いからね。お姉さん分としては、妹の考えていることは、なんとなくだけどわかるわ」
こんな時になんですけど……
天道さんはライバルなんですけど……
妹分と言われて、ちょっとうれしいです。
「ホントは、誰にも言うつもりはなかったんだよね。告白も、いずれは……って考えてたけど、その前に宗一が結衣ちゃんと付き合い始めたから、やめにしたの。これ、一応、本心だからね?」
「はい、信じますよ」
「ありがと。で、今更、なんでこんなことを話したのかは……まあ、さっき言った通り、結衣ちゃんが気にしてるように見えたから。これ、あたしのせいでもあるんだけどね。我慢するつもりだったんだけど、二人を見てたらあたしも見てほしい、っていうような気持ちが湧いてきて、つい、挑発するようなことをしちゃった。ごめん」
私の方こそごめんなさい。
やっぱり、天道さんは兄さんのことが好きでした。
正確な時期はわかりませんが……
二人の仲がずっと良いことを考えると、だいぶ前から好きだったんでしょう。
それなのに……
私が横から兄さんを奪い取った。
さらに、イチャイチャを見せつけた。
全部、私の身勝手な想いが原因です。
ダメです……自己嫌悪が半端ないです……
ああもう、穴があったら埋まってしまいたい。
そのまま100年くらい閉じこもっていたいです。
「ありがとね」
「え?」
「あたしのこと、気にかけてくれてありがと。それで、色々と悩んでいたんでしょ? 体調を崩しちゃうほどに、迷っていたんでしょ? 倒れちゃったのになんだけど、そこまで気にかけてくれたことは、素直にうれしいよ」
「そんな……お礼なんて……私は、謝らないといけないのに……兄さんがとられるかもしれないって、心配になって……私のものですよ、って見せつけるようなバカなことをして……」
「それ、普通じゃない? 彼氏にちょっかいかける女がいたら、警戒するのが普通でしょ」
天道さんは、そんなことを言ってくれますが……
私に対しては、その言葉はあてはまりません。
だって……私たちは、『フリ』の関係ですから。
私は兄さんが好き。
だから、『恋人のフリ』をして、距離を縮めようとしました。
でも……
その結果、天道さんの恋心を踏みにじりました。
自分を優先して、他人を無視しました。
自分のことしか考えませんでした。
なんて、浅ましい……
自分で自分がイヤになります。
私、こんなイヤな女の子だったんですね……
嫉妬して、独占欲を発揮して、兄さんの傍に女の子を近づけまいとして……
ああもう、本当になにをしているのか。
私は……
「こーら」
「ふあっ!?」
ぽこっ、と天道さんに軽くげんこつをされました。
いつの間にか、天道さんが目の前に。
私の悩みを振り払うように、明るい笑顔を向けてくれます。
「また、あれこれ考えてたでしょ? それ、やめにしない?」
「そう、言われましても……」
「色々あって、ややこしくなっちゃったけどさ……一旦、リセットしない?」
「リセット……ですか?」
「そう。あれこれ考えるのはやめ。色々考えて考えて考えたせいで、ドツボにハマってるわけだし……シンプルにいきましょ。結衣ちゃんと宗一は付き合っている。で、あたしは宗一を諦められない」
「昼ドラみたいな関係ですね……」
「そだね。でも、ドロドロしたのはなしにしましょ。あたしは、正々堂々と、真正面から結衣ちゃんに挑むわ。すでに負けてるかもしれないけど……結衣ちゃんの恋のライバルになりたいの」
「ライバルに……」
「で……その上で、結衣ちゃんとも仲良くしたい」
「ライバルなのに、仲良くなりたいんですか?」
「できなくはない、と思ってるよ。強敵と書いてトモと読む、みたいな感じ? まっすぐぶつかりあえば、下手なしこりは残さないと思うんだよね。どうかな?」
「どうかな、と言われましても……」
どうして、天道さんはそんなことが言えるんでしょうか?
さわやかな顔をして……
とてもまっすぐなことを口にして……
私に対して、思うところはあるはずなのに。
それなのに、どうして?
考えても考えてもわからなくて……
だから、私は素直に尋ねることにしました。
「天道さんは、どうしてそんなことが言えるんですか?」
「え?」
「私、色々とひどいことをしたんですよ? それなのに、こんな私と仲良くしたいなんて……どうしてですか? 兄さんの妹だからですか?」
「結衣ちゃんだからよ」
「私だから……?」
「あたしは、宗一が好き。でも、結衣ちゃんも好きなの。あっ、こっちは友だち、って意味だからね?」
「はあ……」
「恋のライバルだとしても、結衣ちゃんとも仲良くしたいの」
「それ、かなり都合がいいのでは……?」
「かもね。でも、引き下がるつもりはないわ。無理とかおかしいとか言われても、気にしない。外野には好きに言わせておけばいい。恋のライバルと仲良くしちゃいけない? それが常識? 知ったことじゃないわね。あたしは、あたしのやりたいようにやる」
「もしも、私がイヤだと言ったら? 天道さんと仲良くなんてしたくないって言ったら?」
「仲良くしてくれるまでつきまとうかな?」
「それ、ストーカーっていうんですよ……」
知らず知らずのうちに、私は小さく笑っていた。
さきほどまでの暗い気分は完全に消えていた。
今は、とても晴れ晴れとした気分だ。
「……私も、天道さんと仲良くしたいです」
「やった! じゃ、今までのことは水に流して……改めて、よろしくねっ」
「はい、こちらこそ」
笑い合いながら握手を交わした。
「でも、兄さんのことは渡しませんからね?」
「あたしも、諦めないわよ?」
お約束のように、そんな台詞を口にして……
私たちは、同時に笑い声をあげました。
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