74話 妹と兄の幼馴染と・1
<結衣視点>
目が覚めたら、窓の外が赤くなっていました。
学校で寝て……
家で寝て……
今日は、寝てばかりですね。
……それくらい、疲労が溜まっていたんでしょうか?
反省しないといけません。
ただ、大本の原因は悩みにあるわけで……
こればかりは、どうしていいものか……
「起きた?」
「えっ」
いつの間にか、天道さんが机の椅子に座っていました。
寝起きでぼーっとしていたせいか、気づくのが遅れました。
「おはよ、結衣ちゃん」
「お、おはようございます?」
「混乱してる?」
「それは、まあ……」
「ごめんね、驚かせちゃって。宗一が買い物に行くっていうから、結衣ちゃんのことを看てるように頼まれたの」
きっと、夕飯の買い物でしょう。
私が倒れたから、胃に優しいものとか食べやすいものとか、そういうものを揃えようとしてくれたに違いありません。
やっぱり、兄さんは優しいですね♪
キュンキュンしてしまいます。
でも……
私を一人にするのが心配だからといって、どうして、天道さんを……?
いえ、兄さんに悪気はないのはわかるんですよ?
これは、単なる偶然ということも理解しています。
それでも……どうして? と考えてしまうくらい、今は、気まずいです。
「具合はどう?」
「えっと……はい。特に問題ありません。たくさん寝たおかげで、だいぶスッキリしました」
「そっか、よかった」
天道さんがニッコリと笑います。
明るい太陽みたいな笑みで、とても魅力的です。
こんな人が兄さんのことを意識していたら、私は……
って、また余計なことを考えてしまうところでした……はぁ。
私は、なんて厄介で面倒な性格をしているんでしょうか。
自己嫌悪。
でも、自覚したからといって、すぐに直せるようなものではないんですよね。困ったことに。
「んー」
ふと、天道さんが、じっと私を見つめてきました。
なにか、考えごとをしてるみたいですが……なんでしょう?」
「あのさ。結衣ちゃんって、今、悩み事でもある?」
「それは……」
「教えて」
「……ありますよ」
天道さんの顔が真剣だったので、私は素直に頷きました。
すると今度は、とんでもない言葉が飛び出しました。
「その悩みって、あたしが関係してる?」
「えっ!?」
「あー……やっぱ、そうなんだ」
わかりやすい私の態度で察したらしく、天道さんはもうしわけなさそうな顔をしました。
なんで?
どうして?
心の中を読まれたみたいで、驚きでいっぱいです。
「この前の昼、覚えてるよね?」
「えっと……兄さんも含めて、一緒にごはんを食べた時のことですか?」
「そそ。あの時、結衣ちゃんを挑発するようなことをしちゃったじゃない? で、宗一にも絡んで……そうしたら、結衣ちゃんがちょっと思い詰めたような顔をしてたからさ。で、タイミングを計ったように結衣ちゃんの調子が悪くなって……あたしのせいなのかな、って」
「それは、えっと……」
否定しようとしても、否定できません。
状況証拠が揃っていますし……
天道さんは、もしかして、みたいなことを言っていますが、ある程度確信を抱いているみたいです。
私は小さく頷いて、素直に天道さんの言葉を認めました。
「そっか、やっぱりあたしのせいか……ごめんね。まさか、こんなことになるなんて思ってなくて」
「いえ……天道さんが気にすることじゃありませんから。私が……弱いことが原因ですから」
「……不安になっちゃった? それとも、あたしに気を遣った?」
思わず、息を呑んで驚いてしまいます。
本当に心を読まれているみたいに、私の考えをピタリと当てて……
天道さんはすごい人ですね。
もうごまかそうという気も湧いてきません。
「はい、その通りですね」
「宗一がとられるかもしれない、って思った?」
「はい」
「で、あたしの気持ちを気にして、あれこれ考えちゃった?」
「はい」
「そっか……」
天道さんは、静かに相槌を打って……
それから、急に頭を抱えて体を縮こまらせました。
「あーーーっ!!! あたし、なにやってんだろ! こんなつもりじゃなかったのに……ああもうっ、それも言い訳か。っていうか、言い訳にすらなってないか。ホント、ダメだなあ……自己嫌悪しちゃいそう」
「えっと……天道さん?」
「あ、と……ごめんね、急に。ちょっと叫びたい気分だったというか、自分のアホさ加減に落ち込んでたっていうか……」
「はあ……」
「……よしっ!」
天道さんは、なにやら覚悟を決めた様子で、私をまっすぐに見つめました。
自然と、こちらの気も引き締まります。
「今回のことなんだけど……あれこれと隠し事……っていうよりは、言いたいことを言わないで、腹の探り合いをしてたのが問題だと思うんだよね。そのせいで結衣ちゃんに迷惑をかけちゃったからさ……言いたいこと、口にしない?」
「えっと……それは?」
「あたしは、結衣ちゃんに言いたいことがある。結衣ちゃんも、あたしに言いたいことがあるんじゃないかな?」
「……」
「沈黙は肯定って捉えるからね」
構わないので、私は天道さんの言葉を止めず、そのまま耳を傾けた。
「とりあえず、私が最初にハッキリさせておかないとね。えっと……」
迷うような間を置いて、天道さんは頬を染める。
「あたし、宗一が好きよ」
気に入ってもらえたら、評価やブクマをいただけると、とても励みになります。




