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73話 妹の想い・2

<結衣視点>



「じゃあ、ゆっくり寝てろよ」

「あっ……」


 兄さんが行ってしまう。

 別に、今生の別れというわけではないのですが……


 もう少し一緒にいたくて、ついつい寂しそうな声が出てしまいました。


「うん? どうした」

「えっと……」


 一緒にいてくれませんか?


 その一言を口にしたら、兄さんは、きっと一緒にいてくれます。

 でも……恥ずかしいです。

 兄さんに甘えたいことがバレてしまうかもしれませんし……

 一人で寝ることができない、なんて思われるかも。


「……寝るまで、手を繋いでもらってもいいですか?」


 これくらいなら……

 求めるような感じで、兄さんに手を差し出しました。


「そんなことでいいのか?」

「そんなことがいいんです」

「ほら」


 ぎゅう、と兄さんが手を握ってくれました。


 温かくて、大きい手。

 まるで、兄さんに抱きしめられているような気がして……

 とても幸せです♪ 兄さんの温もりが流れ込んでくるみたいで、心がぽかぽかします。私の顔、赤くなっていないでしょうか? それを、兄さんに見られていないでしょうか?

 ちょっと、恥ずかしいですね。


「……ねえ、兄さん。こうしていると、昔を思い出しませんか?」

「昔? えっと……」

「ほら。私が中学生の時、風邪を引いたじゃないですか。そうしたら、兄さんが学校を休んで看病をしてくれて……」

「あっ……あー! あれか。思い出した。そういえば、そんなこともあったな」

「むー、軽い反応ですね」

「悪い。だいぶ前のことだから……」

「いえ、気にしてませんよ」


 残念ながら、兄さんは今まで忘れていたみたいですが……

 私はちゃんと覚えていますよ。


 ある日、私は風邪を引いてしまいました。

 私が中学二年で、兄さんは高校一年の時でした。


 家にはお父さんもお母さんもいません。兄さんだけです。

 でも、その兄さんは学校に行かないといけない。

 私一人が残される。


 そのことに、どうしようもない寂しさを感じました。


 風邪を引いた時は、心細くなる、って言いますし……

 あの時の私は、ちょっと大げさですが、世界に一人だけになったような気がして……

 ちょっとしたことで泣いてしまいそうなほど、心が弱っていました。

 ……お母さんのことがありましたからね。


 すると、兄さんは……

 そうすることが当たり前のように、私の傍にいてくれました。

 学校に行かないで、ずっと私の看病をしてくれました。


 兄さんは、普通の高校生でした。

 学校をサボることをよしとしない、サボることに引け目を感じる、ごくごく普通の高校生でした。


 そんな兄さんが、迷うことなく学校を休み、私の看病をしてくれた……

 普通はできることではありません。

 とても、とてもうれしかったです。


 その時、私は、ようやく兄さんを信じることができたんです。


 お母さんに置いて行かれて、誰も信じられなくなっていた私。

 でも、兄さんのことは……兄さんだけは信じることができる、と。


 同時に、温かい想いを胸に宿しました。

 それが……私の初恋。




――――――――――


<宗一視点>



「すぅ……すぅ……」


 ほどなくして、結衣は穏やかな寝息を立て始めた。


 やっぱり、疲れていたのかもしれない。

 ただ、顔色は悪くないから、安心してもいいと思う。


「よかった」


 俺は、自然と昔のことを思い返していた。


 いつだったかな……そう、確か、俺が高一で結衣が中二の時だ。

 結衣が風邪を引いて、俺が看病をしたんだ。


 あの時の結衣は、すごく寂しそうにしていて……一人にしたらいけないと思い、学校を休んで看病を優先させたんだ。

 少しだけど、あの日の出来事をきっかけに、俺たち兄妹の距離が縮まった……ような気がする。

 まあ、気がするだけで、本当のところはわからないんだけどな。


 ただ……

 俺に関して言えば、結衣を大切に想うようになった。


 ただの風邪だったんだけど、あのまま結衣が消えてしまいそうな気がして……

 そう考えると、ものすごく怖くて……

 俺は、純粋に怯えていた。


 同時に、気がついた。

 そんなに怯えてしまうくらい、俺は、結衣のことを大事に思っていたんだ……って。


 その日以来、俺は、結衣のことを『父さんの再婚相手の連れ子』としてではなくて、『大事な妹』として見るようになった。

 そして、結衣のことを、今まで以上に大事にすると、守ってみせると……そう誓ったんだ。


「早く元気になってくれよ」


 そっと、結衣の頭を撫でて……

 もうしばらくの間、結衣の寝顔を見ていた。

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