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72話 妹の想い・1

<結衣視点>



「結衣、大丈夫か? 気分は悪くないか? 目眩は?」

「大丈夫ですよ。もう、兄さんは心配性ですね」

「大事な結衣のことなんだ。心配するのは当たり前だろ」


 大事な結衣!

 大事な結衣!


 とても素晴らしいことなので、繰り返しました。


 兄さんに『大事』って言ってもらえるなんて……

 今日は、なんて素晴らしい日なんでしょうか。

 心がふわふわと舞い上がるみたいです。


 録音しておけばよかったですね。

 それで、目覚ましボイスに登録して……

 毎朝、兄さんの声で♪


 とても快適に目を覚ますことができそうです。

 あ。

 でもでも、兄さんの声をずっと聞いていたくて、逆に起きることができないかもしれません。目覚まし、ずっと放置です。

 非常に悩ましい問題ですね。


「部屋で休んだ方がいいんじゃないか?」

「わりと回復したんですが……」

「わりと、っていうことは、まだ完璧じゃないんだろ? 油断は禁物だ。無理しないで、休んでいた方がいい」

「こういうことになると、兄さんは頑固になりますよね」

「結衣のことだからな」


 それだけ、私のことを……?


 えへへ、兄さん♪


 こんな時になんですが、頬が緩んでしまいます。

 温かい気持ちで胸が満たされて、ぽかぽかします。

 『恋』は、本当に素敵なものですね♪




――――――――――




 兄さんの言う通り、私は部屋に戻り、パジャマに着替えて、ベッドに横になりました。


 少し前まで寝ていたので、横になっていても、あまり眠気はありません。

 ただ、ちょっとずつ体が軽くなっていくような気がしました。

 自分では気がついていないけれど、本調子ではなかったのかもしれません。


 兄さんの言う通りにして、正解だったみたいですね。


「結衣。今、大丈夫か?」


 コンコンと、扉がノックされました。


「はい。いいで……」


 いいですよ、と言いかけて、言葉に詰まります。


 今、兄さんを部屋に入れたら……?

 パジャマ姿を見られてしまいます!


 いえ。いつも、お風呂上がりなどにパジャマ姿は見せているんですけどね?

 でもでも、寝ている時は別といいますか……

 部屋で見せるパジャマ姿は、特別なものがあるといいますか……


 とにかく、恥ずかしいんです!


 でも……ここで追い返したら、兄さんと触れ合える機会を逃してしまうんですよね?

 それに、兄さんは私を心配して来てくれたと思いますし……


 うぅ……は、恥ずかしいですけど……


「は……入っていいですよ」


 扉が開いて、コップを持った兄さんが現れました。


 なんでしょう?

 良い匂いがしますが……


「なんですか、それ?」

「レモンとリンゴ酢とはちみつで作ったドリンクだよ。疲れてる時はけっこう効くぞ」


 そんなものをサラリと作ってしまうなんて……

 相変わらず、兄さんは女子力が高いですね。

 女の子として、ちょっと悔しい気持ちもありますが……

 でも、そんな兄さんも素敵です♪


「ありがとうございます」


 特製ドリンクを受け取り、さっそく一口。

 ほどよい甘さが特徴的で、温かいから、体が内側からぽかぽかしてきます。


 んっ♪

 おいしいです。

 兄さんの言う通り、疲労回復に効果がありそうです。


「体の調子は?」

「もう。兄さん、それ、今日で何度目ですか?」

「うっ……でも、結衣が倒れることなんてそんなにないから、心配で……」

「ありがとうございます、心配してくれて。でも、本当に大丈夫ですから」

「本当に?」

「はい」

「……わかった。結衣の言葉を信じるよ」


 ようやく納得してくれたみたいです。

 兄さんは、本当に心配性ですね。


 でも、心配されることは、うれしくもありますが。

 兄さんが私のことを考えてくれている、想ってくれている……

 これほど幸せなことはありません。


「ん? なにかおもしろいことでもあったか?」

「い、いえ。なんでもありませんよ? 兄さんに心配されてうれしいとか、そ、そんなことはありませんからね? 変な勘違いをしないでくださいよっ」


 うれしくて、ついつい、ニヤニヤしてしまったみたいです。


 うーん。

 最近の私、感情の制御が効かなくなっているような……?

 それだけ兄さんに惹かれている、ということでしょうか♪

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