70話 妹とおんぶと思い出・1
「えっと……兄さん、私は?」
ベッドで寝ていることがわからないというように、結衣は不思議そうにした。
「覚えてないのか?」
「すみません……」
「別に謝ることないさ。どうも、倒れたみたいだ。過労と寝不足が原因らしい」
「そういえば……」
「思い出した?」
「はい。なんとなく、ですが」
「過労と寝不足についてなんだけど……なにかあったのか?」
結衣がなんともいえない顔をした。
話したくない……っていうよりは、自分の中でも、うまく気持ちがまとまっていない、っていう感じだな。
これでも結衣の兄だから、妹の考えていることはなんとなくわかる。
……まあ、わからないことも多いんだけどな。
「まあ、それについては後回しにするか。今は家に帰って、ゆっくり休もう」
「家に?」
「残りの授業を受けるの、辛いだろ? 凛ちゃんが鞄を取りに行ってくれてるから、戻ってきたら一緒に帰ろう」
「そんな。兄さんに迷惑をかけるなんて……」
「具合の悪い妹を放っておくなんて、できるわけないだろ。変に遠慮される方が迷惑だ」
「……ごめんなさい」
「だから、謝らなくていいさ」
「ごめ……ありがとうございます」
「それでよし」
小さく結衣が笑う。
ちょっとは元気が戻ったかな?
「ただいま戻りました」
ちょうどいいタイミングで凛ちゃんが戻ってきた。
「結衣、起きたのね」
「凛ちゃん……心配をかけてしまい、すみません」
「本当よ。私がどれだけ心配をしたか」
「あう……本当にすみません」
「フルーツサンド」
「え?」
「購買で一番人気のフルーツサンドで許してあげる」
「……わかりました。今度、買っておきますね」
「うん、よろしく」
さすが、親友というべきか。
凛ちゃんは、結衣の心をすぐに解きほぐしたみたいだ。
ああいうところ、見習わないとなあ。
それで、兄妹の仲をもっと良くしないと。
『フリ』のため、っていう理由もあるけど……
それだけじゃなくて、単純に結衣と仲良くしたい。
二人きりの兄妹だからな。
「先輩と結衣は帰るんですよね?」
「そうだね」
「二人で大丈夫ですか? 手伝い、いりませんか? あっ、逆に二人きりの方がいいですか?」
「り、凛ちゃんっ」
なぜか、結衣が赤くなって慌てていた。
どうして、照れるんだ?
いつも二人きりなのに。
言葉にされると意識してしまうから?
……そんなわけないか。
「じゃあ、お大事に」
「はい。ありがとうございます」
ぺこりと一礼して、凛ちゃんは保健室を後にした。
「結衣、動けるか?」
「えっと……はい、問題ありません」
言いながら、結衣はベッドを降りる。
じーっと観察して……
俺は、見逃さない。
力が入らない感じで足が小さく震えていて、軽くよろけた。
寝起きということもあるけど、やっぱり、まだ本調子じゃないんだろう。
このまま、っていうのは心配だなあ。
こういう時は……
「ほら」
俺は結衣に背中を向けてしゃがんだ。
「なんですか、兄さん?」
「歩くの、まだ辛いんだろ? おんぶするよ」
「えっ!!!?」
――――――――――
<結衣視点>
迷い……
悩んで……
葛藤して……
私は、兄さんの背中におぶさりました。
そのまま、兄さんと一緒に学校を後にします。
「なんか、背負いにくいなあ。もっと、しっかり掴まってくれないか?」
「し、しっかり!? これ以上なんて、そんな大胆な……でも、役得? ううう……は、恥ずかしいですが……えいっ。こ、こうですか……?」
「いや。もっと、ぎゅう、って感じで」
「そ、そんなことまで……!? もしかして、遠回しなアピール!?」
うぅ……は、恥ずかしいです。
兄さんに、おんぶをしてもらうなんて……
体と体が密着して……
とてもドキドキしてしまいます。
私の胸の鼓動、兄さんに聞こえていないでしょうか?
心配になってしまいます。
でも……
これはこれで、とてもうれしいです。
幸せです♪
兄さんのおんぶ……最高の体験ですね!
体調を崩したことも忘れて、私は、ついつい浮かれてしまいました。
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たまにシリアス混じりますが、基本、この回からは甘い展開でいきます。




