69話 妹は寝ぼけます
ベッドで寝ている結衣の顔を見る。
顔色はそんなに悪くない。
すぅ、すぅ、と穏やかな寝息を立てていた。
結衣から視線を外して、凛ちゃんを見る。
「結衣の様子なんだけど、どこかおかしいところはあったかな?」
「そうですね……寝不足みたいでした。あと、なにか思い詰めているようなところもありました」
「そっか……」
俺と同じ感想だ。
どこが、と詳しく指摘できないんだけど……
ここ最近の結衣は、いつもと違う。
あれこれと考えごとをしてるみたいで、気がふわふわしてるというか……
いったい、なにを考えているんだろうな?
打ち明けてくれたらいいんだけど、内容にもよるだろうし、難しいかもな……
「また、なにか抱え込んでいるのかもしれませんね」
「そう……かもね」
「私の方でも、それとなく聞いてみますが……先輩も、気にかけてくれませんか?」
「もちろん」
悩みを打ち明けてくれるか、わからないけど……
傍にいてあげることはできる。
「良かったです」
凛ちゃんは安心したように微笑み、そっとベッドを離れる。
「二人は早退するんですよね? 私、結衣の鞄を取ってきますね」
「それくらい、俺が……」
「下級生の教室に上級生が入ってきて、鞄を取っていく……どう見られるかわかっているんですか?」
「うっ……」
「やれやれ。先輩は、色々なところで考えが足りませんね。まあ、それが『らしい』とも言えますが」
「俺、バカにされてる?」
「いいえ、褒めてるんですよ。そういう先輩は、好きですよ?」
「っ」
思わず顔が赤くなってしまう。
落ち着け。
今のは、そういう意味じゃない。
現に、凛ちゃんはいたずらっ子のような顔をしてるじゃないか。
「くすくす。先輩は、かわいいですね」
「からかわないでくれ」
「すみません。では、ちょっと席を外しますね」
楽しそうに笑い、凛ちゃんは保健室を後にした。
あの子、正体は小悪魔じゃないだろうな?
「んっ……」
「結衣?」
ふと、結衣が身じろぎをした。
軽く寝返りを打って……
ゆっくりと目を開ける。
「……」
「起きたか? 体、大丈夫か?」
「……」
「結衣?」
「んぅ……兄さん?」
ぼんやりとした結衣がこちらを見た。
寝起きだからなのか、それとも現状を把握できていないのか、瞳がとろんとしている。
じーっと俺を見つめて……
ふにゃ、と総合を崩した。
「兄さんですぅ」
「え?」
「兄さん、兄さん♪」
「うわっ!?」
結衣が手を伸ばして、俺を抱え込む。
突然のことに抵抗できず、そのまま引き寄せられて、抱きしめられてしまった。
「んー……兄さんの匂いがします♪」
「お、おいっ、結衣!? これは……ちょっ」
胸元に抱きしめられているから、や、柔らかい感触が……
というか……
それ以上に、に、匂いがやばい。
女の子の甘い匂い。
ミルクのように濃厚で、頭がクラクラしてしまう。
こんなことをするなんて……もしかして、寝ぼけてる?
「お、起きろっ、結衣!」
「んぅ? 起きてますよぉ……」
「いやいや、起きてないから! おもいきり寝ぼけてるからっ」
「寝ぼけてませーん……私はぁ、きっちり目を覚ましていますからねぇ」
「そういうところが寝ぼけてるんだよ!?」
「んー……でもでも、兄さんがこんなに近くにいて……寝ぼけてるなら寝ぼけてるでも、いいかもしれません♪ なんて、幸せな夢なんでしょう……はふぅ。兄さん、兄さん♪」
「これは現実だ! 夢じゃないから!」
「夢じゃない……?」
とろんとしていた結衣の瞳が、少しずつ元に戻る。
ふらふらしていた視線が一点に定まる。
じーっと、俺を見つめた。
自分の胸元に抱いている俺を見つめた。
「あ……」
みるみるうちに、結衣の頬が赤くなる。
「ひゃあああああっ!!!?」
結衣は、ばっ、と慌てて俺を離した。
そのまま赤くなった顔を隠すように、毛布をかぶってしまう。
「わ、私……私っ、い、今、なにを……!?」
「あー……寝ぼけてたんだよ。気にすることないって」
「気にしますよぉっ!!!」
「だよな……」
「兄さんを、だ、だだだ、抱きしめて……そ、そんなことを無意識に……これって、もしかして、私の潜在的な願望のせいで……いえいえ、いくらなんでも、こんな節操もなく……あああ、なんてことをしてしまったんでしょうか! せめて、感触をもっとハッキリと覚えていたいです!」
まだ混乱してるらしい。
結衣は、よくわからないことを連呼していた。
「やれやれ」
とりあえず……結衣が落ち着くのに、5分くらいかかった。
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シリアスは残しつつ、再び甘い展開に。
やっぱり、甘い展開の方がいいですね。




