68話 妹は倒れてしまいます
<結衣視点>
三限目の授業が終わり、教科書やノートはそのままに、私はため息をこぼしました。
授業の内容なんて、まったく頭に入っていません。
兄さんと天道さんのこと。
そして、テストのこと。
色々なことを考えて……
答えが見つからなくて……
頭の中がぐるぐるしてしまいます。
「兄さん……」
携帯を取り出しました。
兄さんの声が聞きたいです。
そうすれば、少しは落ち着くと思うから。
でも……なんて、話をすれば?
天道さんのことは相談できません。
テストのことも、先生にあれこれ言われたことも、どうしようもありません。
どうしたらいいのかわからなくて……
通話をすることなく、携帯を鞄の中にしまいました。
「結衣? どうしたの?」
気がついたら、凛ちゃんが心配そうな顔をしていました。
「いえ、なんでもありません」
「本当に?」
「はい。大丈夫ですよ」
「……それならいいんだけど。次は体育よ。早く着替えないと、遅れるわ」
「そうですね。行きましょうか」
体操服が入った袋を手にして、立ち上がり……
「っ……!?」
不意に、視界が揺らぎました。
頭が重くて……
足から力が抜けて、立っていられず、膝をついてしまいます。
「結衣っ!?」
「うっ……凛ちゃん、私……」
心配しないでください。
そう言おうとして……
でも、言葉にならなくて……
そのまま、私の意識は途切れました。
――――――――――
<宗一視点>
「?」
移動教室の帰り道。
妙な感覚がして、足を止めた。
「ちょっと、宗一。急に止まらないでくれる?」
後ろを歩いていた明日香は、俺の背中にぶつかりそうになり、唇を尖らせた。
「悪い。なんか……妙な感じがして」
「どういうこと?」
「いや、言葉にしづらいんだけど……イヤな予感、っていうやつ?」
「なに? あんた、中二病に目覚めたの? 右目が疼く、とか言っちゃうわけ?」
「茶化すな。真面目な話なんだよ」
「まあ、勘をバカにするつもりはないけどさ。具体的なことはわからないんでしょ?」
「そうだけど……」
「なら、気にしないの。本当になにかあったなら、連絡が……」
タイミングが良いのか悪いのか、ポケットの中の携帯が鳴る。
「マナーモードにしておいた方がいいわよ?」
「忘れただけだ……はい?」
「あっ、先輩ですか!?」
凛ちゃんだ。
でも、いつもと違い、声から焦りが感じられる。
「どうしたの?」
「結衣が倒れたんです!」
「なんだって!?」
「今、保健室に……先輩は来れますか?」
「わかった、すぐに行く!」
通話を終えて、携帯をポケットに戻した。
教科書とノート、筆記用具を明日香に預ける。
「ちょっ、なになに、どうしたわけ?」
「悪いっ、話は後でするから、それを頼む!」
「まったく……よくわからないけど、行ってきなさい。急いでるんでしょ?」
「助かる!」
廊下を走ったらいけない。
……なんていうことは、今は忘れて、保健室に向けて全力で駆けた。
――――――――――
「結衣っ!」
飛び込むような勢いで、保健室に移動した。
奥のベッドの脇に凛ちゃんが見えた。
そして、結衣がベッドに寝てる。
「先輩っ」
「凛ちゃん、結衣は……?」
「あなた、七々原さんのお兄さん?」
養護教諭が奥から現れた。
「そんなに慌てないで。七々原さんは、過労や寝不足が原因で、一時的に気を失ってしまっただけよ。一応、病院で検査した方がいいと思うけど、問題ないと思うわ」
「そうですか……」
「早退した方がいいと思うから、お兄さんは、付き添ってあげられる?」
「はい、問題ありません」
「じゃあ、私は手続きしてくるから。二人は、七々原さんの様子を見ていてくれる?」
そう言って、養護教諭は保健室を後にした。
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シリアス展開が続くこの頃。
次回からは、シリアスはありつつも、甘い展開が戻ります。




