67話 妹は追いつめられてしまいます
<結衣視点>
「結衣、大丈夫?」
授業が始まる前の、ちょっとした空き時間。
凛ちゃんが、心配そうに私の顔を覗き込んできました。
「えっと……なにがですか?」
「気づいていないの? 目、すごいことになっているわよ」
凛ちゃんが取り出した手鏡を見ます。
……うわっ。
クマがひどいことに。
目の下がくすんでいて、これは……女の子として恥ずかしいですね。
「気づきませんでした……」
「先輩は指摘してくれなかったの?」
「心配そうな顔はしていましたが……」
兄さんのことだから、女の子に顔のことを言うなんて……と迷ってしまい、指摘することができなかったんでしょう。
兄さんの気遣いは、正直、助かります。
こんなクマがあるなんて、兄さんから指摘されていたら、私、恥ずかしさのあまりどうにかなっていたかもしれません。
……でも、クマはばっちり見られていたんですよね?
あううう。
ダメです、やっぱり恥ずかしいです。
「こんなクマができるなんて、どうしたの? 眠れなかった?」
「えっと……はい。ちょっと、考え事をしてしまって」
「それは、先輩絡みのこと?」
「そんな感じですね」
「厄介な性格ね、結衣は」
「あはは……最近、自覚してきました」
「メイク道具は?」
「忘れてしまいました……」
「なら、私のを貸してあげる。まだ時間あるから、治してきた方がいいわ」
「ありがとうございます」
凛ちゃんからメイク道具を借りて、トイレに向かいます。
日常生活に問題をきたしてしまうなんて……
兄さんと天道さんのこと、早くなんとかしないといけませんね。
……でも、どうすればいいんでしょう?
解決方法が見つからず……
私は、ただただ、胸をざわざわさせました。
――――――――――
数学の授業が終わり……
私は、難しい顔をしていました。
先日と同じように、再び、抜き打ちの小テストが行われました。
勉強をしていたので、以前のようなひどい点は避けられましたが……
納得のいくものではありませんでした。
いつもの私なら、もう少し上を狙えたはずです。
そして、そのことがわかっているからこそ……
「七々原さん」
……先生も、厳しい視線で私を呼び止めました。
「なんでしょうか?」
私は、あえて素知らぬ顔をして応えました。
「今回の小テストだけど……前回ほどひどくはないけど、いつものあなたなら、もっと上を狙えたのではなくて?」
「……すみません。今日は、少し寝不足気味で……」
「夜更かし? それとも、恋人のお兄さんとなにかしていたのかしら?」
「先生っ、それは……!」
先生の邪推に、思わず声を荒げてしまいそうになります。
「違うの? なら、どうして寝不足に?」
「色々と考えることがあって……それで、つい」
「考えごとね……それも、お兄さん絡みなのかしら?」
ぐっ、と奥歯を噛みました。
どうして、この人は神経を逆撫でるようなことを……!
言葉は我慢したものの、心は我慢できず、睨みつけてしまいます。
しかし、先生は余裕の態度を崩しません。
「一応、言っておくけれど、私は七々原さんに嫌がらせをしたいわけじゃないの。むしろ、あなたのことを考えているの」
「私のことを?」
「兄妹で付き合うなんて、おかしいわ。血が繋がっていなくてもありえない。生徒が間違ったことをしているのなら、それを正すのは教師の……大人の役割でしょう?」
「間違って……いる?」
また、その言葉を突きつけられました。
私は、兄さんと付き合ってはいけないんでしょうか……?
兄さんに恋をしてはいけないんでしょうか……?
でも、今の私の心は、大半が兄さんへの想いで構成されています。
それを否定されたら……他に、なにが残るんでしょうか?
……なにも残りません。
空っぽです。
「七々原さん、あなたは優秀な生徒です。本来の自分を取り戻すことができれば、もっと上を目指すことができるでしょう。そうやって、今からコツコツと努力を積み重ねていけば、誇張ではなくて、東大を目指すことも可能ですよ? それは、とても名誉なことですからね」
……なにを言っているんでしょうか、この人は?
東大?
名誉?
そんなもの、欠片も興味がありません。
私が欲しいものは、ただ一つ。
……兄さんからの愛情。
「……すみません。次の授業の準備があるので、失礼します」
次の授業が移動教室なのをいいことに、私はこの場を離れました。
先生の顔なんて、一分一秒たりとも見ていたくありません。
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