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63話 妹の戦い・1

 昼休みになり、お弁当を手に中庭に移動しました。

 いつもの場所に行くと、すでに兄さんと天道さんの姿がありました。


 事前にお願いしていた通り、ちゃんと天道さんをお昼に誘ってくれたみたいです。

 これなら、作戦を実行することができます。


 私と兄さんの仲を見せつけて、天道さんに諦めてもらい……

 さらに、兄さんと今まで以上に親密になる。

 計画実行の時がきました!


「に……そーくん♪ お待たせしました」

「そーくん?」


 さっそく、天道さんが不思議そうな顔をしました。


「それって、宗一のこと?」

「はい、そうですよ。私たち、付き合っていますから……こういう風に呼ぶのもいいんじゃないか、という話になりまして。ね、そーくん?」

「あ、ああ……ゆー」


 兄さんは照れているらしく、ちょっと顔が赤いです。


 もうもう。

 照れている兄さん、かわいいです♪

 そういうところを、もっと見せてくださいね?

 そして、もっと妹にドキドキしてくださいね?


「ついに、宗一がバカップルの領域に……」

「バカップル言うな」

「バカップル以外の何者だっていうのよ。甘ったるい愛称で呼び合うなんて、他になにがあるの?」

「いいじゃないですか、バカップルでも。に……そーくんは私のことが好きで、私はそーくんが好き。だから、愛称で呼ぶことにした。なにか問題が?」

「ふーん……まあ、二人がいいならそれでいいけど。あまり見せつけないようにしなさいよ? 中には、イラッと来る人もいるだろうし」


 どことなく、天道さんの機嫌が下がっているような気がします。

 さっそく、効果が出ているんでしょうか?


 とはいえ……

 ちょっと、心が痛みますね。

 天道さんのことは嫌いじゃないですし、むしろ、慕っています。

 そんな天道さんにケンカを売るようなことをするなんて……


 ……いえ。

 例え天道さんでも、ゆずれないものがあります。

 兄さんは、絶対に渡せません。

 心を鬼にして、兄さんとイチャイチャしないといけないんです!


「それじゃあ、お昼を食べましょうか」


 私、兄さん、天道さんの順でベンチに座りました。

 膝の上にお弁当を広げます。


 卵焼き。タコさんウインナー。ポテトサラダ……などなど。

 定番のお弁当という感じで、とてもおいしそうです。


 相変わらず、兄さんの女子力は高いですね。

 兄さんの料理は好きですが、このままでいいものか、とちょっと考えてしまいます。

 甘えるだけではなくて、私が料理を作り、兄さんに食べてほしいです。


 エプロンをつけてキッチンに立ち、兄さんのために愛情たっぷりの料理を作るんです♪

 そんな時、兄さんがやってきて、『俺は結衣が食べたいな』なんて言って、後ろから抱きしめて……きゃあきゃあ!


 って、いけません。

 ついつい、妄想が捗ってしまいました。


 そのうち、料理の勉強をするのもいいかもしれませんね。


「んっ……やっぱり、そーくんの作るごはんはおいしいですね」

「おっ、そうか? もっと食べるか? 俺の卵焼き、いるか?」

「もう、女の子はそんなに食べられませんよ? 気持ちだけいただいておきますね」

「そうだよな、悪い。うまいって言われるのうれしいから、つい」

「に……そーくんのごはんは、とてもおいしいですからね。毎日食べられる私は、幸せものです♪」

「夕飯のリクエストはあるか?」

「んー……じゃあ、そ、そーくんで♪」

「お、おいおい、冗談はやめてくれよ」

「本気かもしれませんよ?」

「えっ」

「くすくす。慌てるそーくん、かわいいです」

「あのな。からかわないでくれよ」

「すいません。そーくんがかわいいから、つい」


 事前の打ち合わせ通り、私たちは砂糖のような甘い会話を繰り広げます。


 はふぅ。

 幸せです……最高です……


 愛称で呼び合い、とても自然に接することができて……

 これは、兄妹の段階を超えているのでは?

 その先にある、し、ししし……新婚、の領域に達しているのでは!?


 兄さんと新婚……えへへ♪

 今の状況は、とてもそれらしくて……

 ついつい、ニヤニヤしてしまいます。

 私、とても幸せです。

 このまま昇天してしまいそうなくらい、私は、兄さんとの甘い時間を満喫していました。


「えっと……」


 さてはて。

 これだけ見せつけておけば、問題ないでしょうか?

 私と兄さんの間に割り込むことはできないと、そう思ってくれたでしょうか?


 そっと、天道さんの様子を伺います。


「……」


 天道さんは、やれやれという感じで、マイペースにごはんを食べています。


 でも……

 同じ女の子である私の目はごまかせません。


 わずかに、頬が引きつっています。

 たまに、拗ねるような感じで、私たちの方を見ています。


 良い感じですね。

 だいぶ、効果が出ています。

 このまま一気に押し切りましょう!

 そして、さらに兄さんとイチャイチャしましょう! イチャイチャできる時に堪能しておかないと、後で後悔してしまいますからね。というか、いくらイチャイチャしても物足りませんからね。それくらい、兄さんのことが好きなんです♪


 さあ、いざ……というところで、事態が急変しました。


「……ねぇ、宗一。あたしの弁当のおかず、味見してみる?」

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