59話 妹はジャンルを変えてみる模様です・1
「タイプ……って、どういうことだ?」
結衣の言いたいことがわからない。
そんな俺に、結衣は、なぜか意気込みながら説明する。
「ほら、今は色々あるじゃないですか。ツンデレとか清楚とか……そんな感じのアレですよ」
「ああ、そういう意味のタイプね。で、それがどうかしたのか?」
「『フリ』をするようになって、そこそこの時間が経ちましたよね? 普通の恋人なら、どんどん仲良くなっていきますよね? 関係性も変わることもありますよね? でも、私たちにはそれがありません」
「まあ、『フリ』だからなあ……」
「それではいけないと思うんです。もっと親密にならないといけません。でないと、どこかで破綻してしまうかもしれません」
「言ってることはわかるけど、それとタイプにどんな関係が?」
「兄さんは、ひょっとしたらツンデレな妹が好きかもしれません。自分でも気づいていないだけで。なら、私はツンデレになろうと思います。そうすることで、より親密になれると思いませんか?」
「うん……うん?」
正しいような、どこか違和感があるような……?
うーん?
「簡単に話をまとめると……兄さんの好みの妹になってみせるので、より親密な関係を築きましょう、もっと私に萌えてください、ということですね」
「え? じゃあ、結衣は明日からツンデレになったりするのか?」
「『フリ』をしている最中の話ですよ。普段から、そんなことはしませんよ。でも……兄さんが望むなら、私は、兄さんの理想の妹になる覚悟が……あっ、いえ。なんでもありませんよ? 良い妹らしくふるまっているだけですからね?」
そう……なのか?
最近、思うんだけど……
意外と、俺は結衣に嫌われていないのでは?
なんだかんだで、ちゃんと慕ってくれているような……
って、それなら苦労しないか。
妄想めいた期待を抱くのはやめにしておこう。
現実を直視した時が辛い。
「今から……そうですね、三パターンほど試してみるので、どのタイプの性格がいいか、評価してくださいね?」
「よし。わかった」
より『らしさ』を出すために、結衣がここまでしようとしているんだ。
俺も、ちゃんと応えないとな。
「じゃあ、最初は『ツンデレ妹』を演じてみますね?」
集中するように、結衣が目を閉じた。
「……んっ」
そっと、目を開く。
気のせいか、結衣なのに結衣じゃないような、不思議な雰囲気がした。
「ちょっと! なに、人のことじっと見ているんですかっ、バカ兄さん!」
「ば、バカ兄さん……? それって、俺のことか?」
「他に誰がいるんですか? この部屋には、私とバカ兄さんしかいませんよ」
「また言われた……」
胸が痛い。
ぐさぐさと心に矢が刺さっているような感じだ。
「ふんっ。情けない顔をしていますね。妹にこんなこと言われたくらいで落ち込むなんて、ホント、情けないですね」
これが、結衣の『ツンデレ妹』の演技なのか……
すごいな。
まるで、人が変わったみたいだ。
二重人格と言われても、信じてしまうかもしれない。
でも……ちょっと、やりすぎじゃないかな?
ツンツンしすぎだぞ? デレはどうした?
俺の心は、わりと深刻なダメージを受けてるんだが……
「あ、あのー……結衣?」
「人のこと呼び捨てにしないでくれます?」
「ゆ、結衣さん……」
「なんですか?」
「ツンデレというからには、デレると思うんだけど……いつ、デレてくれるんだ?」
「はぁ? ツンデレとか、訳のわからないこと言わないでくれます? っていうか、なんで私が、バカ兄さんにデレないといけないんですか? もしかして、私に好かれてると思ってるんですか? うぬぼれも大概にしてください」
「ぐはぁっ!?」
お、俺の妹が……結衣が……
こんなにひどいことを言うなんて……ダメだ、立ち直れない。
俺、このまま昇天してしまうかもしれない。
「……ちょっと」
「え?」
「そこまでしょぼくれた顔しないでくださいよ。そんな顔されると……気になるじゃないですか」
「いや、でも……結衣にきついこと言われたから、わりとマジで凹んで……」
「それは、その……察してください、バカ兄さん!」
いきなり怒られた!?
ツンデレだからなのか、理不尽極まりないぞ。
「その……本気なわけないじゃないですか」
「え、そうなの?」
「そうですよ。色々言ったけど、つい、口が滑ったというか……本心じゃないというか……」
「じゃあ、俺、嫌われていない?」
「き、嫌いじゃないですよ」
「なら、好き?」
「そ、そういうこと言わないでくれます!? す、好きとか、そんな簡単に言えるわけないでしょう!」
「す、すまん」
「でも、まあ……」
結衣は頬を染めながら、髪の毛を指先でくるくるといじる。
そして、そっぽを向きながら一言。
「……大事には思ってるから」
その一言で、マイナスに突入していた気分が一気にプラスに上昇した。
「家族だし? 兄貴だし? ……悪く思うわけないですよ」
「ゆ、結衣……!」
「私、兄さんの妹で良かったと思っていますよ」
そう締めくくり、にっこりと笑う。
ついつい、ドキッとしてしまう。
こ、これが結衣のツンデレか……!
ちょっと誤解しているようなところもあるけど……これはこれで悪くない!
こんな妹がいたら、シスコンになってたかも。
「で、でも、あまり調子に乗ったりしないでくださいね? これは、仕方なく優しくしてるだけで……べ、別に兄さんのためなんかじゃないんですからねっ!?」
お決まりの台詞を口にするツンデレ結衣だった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
妹とのイチャイチャが少なくなっていたので、おもいきり詰め込んでみました。
今度は、性格を変えてみる、です。
いくつかパターンをやってみます。
新作書いてみました。
感想や評価もらえるとすごくうれしいです。
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