57話 妹は呼び方を変えてみたい模様です・1
「それで……恋人らしさを見せる、って、どうすればいいんだ? 今までのデートとか、そういうのとは違うんだよな?」
昼は勉強をして……
夜は恋人の『フリ』についての勉強をして……
色々なことをするようになって、ちょっと混乱するな。
でも、どうにかして今を乗り切らないといけない。
弱音を吐いたりしないで、がんばらないと。
「さっきも言いましたが、デート以外にも、色々な方法はありますよ。例えば、手を繋ぐ。例えば、見つめ合う。例えば、一緒の時間を過ごす……などなど、ですね」
「でも、それらは、だいたい実践済じゃないか?」
「はい。なので、今日は別の方法を試してみたいと思います」
「それは……?」
「呼び方を変えてみる……ですっ!」
どーんっ、という効果音がバックにつきそうな勢いで、結衣が言った。
「恋人になると、呼び方を変えるということは、よくあることですよね? 一番多いのは、名前で呼び合うようになることですね」
「でも俺、普通に『結衣』って呼んでいるんだけど?」
「そんなのわかっていますよ。別に、名前以外にも色々あるでしょう? 仇名とか、は、ハニーとか……そんな感じのものです」
「なるほど」
呼び方を変えると、親近感が増すからな。
周囲にアピールすることもできるし、良い案かもしれない。
「じゃあ、俺は結衣のことをなんて呼んだらいいかな?」
「すでに、いつも名前で呼んでいるので……ここは、仇名でしょうか?」
「仇名、仇名……」
うーん、と考える。
結衣の仇名か……
変なものを考えたら、怒られそうだし……ここは無難に。
「ゆー、とか?」
「ふぁ」
「ふぁ?」
「い、いえっ……新鮮な感覚に、ついついときめいてしまいました……わ、悪くありませんね。むしろ、アリです。より距離が縮まった感じが出ていて、ぐっどですよ」
「そ、そうか?」
思いつくまま口にしただけなんだけど、妹はお気に召したらしい。
「えへ……兄さんに、仇名をつけてもらいました♪ 兄さんが特別に……私だけの……えへ♪」
なにやら、うれしそうな顔をしてる。
とりあえずは、成功……ってことでいいのか?
「じゃあ、しばらくは、ゆーって呼んでみるか?」
「えっと……それはそれで捨てがたいですが、もう少し、他のパターンも試してみたいですね。まだ、一つだけですし」
「なら……ゆいっち」
「うーん……親しみやすい感じはしますが、友だちとしての感覚の方が強いですね。もっと、こう、恋人ならではの特別感が欲しいです」
言われてみると、そうかもしれない。
しかし、それはそれで難しい注文だな。
うーん、恋人ならでは……か。
「ゆーりん、とか?」
「あふぅ!?」
「え?」
「い、いえっ……よ、予想外の案に驚いてしまいました。まさか、『りん』ってつけてしまうなんて……なかなかの破壊力ですね。これは、バカップルレベルでは? しかし、とても心地よくて、良い感じです……!」
「気に入ってくれたか?」
「そ、そうですね……まあまあじゃないでしょうか。80点です」
「おっ、けっこうな得点だ」
この調子で100点を目指したい。
「他には……ゆいゆい、ゆーちゃん、ゆいしー……」
「に、兄さん……ちょっと、ストップで」
「ん? どうした?」
「そんなに連呼されたら、私の心が保ちません……ど、ドキドキしすぎて、本当に、どうにかなってしまいそうです……ふぁ♪」
どうにかなりそうと言う割に、とても良い笑顔を浮かべていた。
「えっと……仇名はそれくらいにして、もう一つ、別の呼び方を試してみましょう」
「別の?」
「その、ですね……つまり……は……は、ハニー……と」
「えっ……それは、マジでやるの?」
「も、もちろんですよ! これも、ある意味、王道でしょう?」
「そうかもしれないが……」
さすがに、バカップル全開というような呼び方をするなんて、抵抗が……
単純に恥ずかしい。
結衣も恥ずかしいらしく、すでに顔を赤くしていた。
でも、止める、というような言葉は口にしない。
覚悟を決めているんだろう。
結衣がそこまでの決意を固めているのなら……
俺は、それに応えないと!
「じゃ、じゃあ……いくぞ?」
いきなり呼ぶのは恥ずかしくて、ついつい、合図を送ってしまう。
「は、はい。どうぞ」
「えっと……は……ハニー」
「はぅっ!?」
びくんっ、と結衣が震えた。
胸を押さえるような仕草を取りながら、くらりと傾く。
「こ、これは……なんていう破壊力でしょうか……そ、想像以上です……とんでもないくらいに萌えて……危うく、死んでしまうところでした……」
「えっ、そんなにイヤだった!?」
「いえ、そういうわけでは……よ、よく聞こえなかったので、もう一度、お願いできますか?」
バッチリ聞こえていたような気がするが……
とりあえず、言われるまま繰り返す。
「は、ハニー」
「ふぁっ!?」
結衣はぷるぷると震えながら、指を一本立てて、無言でもう一回……と。
「ハニー」
「ひゃっ!?」
「ハニー」
「はぅんっ!?」
「ハニー」
「ひぃあっ!?」
……結局、こんな恥ずかしい台詞を連呼することに。
結衣も顔を赤くしていたが、なぜか、すごく満足そうにしていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
呼び方は大事ですね!
次は、妹も呼び方を変えてみます。
新作書いてみました。
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