56話 妹は策を練ります
<結衣視点>
日が暮れるまで勉強をして、解散となりました。
ずっと勉強をしていたので、それなりに手応えがありました。
今なら、小テストでひどい点をとることもないと思います。
兄さんも手応えを感じたらしく、満足した様子でした。
まだ油断はできませんが……
これなら、勉強と並行して、『とある目的』を達成するために行動を起こしても問題なさそうです。
「兄さん。ちょっと話があるんですが、いいですか?」
夕飯を食べ終えて……
食器を洗い終えたところで、兄さんに声をかけました。
ちなみに、私も手伝おうとしたのですが、断られてしまいました。
なぜでしょうか……?
以前、食器用洗剤と間違えて、洗濯用洗剤を使おうとしたことを問題視されているのでしょうか? あれは、単なるうっかりなのですが。
「うん? 勉強のことか?」
「いえ。勉強のことではなくて、私と兄さんの今後に関する問題です」
「っていうと……」
「彼氏彼女の『フリ』のことです」
いつか、『フリ』という単語を抜くことができればいいんですが……
それに関する想いは、また今度で。
「今日、みんなと一緒に勉強をしていて思ったんですが……もしかしたら、天道さんに私たちの関係を疑われているかもしれません」
「えっ、マジで?」
「私の推測なので、絶対とは言い切れませんが……少なくとも、私はそう感じました」
ウソです。
おもいきり、ウソです。
一緒に勉強している間は、私たちの関係を疑っている様子はありませんでした。
私がいないところでは、もしかしたら、疑われているかもしれませんが……
特に確証はないでしょう。
気にしなくても、たぶん、問題はありません。
ですが、別の重要な問題に気づきました。
そう……天道さんも、兄さんのことが好きなのかもしれません。
そうだとしたら、一大事です。
非常事態です。
相手は、兄さんを昔から知る幼馴染。とんでもない強敵です。
このまま放置していたら、兄さんが天道さんを好きになってしまうかもしれません。
あるいは、天道さんが兄さんに告白するかもしれません。
そうなる前に、手を打たないといけません。
「そっか……やっぱりか」
「やっぱり、というのは?」
「以前に、ちらっとそういう話が出たんだ。なんで付き合ってるの? みたいな。あれは、疑いから来ていたのか」
「これは一大事ですよ、兄さん。そもそも、私たちが今勉強をしているのは、関係を解消されないためです。ですが、それ以前に、天道さんに本当のことがバレてしまっては、意味がありません。その時点で、全てが終わってしまいます」
「そうだよな……まいったな。勉強の件だけでも面倒なのに、明日香の問題が加わるなんて」
「そこで、提案なんですが……私たちの関係を、天道さんに見せつけるというのはどうでしょうか?」
「それは、以前、凛ちゃんにやったような?」
「はい。あの時と同じように、い、イチャイチャするんですよ」
これが私の作戦です。
疑われているかもしれないという話を持ち出して、兄さんとイチャイチャする。
そうすることで、私と兄さんの距離を詰める。
さらに、天道さんに対するリードを広げる。
天道さんのことを意識しないように……
天道さんに告白されても、なびかないように……
兄さんに、私のことを強く強く刻み込む。
それが、目的です。
……とてもずるい作戦です。
兄さんを騙してしまうし、天道さんに対しても、正々堂々とは言えないような作戦です。
それでも……
私は、兄さんの『彼女』でいたいです。
いつか、『本物』になりたいんです。
そのためなら、私は……
「どうですか? 兄さん」
「んー……まあ、それしかないのか? でも、勉強を疎かにするわけにはいかないぞ?」
「はい、それはもちろんです。放課後は、今まで通り、勉強をしましょう。その上で、イチャイチャしましょう」
「うん? そんなこと、できるのか?」
「登校する時とか昼休み、一緒にお昼を食べる時とか、色々とタイミングはあると思いますよ。それに、デートをするだけが恋人らしいことではありません。日常のさりげないスキンシップで、恋人らしさを見せることは、十分に可能だと思いますよ」
「そう言われてみると、そうかもな。恋人なんていたことがないから、そういうの、よくわからないが……」
「私に任せてください。女の子は、そういうことは色々と詳しいんですよ?」
「うーん」
これだけ背中を押したのに、なぜか、兄さんは乗り気ではありません。
どうしてでしょうか?
説得力もそれなりにあると思いますし、いつもの兄さんなら、了承してくれると思うのですが……
もしかして、すでに天道さんのことを想って!?
「それって、今までとは違うパターンのイチャイチャをする、ってことだよな? それ、結衣はいいのか? 俺なんかと、そんなことしていいのか?」
兄さんだからいいんですよ!
兄さんと思う存分、たっぷりと、これ以上ないくらいにイチャイチャしたいんです!
……そんなことを反射的に叫びそうになってしまい、ぐっと自制しました。
「ま、まあ、緊急事態ですからね。兄さんが相手というのは……まあ、仕方ないといいますか、我慢するといいますか……むしろ、望む……ではなくて。この際、気にしないことにします。だから、兄さんも変な勘違いをしないでくださいよ? 私が、の、望んでやっているとか、喜んでいるとか……そんなことはありませんからね!?」
「ああ、わかってるよ」
少しは勘違いをしてくれてもいいのに……
はあ。兄さんは、相変わらず鈍感ですね。ちょっともどかしいです。
でもでも、うまくいかないのが『恋』というもの。
難しければ難しいほど、乙女心は燃え上がるものなんですよ。
覚悟してくださいね、兄さん♪
「結衣がイヤじゃないなら、俺は構わないよ。ただ、よくわからないから、色々と教えてくれると助かる」
「はい、私に任せてくださいね、兄さん♪」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
この回から、しばらくイチャイチャが続きます。
勉強しろよ! というツッコミはなしで。




